■重慶の「地票」取引の仕組み■

Chongqing Skyline / sanfamedia.com
■土地問題解決に取り組む重慶「地票」制度
「中国都市化の問題」で,就業,戸籍,土地問題の解決が重要だと述べました。土地問題の解決には以下の二つの課題があります。
(1)農地は減らさずに都市面積を増やす。
(2)都市化の費用(農民の社会保障整備や都市開発など)を調達する。
この二つの課題を一挙に解決しようと考えられたのが「地票」制度です。梶谷さんのブログ(
コース先生もびっくり!-ポスト薄の重慶と「地票制度」の実験-)でも解説されていますが,具体例をあげて説明してみたいと思います。(私自身がよくわかっていなかったので,易小光等(2012)であげられていた重慶市江津区孔目村の事例をググりまくって調べてみました。)
■孔目村の事例孔目村は,「地票」制度の実験場として注目された村です。重慶市内から自動車で一時間ほどのところにあります。人口は8000人ほどで,そのうち1/3程度が出稼ぎに出ており,多くの土地が耕作放棄地として存在していました。また宅地や郷鎮企業用建設用地として残していたところも全然使われていませんでした。
ここで,土地利用が図のように耕作放棄地3,宅地,公共施設用地が3,全部で6の土地があったとします。(図参照)

まず宅地や耕作放棄地,企業用建設用地,村の利用されていない公共施設用地などをすべて農地に戻します。同時に村に住んでいる人々を「新農村建設」のスローガンのもと一部の地域に集めて住まわせるようにしました。分散して平屋に住んでいた農民たちをアパートに住まわせるといった具合です。
これにより農地が5,新農村建設に使われた土地が1となります。これにより農村で無駄になっていた土地を活用することにより,農地が5増えることとなります。この農地5が「開発権」=地票となります。
この地票を2008年に新設された重慶市内の地票取引所(交易所)で,売りに行きます。買い手はいわゆる国有の都市開発デベロッパーであったり,都市部の企業です。都市開発で都市周辺の農地を必要としている人たちでした。この人たちが地票を購入することによって都市部周辺の都市建設用地の使用権を手に入れることとなります。(図の下)
この制度の革新的なところは
(1)農地を減らすことはないということ
(2)僻地農村の農地であっても平等に都市の開発権に変わるということ
(3)農地の地票の販売代金が,農民への土地補償,都市に住んでいる農民への社会保障の原資,都市開発のための資金になるということ
です。
■地票制度の問題点これによりすべての問題が解決したように見えますが,やはり中国,さまざまな問題を抱えています。
土地を農地に戻す作業や農地であることを検収するのは農村で作られた集団所有制企業です。孔目村では「恵農公司」という農地区画整理事業を行う企業が設立されました。この公司の目標は,重慶市の都市計画(都市化に必要な土地の量)にしたがって,農地を「生産」しなければなりません。つまり農地区画整理事業を行うわけですが,当然無理な宅地や耕作放棄地(出稼ぎにいっていない人の土地)を接収することによって農民の反対にあいます。
また地票取引の収入は85%を農民への補償,15%を都市での社会保障や農地開墾費用に当てられることが決められていますが,やはり補償に向かわずに恵農公司が上前をピンハネしているようです。新農村建設ということで集合住宅に住まわされることになった農民も住む面積が小さくなったなどの苦情も出ます。
以上の問題は地票取引が出る前から存在しているので,そんなに目新しいものではありません。むしろ注目すべきは,農地として価値があるのかないのかにかかわらず平等な都市開発権に変わってしまうことです。土地の質にあった価格付けがなされず,むしろ需要側,都市の土地を確保したい開発したいという都市部開発業者の需要の大きさで値段が決定される可能性があります。辺鄙で農地としての価値がない土地でも地票として取引されてしまいます。
これに関連して地票の質の問題も発生します。農地としての開拓,地票取引所に出品できるかどうか価値を検査するのは,同じ企業,つまり恵農公司です。生産と質の管理を一企業が行なっています。地票として売ることが目的になると農地になっていない農地までもが地票として売りに出されたり,辺鄙な土地で農地として使えない土地までもが地票になってしまいます。
「地票」取引の醍醐味は市場価格にそった取引でしょう。取引量が増えてくれば地票の質によって価格差がついてくるようにはなると思います。しかし地票を場所に関わらず同じ価値として取引することは農民の補償や社会保障の財源,都市化の費用を調達する意味ではメリットがあるのも事実です。
<参考文献>易小光等(2012)『破解中国発展之困局:重慶実践論』中国経済出版社その他各種報道より。
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