中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2013年06月24日
Great Hall of the People 人民大会堂 / INABA Tomoaki
■中国経済の“異変”について中国政府の公式見解
中国のインターバンク市場の金利急騰をきっかけに、中国経済の“異変”が注目を集めている。ただし今回の動きで注目するべきはマーケットの動きが先にあって政府が対応したのではなく、政府が「転ばぬ先の杖」的に動き出したという点だ。確かに不安要因は積み重なっていたとはいえ、政府主導の「異常事態」であることは押さえておくべきだろう。
果たして政府の意図はどこにあるのか?さまざまな推測が飛び交っているなか、中国国営通信社・新華社がこの問題について解説する記事を掲載した。一般市民にもわかるようにかなりかみくだいていただいたありがたい内容だ。李克強首相が今月だけで3回も言及したとして話題になっている「マネーストックの活性化」にも触れている。
というわけで、待ちに待った中国政府による(事実上の)公式見解である、新華社記事をご紹介したい。なお小見出しは高口がつけたもの。
■中国式“銭荒”、金がないのではなく貸す場所を間違っているだけ
新華網、2013年6月23日
◆猛威を振るう“銭荒”
“銭荒”(資金不足)は現在の中国経済で最大のホットワードとなっている。6月中旬以来、「インターバンク市場オーバーナイトコールレート」といった専門的な用語がメディアを通じて人々の視界に入ってくるようになった。20日にはSHIBOR(上海銀行間出し手金利)が初めて10%を突破、13.44%という驚異的な数字を記録した。これは史上最高値である。「金に困っていない」と思われてきた大型商業銀行が借財人の仲間入りをするとは!銀行の金が足りないとは!
商御銀行の流動性逼迫と同時に、上海・深圳両市場の株価も全面的に下落。投資家はポジションを減らしている。過去1週間の新たに株を買い入れた口座数は58.47%という大幅なマイナスを記録、今年最悪となった。資本市場もまた資金流出という厳しい局面に直面している。
◆統計では金は有り余っている
しかし、金融機関の資金が急を告げる一方で、先日、中央銀行が発表した各種金融統計はそれとは異なる感覚を与えるものだった。
2週間前に中央銀行が発表した統計によると、全体的な通貨政策は穏当に推移しているものの、5月期のM2(広義のマネーサプライ)は前年同月比で15.8%増と依然として高水準にある。新規融資額も高止まりしているほか、人民元貯金残高も100兆元の大台に迫っている。1~5月の社会融資規模(銀行融資だけではなく、他のルートも通じた融資の総額を示すもの。問題となっている「影の銀行」経由の融資も含まれる)は9兆1100億元に達し、前年同期から3兆1200億元の増加となった。
中国は本当に流動性収縮の“銭荒”に直面しているのだろうか?
銀行に金がない、株式市場に金がない、中小企業に金がない一方で、マネーサプライはきわめて豊富であり、多くの大型企業は依然として銀行の理財商品を買いあさっている。遊休資本はなお投資先を探し、民間融資も活発なままだ。
◆金がないわけではない、正しい場所に届いていないだけだ
この両面を比較してみれば容易に明らかになることだが、現在猛威を振るっているかのように見える“銭荒”だが、実際のところはマネーの配分ミスが招いた構造的資金不足なのだ。マネーがないのではない。マネーが正しい場所に届いていないのだ。
2008年国際金融危機後の中央政府による4兆元投資の時であれ、2012年以来の「穏当な成長」を目標とする金融緩和成長の微調整の時であれ、ここ数年、中国経済の流動性は豊富な状況にあった。しかし同時にマクロ経済統計におけるM2/GDP比は不断に拡大を続け、今年第1四半期には200%近い数字となっている。これはマネー供給が経済成長を推進する機能が弱まり続けていることを意味だし、別の側面から見れば大量の社会融資が実は実体経済に投下されていないことを示している。
業界関係者、経済学者の多くは、現在の金融業界における“銭荒”の要因はきわめて複雑だとみている。国際経済の環境変化の影響、つまり米経済の回復に伴い連邦準備制度理事会(FRB)が量的緩和政策から撤退しようとしたことに伴い資金の流出が加速されたことなどが挙げられる。
