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政府とマーケットのチキンレースが招いた金利急騰、中国経済誌の見方

2013年06月25日

■政府とマーケットのチキンレースが招いた金利急騰、中国経済誌の見方■
 

中国銀行/Bank of China/中国银行
中国銀行/Bank of China/中国银行 / kanegen


インターバンク市場の金利急騰で一気に注目を集めた中国経済の“異変”。

山のように解説記事が出ているのですが、ちょっと気になるのはここ数年懸念されてきた地方債務問題と20日の金利急騰を直接リンクさせているような記事。それは少し時期尚早というか、両者の間にはもうちょっと面白いものがありそうです。

というわけで、中国の経済メディアがどのように20日の金利急騰を見ているのか、中国政府の政策をどのように評価しているのかを考える意味で、経済誌・財新の胡舒立編集長のコラムをご紹介します。

読むポイントを挙げておくと、

(1)政府の金利引きしめに対し、市場関係者からは救済を求める声が上がっているが、その声にひきずられてはならないという話。この点では財新副編集長の凌華薇氏のコラム「資金はどこへいった?」がより明確に「マーケットと中央銀行の意地の張り合いにもみえる。金があるはずの大手銀行も資金を出さず、市場を麻痺させてしまった」と書いています。つまり政府の引き締め基調政策に銀行側が反応、政府の態度転換を促すべく危機を演出してみせたという、読みがあるようです。

(2)長期的視点に立てば、短期的な安定よりも改革のほうが大事という話。その観点から国務院常務会議で李克強が出した提案を高く評価し、口だけではなく実行せよと迫っています。実際のところ、地方の開発にばかり金が流れないようにし、実体経済に金が回るようにするには、中央銀行が流動性をいじるだけでは無理で、政治面・金融面での改革が必要なことは確かです。もっとも改革はきわめて重要ですが、大きなトラブルなく移行できるかもきわめて重要。今のドキドキする展開において、目先にとらわれず改革に邁進せよと言われるとちょっと恐ろしい気もするのですが……。


【舒立観察】マネーの水門を閉めるのは上策だ
財新網、2013年6月24日

◆中国内外の情勢と金融引き締めの正しさ

先週、中国内外の金融界で起きた3つの事件が注目を集めた。中国のインターバンク市場の流動性逼迫、米連邦準備制度理事会(FRB)のバーナンキ議長が年内にも量的緩和政策から離脱する姿勢をさらに明確にしたこと、中国国務院常務会議が経済構造調整、産業構造転換に対する金融的支持の政策対応を研究、指示したことの3件だ。深く検討すれば明らかなことだが、この3件はいずれもつながっている。

現在、中国経済の運営は安定しているが、しかし情勢は複雑かつ錯綜したもの。経済成長ペースは鈍化し、財政圧力は増加。地方の債務リスクも高まっており、その上で流動性逼迫が出現した。こうした状況では政策的立場の転換、動揺がきわめて起きやすい。北京時間6月19日、中国の政治指導者層は「穏健な通貨政策を堅持、発揮し、マネーサプライを合理的な水準に保持する」との方針を打ち出した。これは全局面を見渡した上での正確な選択であり、中国経済の長期的発展に有利な方針だ。

世界の金融上を見れば、この方針は合理的で堅持するべきものであることは、より明らかだ。第2四半期以来、FRBが量的緩和政策を縮小するとの予期が高まりつつある。中国の国務院会議から12時間後、米東海岸時間6月19日、バーナンキ議長はもし失業率が7%前後にまで低下すれば、FRBは債券購入のペースを緩めることを検討すると発言した。FRB理事らの一致した経済予測によれば、年末にも失業率はこの目標値に達する見通しだ。つまり政策転換は目前に迫っている。

もしFRBが緩和政策の基調を転換すれば、世界の金融市場構造には大きな変化が生じる。短期的にはドル高、新興国の通貨安が出現し、その後新興国からの資金流出の圧力が高まる。ゆえに現在の中国ではあまりに過敏に金融緩和の手法でマーケットの圧力を取り除くことはできない。マーケットの心理とリスク選好度は移ろいやすいものであり、しかも将来の中国経済成長の動力は構造的改革であり、金融緩和の継続では効果がないことはすでに証明されている。


