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毒ギョーザ事件雑感:「反中意識」を高めた食い物の恨み、気づけなかった中国

2013年08月03日

■毒ギョーザ事件雑感:「反中意識」を高めた食い物の恨み、気づけなかった中国■

焼ギョーザ定食
焼ギョーザ定食 / t32k

被害者に申し訳ない…ギョーザ事件初公判で被告
読売オンライン、2013年7月30日

2008年1月に発覚した中国製冷凍ギョーザ中毒事件で、ギョーザに殺虫剤を注入したとして危険物質投入罪に問われた製造元「天洋食品」(中国河北省石家荘市)の元臨時従業員・呂月庭被告(39)の初公判が30日午前、石家荘市の中級人民法院(地裁に相当)で開かれた。

(…)呂被告は捜査段階で、待遇の良い正規従業員に登用されなかったことなどから会社に不満を抱き、腹いせにやったと供述したという。


■ピンとこない毒ギョーザ事件の初公判

中国で毒ギョーザ事件の初公判が行われた。中毒事件が起きたのが2007年12月から翌年1月。日本では大騒ぎとなり、中国食品を避ける動きが広がったほか、中国側は日本で混入した可能性があると示唆。日中関係を揺るがす大騒ぎとなった。

中国側が呂月庭容疑者を逮捕したのが2010年3月のこと。この時もなぜこのタイミングで容疑者が逮捕されたのか疑問視する声が日本側からあがった。日中関係改善に向けた中国側の打診ではないかなどとも推測されていた。まあ結局のところ、2010年9月の尖閣諸島沖漁船衝突事件で日中関係は最悪の状況を迎えるのだが。

そして逮捕から3年半近くがたった今、ついに初公判が開かれた。日中関係改善に向けて火種の1つを消しておこうという中国側の配慮、といった分析もあるようだが、正直ぴんと来ない。そうした政治的意向があるならば、他の動きを伴うのが当然だが、関連する動きはまったく見られないからだ。案外、ほとぼりも冷めたころだし裁判やっとくか、ぐらいのノリなのかもしれない。


■ほとぼりが冷め切った報道

少なくとも「ほとぼりが冷め」ていることは間違いなさそうだ。かつて日中関係を揺るがす一大事となった毒ギョーザ事件だが、日中ともに通り一遍の報道しかないようだ。

中国側のあまり多くない報道に目を通すと、臨時工(非正規職)だった呂月庭被告が、正式工(正規職)との待遇格差に不満を持ったことが原因だったと強調されている。呂被告は天洋食品で15年間にわたり社食職員を務めていたが、その給料は正規職とは天と地の差。「2006年の旧正月のボーナスは正規職が7000元ちょっとだったのに、私は100元だけでした」と法廷で供述したという(国際在線)。

国際在線記事は呂被告の凶行により、消費者に被害を与えたほか、天洋食品の倒産と1000人の失業者を生み出す事態を招き、中国の食品安全の名誉を損なったと批判している。


■毒ギョーザ事件が作り上げた「中国毒食品ニュース」市場

しかし毒ギョーザ事件のほとぼりが冷めニュースバリューがなくなったとはいえ、その影響は決して軽視できるものではないだろう。いわゆる「中国毒食品」というジャンルのニュースが売れるきっかけを作ったのが毒ギョーザ事件だからだ。ウェブニュースはもちろんのこと、最近では週刊文春が毒食品問題の特集を組むなど、一定のマーケットを確保するニュース・ジャンルとなった。

記事「【BBC調査】日本人の反中感情は「底が抜けた」?プラス評価はたったの5%」でもとりあげたが、日本人の「反中意識」は近年高まるばかりだ。中国サイドに言わせれば、日本の右傾化集団による扇動や世界2位の経済体の座を中国に奪われた焦りという話になるのだろう。

ただ歴史問題や尖閣といった大きな話だけではなく、毒ギョーザ事件やサッカー・アジアカップで日本代表に浴びせられた猛烈なブーイングといった小さな話が、「反中意識」の高まりに大きく影響しているように思えるのだが、中国側の視点からはこの点がすっぽりと抜けているようだ。


■公共外交に失敗した中国

公共外交(パブリック・ディプロマシー)という言葉がある。政治家同士の外交ではなく、相手国の国民に訴えかけ好感を抱いてもらうというもので、中国ではちょっとした時事キーワードとなっている。ニューヨークのタイムズスクエアで中国の国家宣伝動画を流したり、あるいは訪米した習近平がNBAを観戦してフランクさをアピールしたりと頑張っているわけだ。

公共外交という言葉自体は最近の流行りだが、それ以前にも日本を訪問した温家宝が下手な野球をやってみせたり、あるいは胡錦濤が福原愛と卓球して猛烈なスマッシュを決めて見せたりと似たようなことはやっていた。そもそも中国の公式の立場は「日本の右傾化はごく一部の勢力によるもので、大多数の日本国民は中国の友人」というもの。政治家を飛び越えて日本国民に接近するという手法はその立場に合致したものでもある。

そうした取り組みを続けてきた中国の立場に立てば、今の日本人の中国嫌いは、外交の失敗以外の何物でもない。その失敗は何が原因なのか。尖閣という対立軸だけではなく、ギョーザという食い物の恨みが大きな影響を与えていることを中国側が認識しなければ、対日公共外交の失地回復は難しいのではないか。

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