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2013年06月18日
*画像は余額宝のトップページ。
2013年6月13日、中国最大のEC企業アリババ・グループの第三者ネット決済サービス・ 支付宝(アリペイ)に新機能が追加された。余額宝という名の新機能はわずか1元(約15.5円)からファンド投資ができ、しかもその残高をネットショッピングや携帯電話料金の支払いにそのまま使えるという画期的なサービスとなっている。2013年6月17日付南方週末を主に参照した。
■支付宝とは
タオバオ、Tモール、アリババなどのネットショッピングモールを運営するアリババ・グループは中国最大のEC企業。同グループが運営する第三者ネット決済サービスが支付宝だ。ユーザーはネットショッピングをする際にクレジットカードで決済するのではなく、まず支付宝の口座にお金をチャージしておき、この口座から代金を支払う。
その後の流れとしてはいわゆるエスクローサービスと基本的には同じだ。支付宝は買い物した金額をユーザーの口座から凍結し販売企業に入金通知を送る。販売企業はユーザーに品物を送り、ユーザーが正しく品物を受け取った時点で、支付宝は凍結していた代金を販売企業に支払う。詐欺やニセモノなどのトラブルを減らすための仕組みとなっている。
一般的なエスクローサービスと異なるのは、事前に口座にお金をチャージする形式になっていること。いわば利率のつかない銀行口座のような扱いとなっている。現在では複数の企業が同様のサービスを展開しているが、トップシェアは支付宝が握っている。そのアカウント数は8億弱、チャージされた金額は100億元(約1550億円)に達するという。
■余額宝の衝撃
支付宝は電話料金や公共料金の支払いにも使えるようになるなど利便性を増しており、第二の銀行口座、第二の財布としての地位を高めつつある。
ここで登場したのが余額宝だ。支付宝の口座にあるお金を余額宝口座に移すと自動的にファンドを買った扱いとなり、利回りがつく。画期的なのはここからでお金が必要な時にも特に解約する必要はなく、余額宝口座の残高は支付宝同様、各種支払いに使える。いわば銀行口座と同じような気持ちで利回りがつくという寸法だ。しかも預け入れ、引き出しともに手数料はない。
もちろんファンドなので元本割れのリスクもあるわけだが、アリババ側は国債など安全資産を中心に運用するためその可能性は低いと説明する。現時点での利回りは4.338%、銀行普通口座の利子0.35%はおろか、1年定期の利率3%を上回る水準となっている。
■銀行の暴利構造への圧力に
中国では預金金利が当局により制限されており、きわめて低水準に置かれている。銀行業はきわめて低い金利で預金を集めることで莫大な利益を手にしてきた。「物価上昇率を考えれば銀行預金はむしろマイナス」という意識を持つ人も多く、知識のない一般人がむやみに投資に手を出す背景ともなっている。新京報は余額宝がこうした銀行業界の暴利構造を打ち壊す契機になってほしいと期待する記事を掲載した。
南方週末記事は、短期的には銀行の利益を脅かすようなことはないと指摘しているが、投資をする知識や資金がない者にとって余額宝はきわめて魅力的な選択肢となりそうだ。
今後、余額宝で利回りという武器を手に入れた支付宝がさらに躍進を遂げるのか、はたまた予想外のファンドの損失で大惨事となるのか。ともあれ、この核心的な試みに今後も注目したい。
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