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雇用、戸籍、土地……複雑な問題が絡み合う中国の“宿題”都市化(岡本)

2013年05月30日

■中国都市化の問題■

Chongqing Skyline
Chongqing Skyline / sanfamedia.com


■農村―都市の二元化構造と改革の難しさ


新政権発足以降、都市化が注目されています。都市化は経済成長の空間的支柱であり、GDPの拡大、環境保護などにも有益ととらえられています(グレイザー2012)。

ただし、中国の都市化は簡単ではありません。それは、計画経済から市場経済へ移行する中でもっとも難しい問題を数多く含んでいるからです。市場経済下では、意思決定の自由な農民が就業機会を求めて都市部に移住し、政府は増加した人口に対して都市の公共サービスを提供するというのが都市化の流れです。

中国では、計画経済時代に農民は農業生産、都市部は工業生産の役割を期待され、就業形態の固定化、移住を阻止する戸籍によって二元化され、土地も農村集団所有(農村の土地)と国有(都市部の土地)に分けられました。これにより農村―都市の二元化構造ができあがります。


■出稼ぎ農民の増加とその矛盾

1978年以降の改革開放政策下で、農民の都市への出稼ぎは増加しました。農民工が中国の輸出や工業生産を支えました。市場化の流れで人が移動する一方で、都市化の阻害要因となったのが、就業、戸籍、土地の問題でした(易小光等2013)。

これを詳しく見てみましょう。

農民工の就業は、いわゆる都市住民が行わない3K職場です。賃金、雇用、保障は不安定であるとともに教育水準の低さなどから安定した就業が得られません。農民工の第二世代は教育もよく受けられていないために、職業による差別が世代継承されやすいです。

戸籍については一部地域で戸籍の一本化が行われてはいるものの、基本管理する方向は変わっていません。都市が受け入れる農民の条件は就業が安定しており、専門的な職をもっていたりする、いわゆる勝ち組農民のみが対象です。それ以外の都市部への流れ込みは管理されています。

たとえ、普通の農民工が戸籍改革によって居民戸籍(農業戸籍と非農業戸籍の一本化した戸籍)をもらったとしても、就業差別はそのままですし、都市で年金保険、失業保険がもらえません。そのため農民にとって都市は一時的に滞在する場所になってしまいます。また社会保障がなければ土地が唯一の社会保障となってしまい、農村で請け負っている土地の請負権を手放すわけにはいきません。

一方で農民工増加による都市化の進展は、住居や雇用場所(企業や工場)のための土地が必要になってきます。一方的な土地の没収は農民の反感を買うとともに、農地は農業生産の維持目的があるため、農地を都市開発のために接収するにも限界があります。また都市化の土地は国有地であることが必要で、農村集団所有の農地を国有地に変えるということも必要になってきます。


■都市化推進の制度改革

以上の状況から、中国の都市化には以下の制度改革が行われています。

(1)就業支援。農民工のための職業訓練や創業支援など。
(2)戸籍の一本化。それとともに条件を緩めながら大都市の戸籍取得を可能にする。
(3)農民工への社会保障制度の充実。農村と都市の社会保障を一体化する。
(4)都市化用地の獲得。耕作放棄地の農地と都市周辺部の土地を交換するなど、農地を一定に保ちつつ都市化の土地を取得する。

制度改革の肝心は、現在農民を都市にどのように定着させるか、です。就業機会がないと都市にはこないし、都市に来ても社会保障や教育などの公共サービスが平等に受けられなければ、都市に定住はできません。戸籍は安定した仕事と定住地がなければ一本化しても形式だけになってしまいます。

移住条件を開放あるいは緩めても、都市に定住する農民工を受け入れる「容量」(公共サービスの提供容量)があるかどうか、都市政府の財政に依存します。都市化に必要な土地も二元化した土地管理システムのもと、農民に不安を与えることなく、農地を一定に保ちながら収用していかなければならりません。

このように就業、戸籍、土地という3つの制度要因が相互に絡み合っています。絡み合った糸をほぐすかのように、就業、戸籍、土地の同時解決が中国都市化にとって必要です。でも以上のようにこれは簡単ではないのが現状です。


■成都市と重慶市、都市・郷村統合総合改革試験区

習近平、李克強が都市化を打ち出したとしても、前途は多難です。ただ現在、具体的な実験として、2007年に全国統筹城郷総合配套改革試験区(都市・郷村統合総合改革試験区)に批准された成都と重慶で、改革が進められています。重慶市長は重慶の改革が全国に推し進められるべきと主張しています(還球時報)。薄熙来が失脚しても重慶は、都市化の実験場としてこれからも注目を集めそうです。

ちなみに、重慶の地票制度については、 kinbricksnowさんがつぶやきをまとめたもの(重慶市の地票制度について梶谷懐さんが優しく解説してくれた件)、梶谷さんのブログ(コース先生もびっくり!―ポスト薄の重慶と「地票制度」の実験)がわかりやすいです。

<参考文献>
エドワード・グレイザー(山形浩生)(2012)『都市は人類最高の発明である』NTT出版
易小光等(2013)『統筹城郷発展的就業、戸籍与土地利用制度聯動研究』中国経済出版社

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*本記事はブログ「岡本信広の教育研究ブログ」の2013年5月30日付記事を、許可を得て転載したものです。

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