• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

SF小説翻訳者を一般公募、“濃さ”が自慢のコミュニティサイト・豆瓣が新たな試み―中国(阿井)

2013年08月20日

■SFの宴-2012年ネビュラ賞受賞作品を中国語訳するイベント開催■
 


記事の要点
・ユーザー数の多さではなく、“濃さ”が売りのサイト・豆瓣。
・2012年ネビュラ賞受賞SF小説の翻訳者をユーザーから公募
・日本よりも翻訳出版ペースが早そうで羨ましい

■濃さが自慢のコミュニティサイト・豆瓣

以前に記事「異色の中国コミュニティサイト・豆瓣=「ユーザーの質」を頼りに電子書籍に参入」でも紹介したコミュニティサイト・豆瓣。ユーザー数では大手に負けていますが、濃さでは負けていません。映画評や音楽評の投稿ではやたらと長文の熱いコメントが多いですし、その電子書籍販売システムもユーザーの作品発表の場という位置づけが強いという。

その豆瓣がSF小説の翻訳で興味深い試みを始めた。2012年ネビュラ賞受賞作の翻訳権を獲得した上で、翻訳者を公募している。これもプロの翻訳家を集めるというよりは、豆瓣の誇る、濃いユーザーの実力に期待しているという意味合いが強い。

以下、阿井幸作さんが解説してくれた。(以上、文責は高口康太)


■SFの宴

一ヶ月前の情報で既にご存じの方もいるかもしれないけど、中国のSF界で面白い催しをやっていたのでその動きでもさらっと紹介。  中国のSNSサイト豆瓣の小説関係の情報が集まる豆瓣閲読にある同文館というコーナーでアメリカのSF作品文学賞『ネビュラ賞』2012年度受賞作の翻訳を募集しておりました。

20130820_写真_中国_SF_3

SFの宴-2012年『ネビュラ賞』作品トライアル翻訳開放豆瓣
 
2013年5月に第48回『ネビュラ賞』大会で2012年度のネビュラ賞受賞作品リストが発表された(ネビュラ賞受賞作品発表ページ、英語

受賞後まもなく豆瓣閲読は中長編小説部門受賞者Nancy Kress(ナンシー・クレス)と短編小説部門受賞者Aliette de Bodard(アリエット・ドボダール)と、3作品が入賞した中国系作家劉宇昆の正式な許可を得て、受賞作品を独占的に公開するという栄誉を与えられた。 

劉慈欣(中国の有名なSF小説『三体』の作者)曰く「SF小説とは科学の美しさを方程式から解き放つ橋である。君が年季の入ったSFマニアだろうが、翻訳の愛好者だろうがこのトライアルの参加を求む。一緒に橋に上って風景を見よう。」


現在英語から中国語へのトライアル翻訳を募っている作品は以下のとおり。

20130820_写真_中国_SF_2

『Immersion』作:Aliette de Bodard(アリエット・ドボダール) 2012年ネビュラ賞短編小説部門受賞作
『On a Red Station,Drffting』作:Aliette de Bodard(アリエット・ドボダール) 2012年ネビュラ賞、ヒューゴー賞入選作品
『Fountain of Age』作:Nancy Kress(ナンシー・クレス) 2008年ネビュラ賞中長編小説部門受賞作
『The Erdmann Nexus』作:Nancy Kress(ナンシー・クレス) 2009年ヒューゴー賞中編小説部門受賞作
『Shiva in Shadow』作:Nancy Kress(ナンシー・クレス)
『Scattered Along the River of Heaven』作:Aliette de Bodard(アリエット・ドボダール)
『The Two Sisters in Exile』作:Aliette de Bodard(アリエット・ドボダール) 

今回のトライアルでは参加者に上記作品の指定された部分を翻訳してもらう。豆瓣閲読の外国語編集者の校閲を通過し、最も良い訳者には豆瓣閲読と契約を交わし、1作品の全文章を翻訳してもらうことになっている。訳者は通常の翻訳料金より高めに設定(1,000文字/70元が相場らしい)した報酬と、電子書籍の印税20%を得られる。

また以下の作品は既に中訳がなされ、まもなく発表される。 

『After the Fall,Before the Fall,During the Fall』作:Nancy Kress(ナンシー・クレス)   2012年ネビュラ賞中長編小説部門受賞作
『All the Flavors』作:Ken Liu(劉宇昆) 2012年ネビュラ賞中長編小説部門入賞作品
『The Waves』作:Ken Liu(劉宇昆) 2012年ネビュラ賞中編小説部門入賞作品
『The Bookmaking Habits of Species』作:Ken Liu(劉宇昆) 2012年ネビュラ賞短編小説部門入賞作品

読者参加型の翻訳大会。催しとしては非常に面白いですし、このページで参加者の声が聞こえるのも良いですね。アリエット・ドボダールはフランス人とベトナム人のハーフだからベトナム語が混じっていて翻訳がスゴい難しい。と普通の翻訳作業では有り得ないクレームが聞こえるのは楽しいです。

トライアル翻訳の締め切りは8月31日までです。さてこれらの作品はどういう仕上がりになるのでしょうか。そして日本語版は翻訳出版されるのでしょうか。

関連記事:
異色の中国コミュニティサイト・豆瓣=「ユーザーの質」を頼りに電子書籍に参入
中国語SF星雲賞受賞の未来形小説=主人を失ったアバターが謎に挑む譚剣『人形軟件』(阿井)
【写真・動画】SFで何が悪いのか?!リアリティ・ゼロの“SF”抗日戦争ドラマを弁護する―中国
中国老舗ミステリサイトが選ぶ2011年トップ10=日本部門トップは西澤保彦『七回死んだ男』(阿井)
【中国本土ミステリの世界】中国は推理小説不毛の地じゃない!新たな才能たちの胎動を見よ

*本記事はブログ「トリフィドの日が来ても二人だけは読み抜く」の2013年8月19日付記事を、許可を得て転載したものです。 

トップページへ

コメント欄を開く

ページのトップへ