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中国は「民間資金活用」先進国だった?「影の銀行」問題で明らかになった民活先進国(岡本)

2013年07月13日

■中国はインフラ建設での「民間資金活用」先進国!?■


最近,中国の短期金融市場の利子率が急上昇し,それにより明らかになったことがあります。中国のインフラ建設は税金で賄うのではなく,民間資金が活用されているということです。

道路,港湾,空港,鉄道,通信,電力,水道など社会的インフラは民間に任せると供給されない,あるいは供給量が少なくなるので,政府が建設すべきだというのが経済学教科書が教える内容です。つまり公共財は政府が供給しましょう,ということです。

ところが近年では,経済成長の成熟にしたがって税収の伸びの低下,また民間にできるものは民間で,という流れの中でインフラを民間資金で建設(あるいは維持)するのが世界的潮流になってきました。

実は昨今のシャドーバンキング,理財商品関連のニュースで明らかになったのは,中国は昔から民間資金でインフラ建設が進んでいる,「民活」(民間資金活用,PFI:Private Finance Initiative)先進国だったということです。


1.日本の事例

日本は税金でインフラ建設が行われてきました。税金でインフラ投資ができるのは,

インフラ建設→民間企業の成長→税収の増加

という高度成長期の時期,インフラ建設が外部経済を生むときでした。

しかし,税金だけでは限界があります。そこで活用されたのが郵便貯金をはじめとする財政投融資方式のインフラ建設でした。民間が預けた郵便貯金は,政府の会計を通じて特殊法人(道路公団,空港公団,国鉄など)に流れ,インフラが建設されました。これが財政投融資いわゆる財投です。(これが丼勘定で行われていたために,郵貯と特殊法人改革が行われたのは記憶に新しいところです。)

また,政府は財投債(国債)を発行することが可能でした。政府の保障で財投債を発行し,資金を集め,インフラ建設が行われました。しかし政府が特殊法人を通じてインフラ建設を行うと,特殊法人には親方日の丸のため,事業リスクに無頓着になるとともに,インフラのサービス提供の質も低下するという問題が指摘されるようになりました。

2000年に多くの特殊法人が自立した一事業体として経営するようにするため,道路公団などの公団は民営化されていきました。と同時に財投機関債の発行が認められ,民間資本の注入,それにともなってインフラ事業体の経営を効率化することが期待されました。

現在のところ,日本政策投資銀行・公営企業金融公庫・首都高速道路公団・水資源開発公団・中小企業金融公団・国際協力銀行などの独立行政法人が財投債を発行しています。

民間資本のインフラ建設への活用のメリットは以下があげられます。

インフラ事業へのリスクの意識が高まり,運営や維持における経営が真剣になる(効率化する)こと。
財投債や財投機関債などのインフラ関連債権市場が充実してくるにつれて,インフラ事業を市場が評価すること。


2.中国では……

中国では1980年代から民間資金がインフラ建設に流れ込んでいました。インフラ建設を担当する地方政府は税収が少なく,また地方債権を発行することも不可能でした。そのためにできたのが広東国際信託投資公司(GITIC)に代表される各地方の信託投資会社です。銀行制度や金融市場が整っていない中国ではインフラ事業を債権にして外国資本に買ってもらって資金調達するというのがもっとも便利な方法だったのです。

近年では,融資平台(プラットフォーム)というのが開発されました。地方政府のインフラ建設(不動産建設も含む)のための資金調達方式です。融資平台が銀行から融資を受けたり,債権を発行して民間からお金を集めて,インフラ・不動産開発会社に投入されていきました。

2011年ごろから理財商品や影の銀行(シャドーバンキング)が注目されるようになります。融資平台への銀行融資が制限されるようになると,信託投資会社が復活してきます。信託投資会社は融資平台の債権を購入し,小口化し理財商品として民間に販売するようになります。結果,民間資本が信託投資会社,融資平台を通じてインフラ事業へ投資されていきます。

<日本と中国のインフラ建設資金の流れ>
20130713_写真_中国_民間資金_

このように中国では改革開放から民間資金が活用されてインフラ事業の建設や運営が進められてきました。この意味で中国は「民活」(PFI)先進国といえます。


3.問題

もちろん手放しでよろこんでいられません。信託融資方式によるインフラ建設にもリスクがあります。それは①事業評価の質,②債権市場の成熟度,です。

インフラ建設の事業評価やリスクがきちんと勘案されて債権が発行されているかどうかということです。根拠もなく「○○新区電力事業は完成後毎年○億元の収益を生みます!」と謳って,適当に債権を発行すると,購入する側は情報の真偽を検討する術をもたないのが一般的です。いわんやそのようなさまざまな事業体が発行する債権を合わせて小口化した理財商品のリスクを評価することは大変難しくなります。さまざまな債権がゴッタ混ぜにされそれが小口化されるという手口はサブプライムローンと似ています。そのため建設した工場団地に誰も入ってくれないというようなことになったら不良債権化します。これがバブル崩壊につながるのでは,というように心配されているわけです(黄・常・楊2012)。

もう一つは債権市場が機能しているかどうかです。実は民間資本がインフラに流れ込むのは政府が規制している金融抑制という状況から脱出するために生み出された金融イノベーションという見方があります(巴2013)。中国の銀行が低金利に人為的に抑えられているために,資金の貸し手である家計は銀行に預けるインセンティブがありません。インフラ建設をした地方政府は資金需要があります。しかし地方政府は債権を発行することもできず銀行から融資を受けることも不可能です。このような閉塞的な状況から自生的に発生した資金市場がシャドーバンキングの背景にあります。市場が発生したばかりの時には多少の混乱があるでしょう。とくに資金の需給市場,債権の取引がきちんとした情報のもとで行われているかというと疑問があります。

政府もこのシャドーバンキングを抑制するあるいは管理する方向です。この管理を誤れば実体経済へ悪影響をおよぼすことになるでしょう。

でも,シャドーバンキングが市場として成熟すれば,中国はPFI先進国になるかもしれません。

<参考文献>
『日経新聞』2012年12月15日,2013年6月19日
黄益平・常健・楊霊修(2012)「シャドーバンキングは中国版サブプライムローン問題を引き起こすか」『季刊中国資本市場研究』2012Summer
巴曙松(2013)「金融構造の進化からみる現在の「シャドーバンキング」『季刊中国資本市場研究』2013Summer

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*本記事はブログ「岡本信広の教育研究ブログ」の2013年7月11日付記事を、許可を得て転載したものです。

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