• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

「中国のチベット政策に軟化のきざし」は本当か?新政策の裏に透けて見える本当の狙い(tonbani)

2013年06月26日

■青海省の一部の県で僧院内にダライ・ラマ法王の写真を掲げる事が許可されたことは北京のチベット政策軟化の印か?■


20130626_写真_チベット_1
*ダライ・ラマ14世の幼少時の写真をてにする老婆。

■「中国共産党がチベット政策を転換」とのニュース
ダライ・ラマの肖像を飾ることを許可、中国共産党がチベット政策を転換―米華字メディア
レコードチャイナ、2013年6月22日

ノルウェーに本部を置くチベット関連ニュースサイトのボイス・オブ・チベットは、中国共産党が青海省海南チベット族自治州の寺院に以下3点の内容を通達したと報じた。(1)ダライ・ラマの肖像を寺院で公に飾ることを認める(2)ダライ・ラマを侮辱することはしない(3)寺院の中で重大事件が起きてもただちに警察や軍を送り込むことはせず、まずは寺院内部での話し合いを認める、という内容。 

(…)2012年にはダライ・ラマ14世が中国の新たな指導者となる習近平氏に期待する発言をしている。 

一部の専門家は、習近平国家主席はチベット問題に対して他の中国共産党高官の強硬な態度とは一線を画していると指摘。今回の動きは習近平国家主席の意向を受けて中国共産党中央がチベット問題に対する姿勢を転換したと分析している。

このニュースを始めに報じたのはボイスオブチベット(VOT)。スイス在住の高僧トゥルク・ロプサン・ティンレーがチベット現地から得た情報として伝えたものである。ただ注意すべきは中国共産党による正式な書面はまだ伝わっていないこと、中国官製メディアもこのニュースを報じていないという点だ。

このVOTの報道を元に米中国語メディアである多維新聞が「ダライ・ラマの肖像を飾ることを許可、中国共産党がチベット政策を転換」と題した記事を発表。上述のとおり、レコード・チャイナが日本語抄訳記事を出している。

このニュースを見た方の中には「習近平がチベット政策を転換するきざしではないか?」と受け取った方もいるようだが、そう簡単な話ではない。詳細に分析してみよう。


■3つの許可

まず第一にこの許可が出た経緯と地域を押さえておくべき必要がある。

VOTによれば、6月17日にアムド地方ツォコ(青海省海南チベット族自治州)マンラ(貴南)県で、中国当局が主催する僧侶の会議が開かれたが、この席で上述の許可が決定されたという。次いで19日には隣接するバ(カワスンド、同徳)県で各僧院の内部会議により同様の決定が発表された。20日にはツェコルタン(興海)県の人民検察院が会議を開き地区の僧侶と俗人に対し、「上級部門」が出したこの決定を布告したという。

許可の内容は3点:

1.僧院内にダライ・ラマの肖像写真を掲げてもよい。
2.ダライ・ラマを非難することは許さない。またダライ・ラマを非難するよう指示してはならない。
3.僧院内で事件が発生した場合にはまず僧院長らが調停し、警察や軍は僧院長の要請なく直接介入してはならない。

3番目は特に素晴らしい。1番目は目玉のようではあるが、アムド、カムではどうせ禁止されていようが僧院にはダライ・ラマの写真は公然/秘密裏に掲げてあった。意味深長ではあるが、現実的には変更はないとも言える。

20130626_写真_チベット_2
*2011年11月、セルタのビルにダライ・ラマの肖像が飾られたが、すぐに軍によって引きちぎられてしまった。それを契機に抗議デモも起きている。

■地域限定の“許可”

ただ注意すべきは上記許可は地域限定だという点だ。青海省全域でも、海南州全域ですら、海南州5県の内の3県に限定されている。また肖像を飾ることが許されるのは僧院内だけの話であり、一般家庭においてはこれまで通り禁止である。これが発表されたのもツェコルタン(興南)県以外は僧院に向けたものに限られる。

またこの決定が行われた意志経路がはっきりしないことも押さえておくべきだろう。ツェコルタン(興海)県では「上級部門」が出した決定を布告したと伝えられているが、「上級部門」とは具体的にどこを指すのか?許可が県レベルに限定されていることを考えると、県当局の決定とも考えられる。

ただしダライ・ラマの写真を飾れなくなったのは、1980年代の終わりにチベット自治区で決定した禁令を、江沢民の意向でアムド地方、カム地方で拡大していったという経緯がある。そうした中央政府の意向を地方政府が単体でひっくり返せるものだろうか?


■大局的にみれば締め付けはまったく緩和されていない

この局所的現象をもって北京のチベット政策の転換と判断するには、まだ情報が足りなすぎる。

一方でチベット自治区では、僧院を中心にダライ・ラマ批判を強要する「愛国再教育」が続けられている。もちろん僧院にダライ・ラマの写真を飾ることは許可されないし、それどころか毛沢東をはじめとする4人の偉大な指導者の写真と中国国旗を掲げる事が強要されている(RFA英語版)。

またチベット自治区にアムド地方、カム地方を含めたチベット全域で、僧院を中心に「十八大会精神教育」という政治教育のキャンペーンが始まっている(チベットタイムズチベット語版)。全体的にみれば、締め付けはまったく緩んでいないのだ。


■次期ダライ・ラマを見すえた動きか

今回の許可にはどのような意図があるのだろうか?私は「ダライ・ラマを非難してはいけない」という条項が気になる。今までとは真逆の方針だ。

この点を考えると、先日新華社が伝えたもう一つのニュース、中国政府がダライ・ラマの生家を改装するため250万元(約4000万円)を投じたとの発表が重なって見えてくる。畑以外何もなかった生家を開発して観光地化する計画まであるようだ。

20130626_写真_チベット_3
*角の生えた悪魔のまねをするダライ・ラマ。

あるいは次期ダライ・ラマの選定を見すえての動きではないかとも考えられる。かつてのパンツェン・ラマ選定のように、ダライ・ラマ14世が崩御されれば、中国政府は独自にダライ・ラマ15世を選定するだろう。その時、「ダライ・ラマは角の生えた悪魔」との批判を続けていれば矛盾することになる。将来、誕生するであろう中国政府のためのダライ・ラマを見すえて、批判を転換したのではないか。

関連記事:
「ダライ・ラマが中国国内に転生するよう努力する」香港誌報道の“恐るべき偶然”を考える―チベット人作家(tonbani)
ダライ・ラマ法王『自身の転生に関する声明』全文日本語訳―チベットNOW
6歳のパンチェン・ラマが連れ去られて18年……チベット人の解放求める声やまず(tonbani)
中国、ノルウェーへの恨みを忘れず?!ダライ・ラマ効果と劉暁波効果
「月にダライ・ラマ法王が見える」→即逮捕=チベット人の信仰と当局の弾圧(tonbani)
ダライ・ラマと共産党の間で=チベット人共産党員・幹部・退職幹部の動揺(chinanews)

*本記事はブログ「チベットNOW@ルンタ」の2013年6月22日付記事を許可を得て転載したものです。

トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