• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

国際金融のトリレンマから考える中国金融政策の未来(岡本)

2013年06月18日

■中国の為替レートの変動と資本移動の自由化は避けられない。■

Currency: China - one yuan - FRONT
Currency: China - one yuan - FRONT / upton


■中国、為替と資本移動の自由化は避けられない


国際金融のトリレンマから考えると中国は為替と資本移動の自由化は避けられません。どういうことか考えてみましょう。

国際金融のトリレンマとは以下の3つを同時に達成することは不可能である,というものです。

(1)為替の固定
(2)独立した金融政策
(3)自由な資本移動

日本は(1)を捨てて変動為替相場を採用し,(2)と(3)を維持しています。

香港は(2)を捨てて為替で固定しているアメリカの金融政策の影響を受けつつ,(1)と(3)を維持しています。中国は,現在のところ(1)と(2)を維持しつつ(3)の資本移動の自由化を制限しています。


■国際金融のトリレンマ

ここでは国際金融のトリレンマをできるだけ簡単に説明してみたいと思います。

単純化のために,金利は国内金融政策で決定される,つまり国内のマネー供給と需要によって決定されると考えます。為替は海外マネーの供給と需要によって決定されるとします。つまり金利と為替はそれぞれ国内マネーと海外マネーの需給を調整する「価格」と同じ役割を果たしていると考えています。

日本の場合は,金利と為替が市場のマネーで決定されていますので,以下のような図式が成立しています。

日本
≪調整弁≫ ≪市場需給≫
 金利  国内マネー
--------------------------
 為替  海外マネー

ここで,香港のように香港ドルと米ドルをリンクする固定為替制度を考えてみましょう。為替の自由な変動を認めないために,もう一つのマネー,国内マネーの調整弁である金利の変動ができないという状態になっています。

香港
 金利× | 国内マネー
 為替× | 海外マネー

国内マネーと海外マネーの自由な移動(自由な資本移動)を認めることによって,為替を固定化することが可能になります。国内マネーと海外マネーをまったく同じものとする(為替レートで価値を固定する)と決めていることを意味します。

例えば香港ドルへの需要が増加し香港ドルが高くなろうとしても価値は米ドルと固定されているので,米ドルへの需要と同じになります。しかしこの場合,香港の金利に影響を与えることはできません。香港ドルと米ドルは同じ価値をもつマネーにしているので,香港内でマネー供給をコントロールすることが不可能になっています。つまり香港ではアメリカの金融政策(アメリカの金利)がそのまま香港で通用することになります。

次に,中国のように人民元と米ドルをリンクする場合を考えてみましょう。現実には人民元は通貨バスケット制ですが,中国の最大の貿易相手国はアメリカなので,おそらく通貨バスケットの中で米ドルの占める位置は大きいと思われます。中国は香港と違い大きな国ですので,独立した金融政策を維持したいと考えるでしょう。したがって海外マネーが自由に流入することは金融政策に影響を与えることになるので,外に置いておきたいとなります。

したがって中国の場合は,

中国
金利   国内マネー
------------------------
為替×  海外マネー×

ということになります。

つまり海外マネーの国内への自由な流入を避けたい,海外からの自由な資本移動を制限するという結果になります。以上が国際金融のトリレンマです。


■中国金融政策の未来

このように国際金融のトリレンマから中国の為替と資本移動はどう評価できるでしょうか。現在の見方は二つあります。

一つは2005年に通貨バスケットに移行して以来,人民元の変動幅を認めて徐々に切り上がっています。したがって,通貨バスケット制は変動相場への動きともとれます。この場合,独立した金融政策を維持する場合には資本移動の自由を少しずつ認めることが可能になります。実際,中国政府は中国に資本投資を認める「適格投資家」の枠を拡大しつつあります。

もう一つは,やはり通貨バスケット制とはいえ人民元を固定しているとみる場合,資本流入は制限せざるを得ません。この場合,中国は「適格投資家」の制度で海外資本の自由な流入をコントロールし続けることになります。

しかし,今後の展望は一つしかありません。

独立した金融政策を維持することを最優先しているという前提で考えると,これだけ貿易が拡大し,貿易決済通貨として世界中で人民元が流通し始めると,人民元の国際化は進んでいることになります。人民元が独り立ちしていくと,国がコントロールできないこととなります。国内から海外に出て行くマネー,海外から国内に入り込んでくるマネーの両方が為替を動かす要因になってきます。つまり香港パターンです。

金利× | 国内マネー
為替× | 海外マネー

この時,国内金融市場の重要な政策ツールである金利を国内でコントロールしようとすると

金利 | 国内マネー
為替 | 海外マネー

となってしまい,為替は自由化せざるをえません。結局,中国は人民元の海外での決済を認めながら資本移動を容認しつつ,同時に為替変動を受け入れなければならないということになります。結局,中国が貿易大国である以上,現在の日本のように,為替と資本流入の自由化は避けられないということになります。

関連記事:
【小ネタ】中国民間の金融飢餓=環球時報の紙面構成が秀逸すぎる件
お茶産地で「民間金融」頼母子講が連鎖破綻=中国に忍び寄る足元の経済危機
信託企業による「草の根民間金融」への融資を禁止=中国当局の危険な判断
新型大国関係とは何か?太平洋を米中で分割統治?それとも中国指導者の恐怖心?
北朝鮮政府「チョコパイは資本主義の象徴」と警戒=韓国から月600万個が流入

*本記事はブログ「岡本信広の教育研究ブログ」の2013年6月18日付記事を、許可を得て転載したものです。

トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