中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2013年06月14日
Panning shot of fish / Takashi(aes256)
かつて「保八」という用語が注目されていた。中国は8%成長を維持しないと、雇用を確保することができず、社会は混乱に陥るというものだ。結局、この「保八」という用語に妥当性があったのかどうかはわからないのだが、「中国は高成長するか、死かの二択」といった雰囲気を醸し出していて、ドラマチックな物語として中国経済を描き出すには格好の材料だったように記憶している。
というわけで、高成長を続ける中国、止まったら死ぬだけ、ハードランディングやで、泳ぐのやめたら死ぬマグロと一緒やで、的な見方が醸成されていたのだが、中国経済の先行きが怪しくなってきた今、ゴールドマンサックスが「中国政府主導による穏やかな減速」という見方を打ち出していて、激しく面白い。
ゴールドマンサックス・ストラテジスト:中国経済の成長ペースは6%に下落するだろう
ウォールストリートジャーナル(英文、中国語)、2013年6月13日
過去数週間、輸入から発電まで各分野で発表された統計は人々を失望させるものだった。ゆえに専門家らは中国経済に対する予期を相次いで引き下げている。
専門家の多くは今年の中国の経済成長率を7~8%と予想している。中国は過去10年にわたり、他国を圧倒的に引き離す二桁ペースの成長を続けてきた。一部アナリストは中国経済は今後悪化すると予測している。
ゴールドマンサックス・グループの中国ステラジスト、Jiming Ha氏は10日発表したリポートで、中国はすでに保八(8%成長維持)の時代に別れを告げたと指摘した。たとえ統計の数字は8%を下回っていなかったとしても、実際の成長力はこの水準(8%未満)にまで低下している。中国は経済成長ペースの原則という事実を受け入れる必要がある。2020年までの7年間、中国経済の平均成長ペースは6%前後に減速すると予想している。
8%成長を維持しなければ、社会不安を消すことができない。これは従来、一般的だった考えだ。現在、中国政府による成長目標は7.5%だが、Ha氏は7%でも政府が受け入れられる範囲だろうと考えている。ただし7%を下回る場合、心理的な限界を飛び越える必要がある。なぜならばそれは中国の経済成長ペースが過去20年あまりで最低水準にまで低下することを意味するからだ。
過去10年間、中国経済の栄光は主に投資の増加によってもたらされてきた。2012年のGDPに投資が占める比率は47%。これは1950年代の大躍進時期を上回るものだという。
Jiming氏は言う。中国経済は往々にして投資周期によって決定されている、と。好調時には投資はGDPの伸び率を上回るペースで増加し、深刻な生産能力過剰と浪費を生み出す。投資の急減速を特長とする後退期に、これらの生産能力過剰は急ピッチで解消されることになる。
過去12年間、中国ではGDPに占める投資の比率が右肩上がりで上昇を続けている。この期間は通常の経済秋期をはるかに超えるものだ。Jiming氏と彼の同僚はこう推測している。本来ならば中国経済は2008年前後に調整期を迎えるはずだった。ところが世界金融危機の爆発、その後の中国政府による大規模な景気刺激策によって、そのサイクルは中断されてしまったのだ、と。
ゴールドマンサックスの計算では、もしGDPに占める投資の比率が正常な水準、例えば40%に減少すると仮定した場合、2020年時点の経済成長率は4.5%に減少。今後7年間の平均成長率は5.7%となり、多くの予想を裏切る低水準となる。例えば、国際通貨基金(IMF)の先日の発表では、中国は2018年まで8.5%の成長を維持すると予想されている。
過剰投資は持続不可能なもので、ひとたび減速すれば巨大な衝撃を生み出すとの懸念、それは何も今初めて唱えられたものではない。北京大学の金融学教授、Michael Pettisは現在の中国と旧ソ連を比較している。投資に依存して高成長を続けた旧ソ連は西側諸国を驚かせたが、後にトレンドは逆転した。1960年代末からというもの、旧ソ連の生産性は停滞。またたく間に旧ソ連は停滞の代名詞となった。
Pettisは中国悲観論で知られる人物だが、ゴールドマンサックスはそうではない。彼らのような投資銀行はむしろ楽観派に属している。楽観派だった陣営が悲観派に鞍替えしようとしている今は、警戒せずにはいられない状況と言えよう。
■補足:8%成長は必要ない?
短期的に見ると、経済活動は不信とはいえ、中国の新たな指導者はこれまでなんども中国は成長ペースではなく、成長の質に重点を置くべきだと発言している。ゆえに短期的に中国が緩和政策をとる可能性は低い。習近平主席はオバマ大統領との首脳会談時、第1四半期の7.7%成長に満足していると語っている。李克強首相は、中国は景気刺激策に頼るべきではなく、市場構造に頼るべきだと発言した。ゆえにレポートは「現段階で刺激策が発表される可能性は低い」と結論づけている。長期的に見てみよう。012年11月開催の第18回中国共産党全国代表大会(十八大)では、2020年のGDPを2010年比で倍増させるとの目標が打ち出された。最初の2年間、つまり2011年の成長率は9.3%、2012年は7.8%と推移。つまり2013年から2020年は6.8%成長で目標を達成する計算となる。ゆえに2014年以後、中国政府は7%以上の経済成長を維持しようとはしないだろう。
原油一バレル200ドルとぶち上げた後も、下落し始めましたね。