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2013年05月24日
DSC07176 / gigijin
雑誌・中国週刊の記事「米国に行って“異地高考”を受ける」が話題となっている。北京戸籍を持たずに北京に住む父子が、18年間戸籍制度に苦しめられたあげく、最後に大逆転を決めるという筋立ての実話だ。原文は非常に長いので、ざっくりとまとめてご紹介したい。
■息子の教育にささげた18年間
1995年、張建党さんは故郷の安徽省から北京市に引っ越した。妻が北京大学物理学部の博士課程に合格したためだ。翌年、2人の間には息子の張図くんが生まれている。1998年、妻は奨学金を得て米国に留学。その3年後に離婚を切り出してきた。養育権をめぐる争いの末、張図くんは父親の下で暮らすこととなった。
父と子の2人暮らし。張建党さんにとって息子の成長が生活のすべてだった。
鉄の芸術品を作る工房を経営していた張さん、お金に余裕ができると、息子を数学教育で有名なアジア運動会村センター幼稚園に入学させた。その後、小学校に入る時は3万元(約48万円)の寄付金を支払い、子どもを現地の有名校に入学させている。「学校から表彰状ももらいました。高尚な行為ですってね」と張さんは笑い、「北京戸籍の親ならばこんな金は払わなくてもいいんですが。まあ、仕方がない。借読費(戸籍所在地以外で教育を受けるために必要な費用。2010年に「小学校管理規定」から削除された)ってやつですよ」と続けた。
北京戸籍がなくても金さえあればどうにかなる。張さんはそう思っていたが、中学受験で早くも誤りをしる。張図くんは成績優秀。そこで有名校の北京八中を受験した。入学試験の成績も上々で入学はもう間違いなしと思われた。だが面接の時、北京戸籍がないとしるや、試験官の態度は一変。戸籍がなければ北京で大学受験を受けられないし、そんな面倒な問題を抱えられないとの答えだった。
息子の合格は間違いなしと思っていた張さんは大慌て。四方八方手を尽くして、別の学校を探した。、北京市十三中分校に合格することができた。入学試験で張図くんはほぼ満点の好成績。実験班(優秀な生徒を集めたクラス)に配属された。
次は高校受験だ。受験のその年、張さんは再婚した。その妻の戸籍が北京市だったため、「北京市戸籍を持たない場合でも高校を受験できる条件」に合致し、名門の実験中学に合格することができた。高校でも張くんは成績優秀で、校内の順位は30番前後。
実験中学からは毎年70~80人が清華大学に合格するだけに、中国一の名門大学に合格する学力は十分持っている。ないのは戸籍だけだった。戸籍がある安徽省に戻って受験しようにも、もう故郷に親戚はいない。張さんも仕事があり、息子とともに故郷に帰ることは難しい。
■最後の戸籍の壁、大学受験にはじき返された
2010年4月、北京市戸籍を持たない人々の求めに動かされ、北京市教育委員会は中学受験において戸籍を持たない人でも戸籍保有者と同等の待遇にする制度を今後3~5年以内に導入すると発表した。
だが戸籍の壁の高さを知っている張さん、そう簡単な話ではないと考え、自ら運動に加わることにした。街頭で制度改革を訴える署名集めを繰り返し、また香港・鳳凰テレビの番組にも参加し、自らの体験を話すこともした。テレビを見た「異地高考」(戸籍所在地以外での大学入試)反対者はネットで「あの発言者は誰だ、探し出せ」「こらしめてやれ」と書き込んでいる。
ちなみに「異地高考」に反対する人は少なくない。現在、大都市の戸籍を持つ受験生はきわめて有利なポジションにあるが、「異地高考」が導入されれば新たな競争相手が大量に出現。進学の枠が失われてしまうと恐れている人が多い。
さて、抗議活動を続けていた、そんなある日のこと、中国教育部に陳情に行こうとする張さんを、息子が止めた。危ないからもう行かないで欲しいというのだ。口げんかになったが、その時、張図くんは「あなたのためにボクは母親を失ったんだ。次は家を失うようなことはしたくない」と叫んだ。
結局、制度は変わらない。張さんは息子の中国国内での大学受験をあきらめた。目指すのは海外の大学だ。張くんは海外留学を目指す国際クラスに移った。同じクラスの生徒ははじめから留学を目指している子や、成績が悪くて国内のいい大学に入れない子たち。戸籍のためやむを得ず、国際班に入ったのは張くん一人だった。
留学という方針は決まった。だが問題は費用だ。張さんはこの時、仕事を替えて北京市近郊でのイチゴ農園を経営していた。週末には農園に客を迎えてイチゴ狩り、平日は市内各所の露店で販売する。1日1000元(約1万6000円)の利益になるというが、イチゴのシーズンは年に5カ月だけ。それで留学の学費を稼ぎ出さなければならない。
■華麗なるどんでん返し
焦る張さんのもとに思いもよらぬ吉報が届いた。米国に住んでいる前妻から電話があったのだ。彼女は言った。「私にできるただ一つのことは、息子に身分を与えることだけです」、と。
彼女もすでに再婚し、米国籍を取得している。米国の法律だと両親のいずれかが米国籍を取得しており、かつ5年以上居住していた場合、16~18歳の子どもは米国籍の取得が申請できる。張図くんは完全に該当しており、国籍の取得に問題はないとみられる。すでに国籍取得の手続きは始められており張図くんはこの夏にも米国にわたる予定だ。
息子の出国準備を進めながら、張建党さんは「中国教育部による我が国の高等教育学校における外国人留学生受け入れの基準化に関する通達」を調べた。「中国に定住する中国系外国人(華人)は“外僑居留証”を取得した場合、中国の大学入試を受験できる」と規定されている。問い合わせてみると、確かに受験が可能。それどころか、プラス10点の優遇措置まで受けられるという。
北京市に戸籍がないという理由で大学受験から排除された張図くん。それが米国籍を取得することで、今度は優遇措置まで受けられる身分へと逆転したのだった。
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