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「紙質がよい」「印刷が普通」中国人読者が日本ラノベを評価する意外なポイント(阿井)

2013年06月12日

■中国で読まれる前から評価されるライトノベル■


■中国ラノベの雄?!湖南美術出版社

アマゾン中国でライトノベルの翻訳版を探していたら関連商品にビブリア古書堂の中国語版(タイトル:古書堂事件手帖)が出てきたのですが、その発行元が湖南美術出版社だったことにちょっと驚きました。

20130622_写真_中国_ラノベ_

湖南美術出版社とはその名の通り美術関係の書籍を扱う出版社なのですが、角川出版社の中国支社『天聞角川』が輸入するライトノベルや漫画などを出版しています。もともと中国で『涼宮ハルヒシリーズ』を出版していた上海訳文出版社から権利を買い取ったそうで、4年ぶりの新作となった『涼宮ハルヒの驚愕』も同社から出版されました。角川の中国語漫画/ラノベ雑誌『天漫』も同社が発行しています。
 
角川文庫以外にも、角川グループが関係するレーベルのライトノベル、例えば電撃文庫(『とある魔術の禁書目録』や『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』など)やファミ通文庫(『バカとテストと召喚獣』など)などのライトノベルも発行しています。なので、メディアワークス文庫の『ビブリア古書堂』が湖南美術出版社から出るのは当然なのですが、日本だとレーベル違いで住み分けができているように見えるのが、中国では全部、湖南美術出版社から出版されるので節操がないなぁと思ってしまったわけです。 


■ラノベ出版のパートナー企業

もっとも角川関係のライトノベル全てが湖南美術出版社から出ているわけではないのですが。例えばファミ通文庫の『文学少女シリーズ』は人民文学出版社から出ています。ただ完全には網羅しきれていないのですが、今後他の出版社に頼むことはないのではないでしょうか。 

他のレーベルはと言うと、GA文庫は『織田信奈の野望』を安徽少年児童出版社から、『這いよれ!ニャル子さん』を測絵出版社からと分けて発行していますし、ガガガ文庫の『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』が近日安徽少年児童出版社から出るようです。また、先日紹介した『僕の妹は漢字が読める』などの出版レーベルであるHJ文庫は吉林美術出版社を主な出版元に選んだようです。
 
湖南美術出版社などが参入する以前からライトノベルは現地の出版社から出されていましたが、今後は1つのレーベルが出版社1社のみと契約するか、あらゆるレーベルのライトノベルが少数の出版社を選んで独占状態になり、本の規格なども統一されるんじゃないでしょうか。
 
台湾では現地に出版社を置く角川を除くどんなレーベルのライトノベルも尖瑞出版社か青林出版社からほとんど出版されているみたいだし。


■中国人ファンがラノベを評価する意外なポイント
 
日本のライトノベルを代理出版する出版社となるために何が必要かと考えると、翻訳の質はもちろんのこと一定の発行量の確保や広告力も大事ではありますが(その点『天漫』という雑誌媒体を持っている天聞角川は強い)、書籍本来の品質も非常に重要です。
 
例えば日本のアマゾンのレビューで『紙質が良いから☆5つ』って評価はあるでしょうか。 中国のアマゾンだとよくあります。

(訳)以前の出版物と比べると、カバーが合っていないし、文字の濃淡があってインクにムラがあり、触った感じも以前と違って明らかにページが薄くなっており、品質が悪くなっている。何か原因があるのかもしれないが、最近の天聞の本は以前のものより全体的に劣っている。印刷工場の関係かも知れないが、角川には品質をずっと保持してもらいたい。
《俺の妹がこんなに可愛いわけがない11巻レビューより》

(訳)中身はまだ読んでいないが、包装がとっても海賊版っぽい。
表紙はペラペラだし、紙質は普通、印刷された文字の効果も普通。だけどカラーページは良さげだ。ビニールカバーがしっかりしていなかったから上のほうがすぐに剥がれた。
《僕の妹は漢字が読める1巻レビューより》

(訳)印刷の質は天聞角川に遠く及ばない。
カバーはガバガバだし、扉絵は地味だし、全然ライトノベルに見えない。(以下略)
《這いよれ!ニャル子さん2巻レビューより》

これはライトノベルに限った話ではなくミステリのジャンルでも言われますし、中国国内の書籍でもこの問題がつきまといます。紙が安っぽい、めくりづらい、文字のフォントがおかしい等など書籍の内容とは無関係の部分に不満を表すのは正規版が国内に横行する粗雑で安価な海賊版と対して変わりなかったことへの怒りかもしれません。

■日本の出版社の皆さんにお伝えしたいポイント

中国ではデータ形式で尚且つ無料で簡単に作品を読むことができるから、購入するその本は既に読み終わっているものかもしれず、形として残る書籍をわざわざ購入するのは記念品や保存版の収集といったマニア的な意味合いがあるのかもしれません。

とにかく、翻訳の質が良くても読まれる前から☆1つの評価を付けられる可能性があります。読者の中には先に日本語版や台湾語版を手に入れている人もいるだろうし、他の正規版と比較すれば中国語版の粗さが更に際立つことになるでしょう。

本の作りは読者が書籍を購入する条件の一つになっていますが、今後は日本側の出版社も中国で書籍を代理出版してくれる出版社を選ぶ指針にするんじゃないでしょうか。印刷がダメだから売上が落ち、ひいてはその原作の評価まで落とすことがないよう日本のライトノベルを出版する出版社は気をつけていってもらいたいです。

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*本記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の2013年6月4日付記事を、許可を得て転載したものです。 

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