また中国金融システム内部のレバレッジ率拡大が続いているという要素は、国際経済環境以上に見過ごせない要素だ。大量のマネーはレバレッジ投資と満期ミスマッチ(国際金融市場から短期で資金調達し国内企業に長期で融資する「短期借り、長期貸し」)という金融機関の捜査を通じて利ざやを稼いでいる。マネーは各金融機関を循環、往復する間に利潤を生んでいく。「影の銀行」は繁栄すると同時に、リスクは日増しに積み重なっていった。
それだけではない。中国の利率がマーケット化されていないことを背景として、市場の監督管理の問題を利用した手法も存在する。中国の現在の融資体系において、国有企業は民間企業と比べて融資を得る上で先天的な優位を持っている。より低いコストでの資金調達が容易であり、その資金を委託融資などの方式で運用することで利ざやを稼ぐことができる。ゆえに資金が重複計算され、社会融資総量の偽りの増加を招くことにもなった。
以上のとおり、“銭荒”の背景をみれば、考えるべきは金のあるなしではなく、金をどのように使うかという問題であることは明らかだ。
◆中国政府の対策
先週、李克強首相は国務院常務会議を主催したが、会議では金融資産配置の優化、増加したマネーの有効活用、マネーストックの活性化により、さらに強力に経済構造転換を支持するべきという方針が打ち出された。「増加したマネーの有効活用、マネーストックの活性化」は今後の中国の通貨政策調整における、一つの大方針となった。
注目するべきはマーケットで“銭荒”を訴える声がこだましても、中央銀行がより多くの流動性を供給してはいないという点だ。この動きは、中国の通貨政策は単純な数量管理から質と構造の良化を目指す方向に転換しつつあることを暗示している。
■雑感:鬼平だけは勘弁な!
長くなったので解説や分析については別の機会に回したいが、最終段落の「注意するべきはマーケットで“銭荒”を訴える声がこだましても、中央銀行がより多くの流動性を供給してはいないという点だ」と胸を張っているところがなんとも面白い。当局による金融機関締め付けはまだまだ続くというわけだ。
この記事だが、現状認識についてはそう突飛なことは言ってはいない。金利が自由化されていないゆがみ、国有企業が低コストで資金を調達できるゆがみにも触れているのは結構えらいのではないだろうか。
ただ問題は私にはわからんちんの謎のキーワード「マネーストックの活性化」だ。いや、「これまでたっぷり金は流したんだから、流動性を供給せんでもそれを使えばえーやん」という意味なのだとはわかるが、今のやり方で銀行をしめつけたからといって中小企業にお金が回るようになるのかと言われると、その経路がさっぱりわからない。そのあたりは別の政策との組み合わせで実現ということなのだろうか。
またこの蛮勇全開のやり方でどのような副作用が現れるのかという点についても疑問符だ。
2013年6月24日発売の週刊東洋経済で、経済学者の梶谷懐氏は記事「注目度増す「影の銀行」、金融危機の震源となるか」と題した記事を寄稿している(骨子についてはブログでも紹介)。記事では「影の銀行」がレバレッジを効かせていないという意味で米国のサブプライムローンほどのリスクはないこと、さらに自由化されていない「過渡期」の中国の金融システムにおいて、それなりの役割を果たしていると評価している。
まさか僕らのインテリ・エリート、李克強首相が、「「影の銀行」をぶっ潰せばみんな幸せになるんやで」と鬼平モードになっているとは思えないが、中国金融システムのゆがみが生み出した「影の銀行」を、そのゆがみを正すことなく消去しようとしているのならば、あるいはスムースな移行を配慮することなく潰そうとしているのならば、ちょっと勘弁して欲しい話である。
関連記事:
中国で短期金利が異常急騰、それでも中国政府が動かない理由とは
「中国経済の悪夢はまだ始まったばかりだ」生産能力過剰という問題と痛みを伴う解決策
銀行窓口で堂々と違法投資商品が売られていた件=なんとも面倒な華夏銀行飛単事件―中国
【小ネタ】中国民間の金融飢餓=環球時報の紙面構成が秀逸すぎる件
信託企業による「草の根民間金融」への融資を禁止=中国当局の危険な判断