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2013年06月17日
■中国のネット文学
中国・ネット文学業界の地殻変動が注目を集めている。
中国のネット文学について日本ではあまり注目されていないが、“個人が自由に創作できる、中国では数少ないジャンル”であり、”無料の海賊版ではなく、有料コンテンツを消費する習慣がユーザーに根付いている数少ないジャンル”でもある。
ネット文学のユーザー数はすでに2億人を突破、 ドラマやゲームの原作供給源としての地位も確保しつつある。財新網の記事「ネット文学変局」を主に参照した。
■業界最大手から人材流出、新会社を設立=告訴され創業者は逮捕
中国ネット文学業界のトップを走るのが盛大文学。かつて中国ネットゲーム業界のトップ企業だった盛大網経が起点中文網など複数のネット文学サイトを買収。市場シェア70%超の地位を築いた。2012年の売り上げは8億9700万元(約139億円)に達したという。将来的には50億元(約774億円)規模の市場に発展すると予測されている。
その盛大文学の売り上げのうち、4割を占めるのが起点中文網。もともとは独立したネット文学サイトだったが、2004年に盛大網経が買収した。
買収後、速やかに上場されると期待されていたが難航、これが盛大と起点中文網の亀裂の起点となった。スマートフォンやタブレットの売り上げが起点中文網に入るのか、それとも親の盛大文学に入るのかでも揉め、矛盾は決定的なものとなっていく。
2013年1月、起点文学網の版権副総裁・羅立が辞職。その後、起点中文網の高官は次々と辞職していくことになる。そして5月、羅立とやはり起点中文網の高官だった楊晨は新たなネット文学サイト・創世中文網の立ち上げを発表。中国ナンバーワンのIT企業・テンセントと提携することも明らかとなった。
5月30日に創世中文網はサービスを開始したが、その3日前の27日、羅立は逮捕される。告発したのは盛大文学。同社が保有する版権を安値で他社で売却した容疑で告訴した。
■ネット文学サイトの勝敗は編集者の力で決まる
以上が創世中文網の立ち上げとそれに関する告訴騒ぎだが、中国のネット文学の盛り上がりを知らない日本人にとっては騒ぎそのものよりも、中国のネット文学の隆盛そのものがまず興味深いトピックではないだろうか。
さらに面白いのはネット文学サイトの勝敗を決めるのは「編集者と有力作者」だということ。実は起点中文網の分裂はこれが初めてではなく、これまでも有力編集者が離脱し、17K、縦横中文網という新サイトを立ち上げ、またたく間にシェアを伸ばしている。
それというのも、ネット文学サイトは、技術力ではなく、作者の筆力、そして作者を見極め、掘り出し、育成する編集者の力が勝負の世界だという。「最初の3万字を読んだ時点で、売り物になる100万字の作品を書けるかどうか見極めるのがよい編集者」とある業界関係者は語っている。
創世中文網の立ち上げにあたっても、起点中文網を辞めた編集者たちは飛行機を乗り継ぎ中国全土を飛び回った。「大神」と呼ばれる超人気作家の移籍を求めるためだ。
■中国ネット文学の隆盛
毎日毎日更新を続け、読者の反応を見ながらストーリーを修正しつつ、連載を続ける中国のネット文学は、日本のケータイ小説とよく似た存在とも言われてきた。しかし日本のケータイ小説がきわめて短期間で露出を増やし消費されていったのに対し、ネット文学は玄幻小説(中華系のファンタジーだけでなく、欧米系ファンタジー、SF、武侠、アニメやドラマの二次創作的ファンタジーまで。ブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」より)中心から、恋愛小説や時代小説、さらに女性向けのソフトポルノ小説、耽美小説などなど、ジャンルを広げているようだ。
海賊版が横行しコンテンツにお金を払ってくれないのが中国のユーザーだが、ネット文学に関しては料金が安いこともあり(1000文字で2円程度)、また読者が作家を支えようという意識も高いこともあり、比較的課金する習慣ができている。また中国最大手の携帯電話キャリア・中国移動の手機閲読など携帯電話会社も有料ネット小説サービスを展開しており、スマホだけではなく、フィーチャーフォンでも一定の読者を確保している。
作者のステータスも大きく変化した。当初は朝から晩まで小説を書き続けても金にならない……的なネット作家貧乏物語ばかりが伝えられていた。今でも大多数の作者は同じ状況だと思われるが、中には年100万元、1000万元(約1億6000万円)を稼ぐ「大神」と呼ばれる作家も増えつつある。
盗墓筆記で一躍中国でも一、二を争う作家となった南派三叔、ドラマ「甄嬛伝」(邦題は宮廷の諍い女)の原作者である流瀲紫が成功者の代表格であろうか。今回、創世中文網の後ろ盾となったテンセントもネットゲームやドラマの原作収入を見込んでいるという。
■中国ネット文学への期待
中国のネット文学は検閲的縛りもなく、また一人の作者が狭い部屋で必死こいてキーボードを叩いていれば創作ができるという夢の世界。読者を確保するための死屍累々の残酷物語を勝ち抜いた人気作家が次々と登場している。
1人のクリエイターが陰々滅々と創作した世界が認められ、ドラマやゲームなどより大きなビジネスの世界へとつながっていく。市場規模は比べるべくもないが、中国のネット文学は日本のマンガ業界にも似た展開を見せているのではないか。中国では数少ない自由な創作の場にして、成り上がり物語の舞台。ネット文学はたまらない魅力を秘めている。
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