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「発改委の都市化草案を李克強が否決」ロイターのスクープとその背景に潜む政治問題―中国

2013年05月26日

■「発改委の都市化草案を李克強が否決」ロイターのスクープとその背景に潜む政治問題―中国■
 

shanghai
shanghai / picfile


■ロイターのスクープとその波紋


ロイターのスクープ「中国都市化計画に遅れの可能性、地方政府の債務拡大懸念が浮上=関係筋」が話題となっている。

「中国は、2012年に13年ぶり水準に落ち込んだ経済の活性化に向け、向こう10年間に40兆元(6兆5000億ドル)を投じ、4億人を都市に移住させるプロジェクトを進めている」が、地方政府関係者はこれ幸いと独自のインフラ投資に走りかねない気配。

というのも、土地を担保に金を集めて投資する中国の成長モデルがこのままでは破綻しかねないと懸念されており、中央政府はその抑制に必死。今までのようなやり方では金集めが難しくなったところで、「李克強旗振りの都市化」という錦の御旗をゲットできれば、気持ち良く投資ができるではないか、という筋書きだ。

都市化計画を起草する国家発展改革委員会の関係者は「草案はまだ出来ていないのに否決されるわけがない」と火消しに走っている。


■フォーブスのまとめが秀逸すぎる件

この騒ぎについて、管見の限りもっとも優れた解釈を提供したのが、フォーブスの記事「“都市化草案否決”は誤解、40兆元投資は誇張ではない」だ。筆者はメリルリンチ大中華圏経済研究部主管・主任エコノミストの陸挺氏。その論点はいかのとおり。

・なんかまことしやかに都市化のために40兆元(約640兆円)投資するって言われているけど、この数字の出どころは民間シンクタンクの推定。改革発展研究院の遅福林院長が記事で「今後10年で都市人口を4億人増やすなら、一人当たり10万元かかるとしてざっと40兆元やな」と書いたのが一人歩きした。

・発展改革委員が起草中の都市計画草案は、国務院やら関連部局との間でひんぱんにやりとりしている。李克強首相も含め国務院から指示はあっただろうが、それは否決ではない。

・40兆元(約640兆円)という巨額の数字がでるとみんなびびるかもしれないが、実はそんな変な話じゃない。中国は2012年に7億元(約112兆円)をインフラ投資に使っている。年8%ずつ予算が増えるという過程で計算すると、今後10年間でインフラ投資には115億元(約1840兆円)が投じられることになる。

・中国は今までだって都市化が進んできた(毎年、総人口の1%が都市人口になっている)し、政府が都市化推進プランを出そうが出すまいが、インフラ投資の一部は都市化に使われている。なので都市化のために40兆元まるまる支出が増えるという考えは間違い。


■始まる前から逆風、李克強の目玉政策・都市化

「火のない所に煙は立たない」というが、ロイターのスクープは都市化政策に対して、なお多くの異論反論があることが浮き彫りにするものとなった。というか、そもそもこのスクープ(?)自体が都市化政策反対者からのリークという可能性もありそうだ。

中国共産党中央党校の機関紙・学習時報は20日、「中国都市化発展のリスク」を掲載した。「今のまま都市化すれば、都市と農村という差別を都市内部の差別に変えるだけ」「生活コストが高い都市に農民を放り込んでも生きていけるのだろうか」「これまでの都市化は耕地面積を食いつぶしてきたが農民の数は減らしておらず、都市民の利益にしかなっていない」「このまま都市化を進めれば矛盾は高まるばかり。もっとゆっくりとした都市化を」などなど、李克強の目玉政策である都市化政策にくってかかる内容となっている。

学習時報で指摘された内容以外にも、「農民を都市に移住させても仕事はあるのか?」「農村に新たな都市を作りまくってもゴーストタウンができるばかり」といった批判は良く聞かれる。


■都市化ってなんなのさ?

上述のフォーブスの記事でも「都市化計画はいまだ議論の残る問題」だと指摘している。

(1)第一に都市への移住を希望する農民の土地の権利をどのように処理するか?政府は都市化の前に農村の土地権利制度改革を始めるのか?

(2)いかにして戸籍制度の秩序だった緩和を実現するのか?

(3)中央政府と地方政府が都市化の拡張地域を決定するのか?それともマーケットの力に任せるのか?

(4)正しい都市の規模、分布はどのように決めるのか?多くの小都市の発展を奨励するのか?それとも規模が大きく効率の高い都市を奨励するのか?

(5)地方政府は農民の土地を取り上げて、都市への移住を強制するのか。もしそれが不可能だとしたら、土地の占有をいかにして阻止するのか?

(6)都市化け関連のインフラ投資、農民向け低所得者住宅投資の融資はどのように実施するのか?

こうした問題について、政策決定者、ブレーンの間では意見が大きく異なっているという。

まあ言い換えるならば具体的には何も決まっていないということだ。中国ではこれまで都市化比率が発表されてきたが、それは全人口に占める都市在住人口の比率を指している。基本的にはこれを高めることが都市化となるはず。

ただし、都市化をめぐる議論においては「都市に住む農村戸籍保有者=出稼ぎ農民に都市戸籍を与えることが都市化である」という人の都市化と、「新たな都市を作り上げることが都市化である」という物質的な都市化との議論がごったになっている。


■都市化のメリットは明らか、問題はやり方

そもそもなぜ都市化が必要かというと、以下のようなポイントが考えられる。

・農民1人が生み出すGDPより都市民1人が生み出すGDPのほうが多いので、都市民の数を増やしたほうが経済は成長する。

・中国農業の効率化を考えなければならない時代となった今、農村人口は多すぎる。

・農村戸籍を持っているが、生まれてからずっと都市に住んでいる出稼ぎ農民(いわゆる新世代出稼ぎ農民)が増えている今、彼らは戸籍がないために公共サービスを享受できないという矛盾の解決。

メリットは明らかだが、ポイントとなるのはそのやり方。特にいかに混乱を生じさせずに移行するかという手順の問題である。当然、習近平・李克強体制の10年で終わるような仕事ではないのだが、少なくとも道筋をつけることができるのか。反対者も多ければ、都市化で甘い汁を吸おうと考えている輩もごまんといるだけに、大変な仕事であることは間違いない。

この難行をうまく乗り越えることができるか、これこそが中国の未来を決定する最重要問題である。習近平の「中国の夢」よりも、李克強の「都市化」に注目するべし、だ。

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