■中国官僚の新発見「ザーサイ指数」、出稼ぎ農民の移動を知るてがかりに■
銀座園のザーサイ / kimishowota
記事のまとめ
・ザーサイの売れ行きで出稼ぎ農民の人口移動が分かる。
・李克強の新型都市化改革の先行きを占うザーサイ指数。
・中年になる故郷に戻る出稼ぎ農民たち、・帰還を喜べない地元政府。
■ザーサイ指数でわかる出稼ぎ農民の移動中国国家発展改革委員会のある官僚が、出稼ぎ農民の移動を把握できる「ザーサイ指数」なる発見をしてしまったという。2013年8月9日、経済観察報の記事「
都市化の“ザーサイ指数”」が伝えた。
インタントラーメンやザーサイなどの安価な食品は住民の収入が増えても消費量は変わらない。よってザーサイ消費量の増減は人口移動を如実に反映しているという。その急激な変化は流動人口、すなわち出稼ぎ農民の移動と直結している。
ザーサイ製造大手、涪陵ザーサイ集団の業績報告を調べたところ、華南地区が地域別販売シェアに占める比率は2007年の49%から2008年48%、2007年47.58%、2010年38.5%、2011年29.99%と減少の一途をたどっている。その一方で他地域では大きく伸びており、華中では2009年の2.6%から10.57%に。中原では8.02%から10.1%に、西北地区では9.38%から11.91%へと上昇している。
このザーサイ指数からは製造業の中心地である広東省で働いていた出稼ぎ農民が故郷に帰るなど他地域に分散している状況がうかがえる。
何もザーサイの売れ行きで判断しなくても別の指標があるのではないかと思われるかも知れない。戸籍がある地域以外に住む場合には暫定居住証を申請する義務があるとはいえ、長居するつもりはない場合だと申請しないケースも少なくない。またこの結果は国家統計局が今年5月に発表した報告書「2012年中国農民工調査観測報告」とも合致している。ザーサイ指数が報告書の裏付けをしたとも言えるかもしれない。同報告書は中・西部地区で働く出稼ぎ農民の数が増加していることを指摘している。一部の出稼ぎ農民、とりわけ中年となり学歴が低く技術を持っていない人々が故郷に近い地域に「回流」している傾向があると分析した。
■出稼ぎ農民の「回流」を喜べない故郷「ザーサイ販売量で人口移動が読める」というだけでも個人的には満足なネタなのだが、わざわざ官僚様がザーサイ指数を発見するまで調査を進めているのにはわけがある。ザーサイ指数を発見した官僚は「全国都市化推進健康発展計画(2011~2020年)」の起草を担当しているという。李克強改革の目玉である「新型都市化」を具体化するにあたり、人口移動の実態を把握することはきわめて重要だ。
新型都市化改革では長年待望されていた戸籍改革に着手する見通しで、「全国都市化推進健康発展計画(2011~2020年)」では、出稼ぎ農民に対して、6カ月以上在住した場合には戸籍がなくとも、雇用、医療保険、社会保険、教育などの公共サービスを提供することを義務づけるという。
広東省など珠江デルタ、上海市近隣の長江デルタなどの地域にとって、出稼ぎ農民はたんに賃金が安いだけではなく、公共サービスを提供する義務がないという意味でも安価な存在だった(もっとも一部地域では部分的に公共サービスの提供が始まっているが)。新型都市化が推進されれば、その安価な人々が一転して地方財政の負担に変わることが予想される。
かつての出稼ぎ農民は若い時は都市でばりばり働き、年を取ったら田舎で農業に従事するというサイクルが腫瘤だった。しかし最近では「第二世代出稼ぎ農民」と呼ばれる若い出稼ぎ農民は都市への永住を希望する傾向が強いといわれてきた。今、若い世代の動向はまだわからないが、少なくとも現時点の中年出稼ぎ農民に故郷回帰の動きがあることは、広東省など製造業先進地域にとっては予想される新型都市化のコストの軽減を意味する、ありがたい話となる。
逆に年寄りを押しつけられた格好となる、内陸部など出稼ぎ農民の「故郷」にとってはデメリットとなる。お金のかからない若い時期だけ便利に使う先進地域に応分の負担を求める声もあがりそうだ。ザーサイの売れ行きを眺めながら、地方自治体間の熱い論戦が展開されることになりそうだ。
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