◆金利急騰、マーケット関係者の短期的利益にひきずられるな


認めるべきは最近のインターバンク市場の流動性逼迫、株式・債券の下落は心理と現実の衝突がもたらしたという点だ。一部のマーケット関係者は中央銀行が大量に流動性を注入する「マーケット救済」を声高に求めている。しかし理性的に分析すれば、現在中国が抱える問題はマネーサプライにないことは明らかだ。5月末時点でM2は前年同期比15.8%の増加となった(中央銀行統計)。昨年末に制定した13%という目標値を上回る水準で、マネーサプライは決して少なくない。今回の国務院常務会議の報告は「現在の資金不足は短期的、構造的なものであり、金融機構自身の調整によって適応するべきもの。中央銀行は安定した通貨政策を継続する」とコメントしている。これは理性的かつ懸命な決定だ。金融政策は全般に影響するものであり、一部マーケット関係者の短期的な利益のために引きずられてはならない。とりわけ国内外の経済情勢が複雑な今にあっては、中国は冷静に、長期的視野で、マネーの水門を閉めることが上策である。


◆李克強の改革

金融政策の堅守は、改革とセットでなければならない。国務院会議は「金融政策は構造調整、安定した成長、民生への好影響に大きな働きをもたらすものであり、穏当に推進していく」と説明する一方で、「実体経済に期待されているほどの成長がないのは、金融システムの効率向上が期待されていることを意味する」とも指摘している。これはマーケット建設、金融ツールの増加、マーケットの開放などさまざまな改革を進めることを意味している。

この点について、李克強首相は金融による経済構造調整、産業構造転換支援について、一連のプランを提出した。過去の財政出動に偏重した政策と比べ、現在の政治指導層はマーケットの機能と力をより強調している。同会議では8項目の対策が提出された。生産能力過剰や経済構造調整の具体的対策、どのように「三農」(農民、農業、農村)と小企業を金融的に支援するか、消費アップグレードの支援、利率の市場化を推進するか、多元的な資本市場を発展させるか、保険の保障機能を発揮するか、民間資本の金融業侵入の支援、リスクの防止である。これらはいずれも金融システムの効率向上を助ける改革である。過去の主管部局による政策との継続性もあるが、新たな突破、新たな主張も少なくない。李克強首相が強調する「マネーストックの活用」もその一つだ。

8項目の対策の中でも、特に注意しているのは金融市場の改革だ。現在、実態経済界は債務コストの引き下げを願う声が高まっている。ゆえに利率の市場化改革は何にも増して重要だ。近年、銀行融資の金利上限は解放されたが、下限は基準金利の70%という規制が課されている。住宅ローン以外の融資において、この下限を撤廃できるかに業界の期待が集まっている。また個人の対外直接投資の試行を認めるなどの内容も、資本項目の兌換実現の過程が進展していることを意味している。民間資本の金融業参入を推進するとの項目は、さらに改革の先進性を示すものとなった。

もちろん8項目の政策は原則的なものであり、細則の発表を待つ必要がある。「神は細部に宿る」という。正確な主張を実行するには詳細な実施計画、そして有効なインセンティブが必要だ。そうして初めてマーケットの主体である金融機関の主観的能動性を呼び覚まし、一般的なスローガンに陥ったり、あるいはマーケットの「政策的投機」がもたらす道徳的リスクを避けることが可能となる。とりわけ金融機関自身の改革プランについて、今回提案された「民間資本参入による金融機関の再編を奨励」という項目は早く実行に移すべきだろう。みな承知しているとおり、これまでも改革の提案は繰り返されてきた。今必要なのはスローガンを超えるもの、人々の目の前に光をもたらす改革の突破口だ。

国内外の情勢をみるに、チャンスはきわめて限られたものでしかない。マネーの水門を守った後、本当の改革を実行しなければならない。

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