中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2013年07月22日
*グーグル・パブリックデータより。2012年のデータがまだ反映されていないが7.8%。13年ぶりに8%を割り込んだ。7%を割り込むとなれば天安門事件の影響で落ち込んだ1990年以来となる。
「中国の夢」絶対防衛ラインはとりあえず7%に設定されることになりました。我らが中国共産党の機関紙・人民日報のお達しです。中国経済に興味を持つ人にとってはここ2週間ほど最大の話題であった「上限・下限」問題ですが、とりあえずの決着を見たと言ってもいいでしょう。「なお6.5%成長でもOK」という中国財政部の楼継偉部長発言はなかったことになったようです。
■7月危機って覚えてますか?
「影の銀行の投資商品(理財商品)の償還時期集中で中国経済は7月に崩壊やで!」という内容の中国経済7月危機説。盛り上がっていたのはほんの2~3週間前だったはずですが、あっという間に姿を消してしまいました。
実は中国のネットでは「*月危機説」というのはちょくちょく見かけるのですが、今回は上海インターバンク市場の金利急騰(今はほぼ元通りですが)という大ネタがあったために、李佐軍レポートを根拠とした7月危機説を日本メディアが過剰に盛り上げてしまったというのが実情です。これからも投資商品の償還期を迎えるたびに盛り上がるでしょう。先日は、9月にも予定されている国債先物のスタートで資金が影の銀行から国債先物に移り、中国経済は崩壊するというネタもみかけました。
本サイト・金鰤は「可能性が低い短期的な崩壊ネタで盛り上がるよりも、すでに現実化し問題となっている中長期の成長減速に注目しよう」と提言しています(記事「「影の銀行」「中国経済の危機」とはなにか?」)。
■痛み伴う改革……我慢できる限界ラインってどこよ?
現在、中国はむやみな融資の急増にブレーキをかけようとしているわけですが、これは近年、投資を主体に成長を続けてきた中国にとっては成長率鈍化を意味する政策です。問題は「経済成長率の鈍化はどこまで許容できるか」にあります。
いわゆるソフトランディングという話ですが、ちょこっと中国的な事情があるとするならば、景気鈍化が鮮明化すると「中小企業が連鎖倒産しているでござる」「民の怨嗟が満ち満ちております」「このままでは中国経済クラッシュやで!」との騒ぎが始まり、それに政争が絡み、チョー・カオスになるということ。こうした綱引きの末に中国当局は引き締めと緩和、改革と現状維持の狭間をゆらゆら揺れるという状況が続いています。
というわけで、どのあたりまで許容できるかという問題はすこぶる重要。しかも李克強首相が9日、「成長率や雇用水準が“下限”を割り込んではならず、物価上昇率は“上限”を超えてはならない」と発言したものだからさあ大変。上限と下限をみなが空想する大予想大会が始まっております。
■防衛線は7%、リアリズムではなく習近平のメンツ的に
ここまでがクソ長い前置きなのですが、22日、人民日報が記事「シリーズ:中国経済をどうみるか(1):下限、上限、譲れない一線」という記事を配信。中国政府お墨付きの「経済防衛ライン」が明らかにされました。
記事に出てくる数字は2つ。第一の数字は7.2%以上。中信証券主席エコノミストの諸建芳氏がコメントする形で記事になっていますが、都市・郷鎮登記失業率(城镇登记失业率、中国特有の失業率)を5%前後にコントロールするにはこの数字になるとのこと。
もう一つの数字は7%。こちらは「中国の夢防衛線」であります。昨秋、総書記に就任した習近平氏は中国の夢をぶち上げ、2020年のGDPを2010年比で倍増させるとの目標を発表しました。こちらを守るには2011年以降、毎年7%という数字が必要になります。ただし2011年は9.3%、2012年は7.8%と頭2年は大きく上回る水準で達成しているので、2013年以降6.8%成長で目標達成となります。
はたしてこの成長を保持することもできないほど中国経済が落ち込むのか、私にはちょっと判断がつかないのですが、経済改革、金融改革という面倒な課題を抱えた中国政府にとって、「中国の夢」という習近平のメンツまでも考慮しなければならないという結構腹立たしい事実ではないでしょうか。
■もう一つの「中国の夢」
さてこの上限・下限についてフィナンシャル・タイムズ中国語版に徐瑾氏によるコラム「中国ハードランディングの下限」という記事が掲載されています。注目点は消費。習近平の「中国の夢」演説にはGDP倍増と同時に、2020年時点での一人当たり消費を倍増(2010年比)という数字を盛り込んでいます。
徐氏曰く、現在、中国のGDPに占める消費の比率は34.9%という低水準(米国で70%、インドで56%)だが、これを45%に引き上げることができれば4.5%成長で消費倍増の目標は達成出来る。50%ならば3.4%で十分だと指摘しています。庶民に実感できない国全体のGDPなんか守れなくても、一般市民に寄り添った消費倍増という「中国の夢」だけでも守ったらいいんじゃないの、というなかなか面白いコラムです。
ただ徐氏の言うとおりになると、庶民は万々歳かというと必ずしもそうではないか、と。サービス業が爆発的な発展を遂げる一方で、重厚長大型の産業が劇的に縮小し大量の失業者が出そうではありますが。朱鎔基の国有企業改革同様、煽りを喰った庶民の怒りがスパークするという展開もありそうです。まあ庶民といってもメリットを得られる人、得られない人ばらばらですのでひとくくりにするのがおかしいと言ってしまえばそれまでですが、「GDP高成長を捨てて、民草のことを思った改革」というのも、それはそれで痛みが伴ってしまうのだなぁ、せつねぇと思ったので蛇足した次第です。
関連記事:
「6.5%成長まで減速しても問題はない」中国高官の発言とその波紋
「影の銀行」「中国経済の危機」とはなにか?
2012年両会を読む=本当の焦点は政治改革ではなく再配分―中国
【泥縄】中国政府の物価対策=社会主義的「伝家の宝刀」で混乱必至
俺は、習近平のこの「口号」にまったく好きにならない。
「悲惨な近代史」で、いつか「復讐」してやると聞こえて、被害者心理があふれ出ている。
国を人にたとえると、「眼高手低」、自信のない証拠だ。
当たり前なことをしっかりやりぬき、数十年、数百年こつこつ努力していけば、もともと野心がなくてもいつの間にか「本当の意味の大国」になれる。
毎日「夢だ夢だ」と叫んでいて、やるべきこと(まずは政治改革)がやらないと、夢が水の泡になるだけでなく、民族の存続問題になる。