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一人っ子政策の罰金は年3200億円に、地方政府を支える財源に(水彩画)

2013年08月18日

■止められない計画生育とその利権■

China-Xian-Oct. 1 baby #3
China-Xian-Oct. 1 baby #3 / Praziquantel


記事の要点
・一人っ子政策改革の機運は高まっているのに改革案が出てこない。
・「中国人を5億人にまで減らそう」、超強硬派の抵抗勢力。
・罰金を払って回らないと地方財政が回らない、基層政府の本音。

■一人っ子政策の罰金

「一人っ子政策」がなかなか廃止されないのは、その罰金が地元政府の大きな収入源となっているため、廃止しようにも抵抗が大きいというのはよく知られています。

社会撫養費とは、計画外の出産、要するに一人っ子政策に違反した場合に支払う罰金です。徴収された社会撫養費は一旦上級機関に上納された後、最高で50%が元の機関に戻されるため、鎮や街道といった最下層の自治体では違法な取立てにも余念がありません。

浙江省人口計画生育条例を例に取ると、違反した夫婦が住む当地の平均可処分所得に応じて計算されます。

■2人目は2倍から4倍
■3人以上は2人目の時の倍
■再生育条件に合わない場合は0.5倍から1倍
■法廷結婚年齢に達した場合で、結婚届を出さずに出産、第一子が6ヶ月を過ぎた場合は0.5倍から1倍
■法定結婚年齢に満たない場合は1.5倍から2.5倍
*本人の収入が現地平均可処分所得を超えている場合は、超過分の1から2倍をさらに収める

逆に言えば、お金持ちは堂々と罰金を払って2人目を作っているわけです。様々な優遇措置も止められるようですが、それでひるむようではお金持ちではありません。違反で産まれた子供が党員になれないとか、就職差別されるとか、大学入試で減点されるとかはあまり聞かないのですが、あったら一瞬で一人っ子政策が浸透しそうですね。一応、公職につけない、公共サービスの受給資格が失われるなどの罰則がある地方もあるようです。もちろんお金持ちならば回避できる術も知っていることが多いわけですが。


■一人っ子政策改革の機運

さて「世界最速の少子高齢化」が進み、労働人口の増加が続く「人口ボーナス」もほぼ終了してしまった中国。そろそろ一人っ子政策を改革しようという機運が盛り上がっています。

例えば一人っ子政策の廃止に向けて、吉林、遼寧、江蘇、安徽、福建、天津、上海などの農村における単独家庭(夫婦のどちらかが1人っ子)には、2人目出産許可政策が進められています。単独家庭は1人目を生んでから4年以上間隔を空けるか、満28歳以上であれば、第二子を生むことが出来ます。

私の妻の兄夫婦は長女を生んだ10年後に男の子を生みました。兄夫婦はふたりとも一人っ子ではありませんが、農村戸籍で1人目が女児だったのでOKだったようです。ちなみにこの規定は漢族のものでして、少数民族の場合は別規定です。


■単独家庭の第二子出産許可、「解禁間近!」の誤報相次ぐ

この政策が都市部でも解禁されるらしい、いやガセでしたというやり取りが何度かありました。専門家は2015年までの全面開放を目指しているようです。

もちろん彼らは、「計画生育政策の放棄など提案しようと思ったことは無い」「基本的な国策は不変という前提で、人口政策は日々国情に合わせる必要がある」との建前は忘れていません。1985年からこの第二子開放政策は始まっており、テスト地点に選ばれた甘粛省酒泉市など11の地域では人口爆発など予想された問題は起きていません。

もちろんテストケースで失敗は出来ませんから、強烈なコントロール下におかれた結果と見る必要はあると思いますが。


■中国の人口は5億人でいい、一人っ子政策緩和に反対する人々

女性の社会進出が盛んになり晩婚化が進行したり子どもの教育費がかさむようになると、出生率が落ちるのは世界共通です。中国もすでにそうした状況が到来しており、一人っ子政策を緩和しても大きな問題はないとの見方が強まっています。

が、この動きに大きく立ちはだかるのが省トップである省委書記。人口増加、環境破壊、資源問題、就職などの理由を挙げているそうです。

社会科学院マルクス主義研究院の程温富院長は、「1人っ子政策をさらに厳格に進めるべき」と発言。人口は5億人まで減らすのが妥当という超強硬派です。本人すら少数派と認めているので、5億人説は無視するにしても、政府内にも短期的な人口急増は1人辺りGDPを押し下げるなどの反対の声が少なくないようです。


■一人っ子政策の罰金が地方政府の財源に

また、問題となっているのが、前出の社会撫養費であります。

年間200億元の社会撫養費が「第二子誕生」の最大抵抗勢力(経済観察網 2013/8/17)

浙江省の弁護士、呉有水が全国31省・市・自治区の計画生育部門、財政部門に2012年度の社会撫養費収支について情報公開を申請したところ、12の計画生育部門と19の財政部門とから回答がありました。

福建省:20億7686万元
広西省:8億6321万元
海南省:2498万元
河南省:15億9856万元
吉林省:6771万元
遼寧省:9100万元
四川省:24億5014万元
重慶市:16億5000万元
雲南省:2億2046万元
湖北省:7億9817万元

ここで公表されただけでもトータルで98億元(約1277億円)。全国では200億元(約3200億円)に達すると推定しています。

また呉の調査によると、県級以下の政府にキックバックされる社会扶養費は50%どころではないとのこと。80%から90%の社会撫養費が現地の計画生育部門に戻されるとあります。

社会撫養費が計画生育部門の収入全体のどれくらいを占めるのかまではデータが出てきていませんが、記事でも指摘されているように、「最大の抵抗勢力は計画生育利益集団自身である」、というのは間違い無さそうです。


■最下層の住民の犠牲で地方政府は回っている

社会撫養費は誰を「養う」のか(光明網 2013/8/4)

浙江省の社会撫養費は2009年時点で8億9400万元、前年比+13%。安徽省は2010年時点で8億4500万元、前年比+61%と近年物凄い増加を見せています。

社会撫養費は使途が全く不明なのですが、計画生育部門以外の最下層自治体の他部門で未払いとなっている給料の原資となっているケースもあり、なかなか手を付けられないのが現状なのかもしれません。

6ヶ月以上の胎児に禁止されている人工流産を強行したり、罰金を払えない妊婦が首を吊ったりと胸糞の悪い事件が後を絶ちませんが、最下層の住民に割りを食わせればとりあえず回っていることから、問題に手を付けるのはまだまだ先でしょう。

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*本記事はブログ「中国という隣人」の2013年8月18日付記事を許可を得て転載したものです。

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