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傀儡政権の迷走を生み出した“ずれ”描く、広中一成『ニセチャイナ』が面白い

2013年06月27日

■傀儡政権の迷走を生み出した“ずれ”描く、広中一成『ニセチャイナ』が面白い■


ニセチャイナ―中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京 (20世紀中国政権総覧)
ニセチャイナ―中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京 (20世紀中国政権総覧) 

■『ニセチャイナ』の概要と章立て

広中一成『ニセチャイナ』(社会評論社、2013年7月)を献本いただいた。一部中国者の間では話題沸騰の『ニセチャイナ』だが、強烈なデザインの表紙や「ニセチャイナ」というタイトルを見ると、なんだか色物本のようにも思える。だが本書はきわめて誠実に書かれた一般向けの中国“傀儡政権”概説書である。

「はじめに」(同書8ページ)に書かれている説明がもっとも端的に本書の概要を示す紹介文だろう。

親日傀儡政権(中国語では偽政権。以下、傀儡政権)を取り上げます。傀儡政権とは1931年の満州事変以後、日本が中国大陸へ進出する家庭で成立した中国人(または満州人・蒙古人)を首班とする現地政権で、まるであやつり人形(傀儡)のように日本側の意のままに動いたため、そのように呼ばれました。

章立ては以下のとおり。

第一章 満洲国(満洲帝国)
第二章 蒙古聯合自治政府(蒙疆政権)
第三章 冀東防共自治政府(冀東政権)
第四章 中華民国臨時政府(華北政務委員会)
第五章 中華民国維新政府
第六章 中華民国国民政府(汪兆銘政権)
(より詳細な章立ては社会評論社ウェブサイトを参照)
コラム①満洲国時刻表
コラム②帝国日本を親と仰いで 満洲国の軍歌について
コラム③華中時刻表
コラム④ 楽土冀東は夢なりき 親日支那政権の軍歌について
特集 新民会とは何だったのか ―元中華民国新民会職員・岡田春生インタビュー

著者の広中一成氏は対日協力政権の専門家。私の留学時代の飲み友達であり(飲んでいるのはもっぱら私だったが)、本サイトにも『ニセチャイナ』についての紹介文を寄稿してくれている。
(関連記事:忘れさられた「ニセ政権」とは=日本の傀儡政権を総ざらい、広中一成『ニセチャイナ』


■迷走を生み出す“ずれ”を丹念に拾う誠実さ

本書は500ページの読み応えのある一冊。各対日協力政権の誕生から滅亡までの流れを追う本文に加え、地図、図表、写真、コラムもたっぷり。それぞれの政権の歴史を追う読み方もできるし、あるいは6つの対日協力政権を通してみることで、別の角度から見た日中戦争通史として読むこともできる。細かく小見出しがついているので、興味あるトピックを拾い読みする読み方も可能だ。

さまざまな読み方を可能にしてくれるのだが、その一因ともなっているのが本書のちょっと不思議な構成だ。いわゆる「はじめに」「おわりに」がないのだ(出版社によるシリーズ「20世紀中国政権総覧」と本書の概要紹介の「はじめに」は存在する)。読み方のガイドラインがないのはともかく、複数の対日協力政権を概観した知見をまとめて欲しかったというのは正直な気持ちだ。

もっとも、“著者による読み方ガイドライン”が示されていないのは、広中一成氏の誠実さを示すものだと感じる。すべての対日協力政権が迷走の中で誕生し迷走の中で滅んでいくわけだが、それは何も「日本に引きずり回されたがゆえの迷走」ではない。中国人の中のずれ、日本軍の中のずれ、政権に協力する日本民間人と軍のずれ、さまざまな意図のずれが迷走を拡大し、崩壊へと導いていく。本書はある政権の誕生と滅亡を直線的な物語にしたてあげず、そうしたずれをなるべく拾おうとする誠実さに満ちている。

そうした当時の人々の感情がもっとも鮮明に描かれているのは、「特集 新民会とは何だったのか ―元中華民国新民会職員・岡田春生インタビュー」だろう。中華民国臨時政府の翼賛団体である中華民国新民会に参加した岡田氏のインタビューだが、大陸に身を投じた心情、軍とのあつれき、あるいは中国武術を学んでいたことを契機に秘密結社・青幇に加入しその仲間によって身を守られたことなどを簡潔に答えており、当時の状況をイメージする格好の材料となっている。

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トラックバック一覧

  1. 1. ここは酷いニセチャイナですね

    • [障害報告@webry]
    • 2014年03月29日 01:53
    • ニセチャイナ―中国傀儡政権 満洲・蒙疆・冀東・臨時・維新・南京 (20世紀中国政権総覧)社会評論社 広中 一成 Amazonアソシエイト by 傀儡政権とはいえ、それなりに形式的な正当性があったり 国を救いたいという思いの強い要人もいたんだよな 日本側も傀儡とはいえ、それ

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