■中国経済は底入れしたのか?「地方国有企業のゾンビ化」を読む■
久々に中国経済ネタを。
「影の銀行で中国経済崩壊や!」「7月危機くるで!」と盛り上がったのも今は昔。今度は中国経済は底入れしたのではとの観測を見かけることも多くなってきた。とはいえ、それで中国経済の弱点が覆い隠されたわけではない。
資本効率の向上を実現する金融改革を断行できるか、地方政府の介入が引き起こす生産能力過剰を解消できるかといったところが当面の大きな課題となるわけだが、この2つの問題が集約された現象として「地方国有企業のゾンビ化」があげられる。
ゾンビ企業とは効率が悪く債務がかさみ企業体としてはアウトなのだが、市場から退出できない(=死ねない)という状態にある企業を指す。先日もブルームバーグが記事「ゾンビ企業続出-中国の太陽光発電業界、補助金継続の夢の跡」でゾンビ企業だらけとなった中国の太陽光発電業界について解説している。
このゾンビ企業について香港誌「財経文摘」が興味深い記事を出しているのでご紹介したい。ゾンビ企業の形成は一筋縄ではない。地元のGDPと雇用の確保のために地方政府が死なないように手当てしている、連鎖倒産が怖いので死なせられないといった話が紹介されているほか、2010年の土地融資プラットフォーム規制を受けて、地方国有企業の資産が県レベルの自治体が融資を受ける担保となり債務が悪化としたという興味深い指摘もある。
リーマン・ショック→景気対策の大号令→どんなプロジェクトでも認可が通る天国状態!がんがん作れ、資金は土地融資プラットフォームで集めましょ→2010年に規制→だったら影の銀行使います、地方国有企業の資産も担保にしてみた→イマココ
という流れ。他にも今話題となっている米国の量的緩和縮小ももとはといえばリーマン・ショック対策なわけで、あれから5年が過ぎた今も、ドミノ倒し的な影響を及ぼしているのが困りものだったりする。。
地方国有企業のゾンビ化初出:財経文摘、2013年9月
「中国経済は低効率だが、不安定なわけではない。」
雑誌『エコノミスト』の中国経済評だ。フィナンシャルタイムズ、ロイターも同様にヒョウしている。海外メディアの態度が(不安論から)一転したのは一連の中国経済統計に由来している。中国財政部は8月20日、今年1~7月の国有企業、国有持ち株企業の利益を発表したが、前年同期比7.6%増を記録している。この伸びは中国経済の安定について再び人々の自信を深めさせるものとなった。中国国際経済交流センター諮詢研究部の王軍副部長によると、中央政府による一連の安定成長対策により今後国有企業の利潤は更に上昇するとの見通しを示している。
国有企業全体の利益が伸びているとはいえ、すべての企業が大きく前進しているわけではない。上述の統計を見ると、中央企業(国家所轄の大型国有企業)の利益は14.9%と大きく伸びているが、地方国有企業は8.2%のマイナスとなっている。まさに雲泥の差だ。
生きのびられない低効率地方国有企業の上半期業績が続々発表されているが、営業収入は大きく伸びても利益は大きく落ち込んでいるというケースが増えている。中央企業の利益が二桁ペースで伸びているのに比べ、地方国有企業の利益はマイナス10.6%という落ち込みを見せた。
国有資産監督管理委員会研究センターの胡遅研究員によると、中央企業と国有企業の業績が二極化している理由は両者の業種の違いに由来しているという。地方国有企業の多くは生産能力過剰が深刻な業界、Ⅲ号構造転換の真っただ中の業界に属している。国有資産の額が大きい山東省を例に見ると、省管轄の大型国有企業、兖砿集団有限公司、済南鋼鉄集団総公司、莱蕪鋼鉄集団有限公司、新汶砿業集団有限責任公司、山東黄金集団有限公司などはいずれも利益額が大きく落ち込んでいる業種に属している。
コンサルティング企業、中投顧問産業研究部のマネージャー、郭凡礼氏によると、中央企業のマーケットは比較的安定しているが、地方国有企業の資源関連企業は経済周期の影響を受けやすい業種に属しているという。浙江省国有資産監督管理委員会提供のデータによると、今年上半期の浙江省国有企業の利益は主に電力、エネルギー、不動産、資本運用によるもので、製造業など実体経済の利益は少ない。しかり利益をあげている業種も石炭価格や資本市場、マクロ経済政策に影響され安い。その利益は不安定なものだ。
生産能力過剰の影響のほか、大量の資金がいまだ成果をあげていないインフラ建設に沈殿していることも、地方国有企業の資本効率が低迷するもう一つの要因となっている。財政部の発表によると、今年上半期に地方国有企業の負債は前年同期比17.9%増加したが、営業収入の伸びは12.6%にとどまっている。つまり差額の5.3%の負債はいまだに売り上げに寄与していないことになる。
地方国有資産監督管理委員会のある官僚は、地方国有企業の多くは地下鉄、公共交通などの公共企業が多く、もともと経済効率は高くないとコメントした。地方国有企業の制度変更、構造転換などの問題を考えると、今後1~2年でさらに経営効率は低下する可能性が高く、“ゾンビ国有企業”はますます増えるだろうとの見通しを示した。
“ゾンビ国有企業”とは経営を持続できないが、しかし破産もできない企業を指す。こうした「生き続けることも死ぬこともできない」企業は、中国の産業構造転換と改革にとって大きな障害になるだろう。
問題はマクロ経済の情勢が利益に影響するだけではなく、高止まりした債務負担もまた地方国有企業を“誘拐”する重要な要素となっていることだ。
債務不履行があっても死ねない企業財政部の統計によると、今年1~6月の地方国有企業の累計財務は前年同期比で17.9%増加した。中央企業の債務は8.8%増にとどまっている。
「地方国有企業の負債率は通常70%以上に達している。85~100%に達している企業もあります。この数値はすでに債務が臨界点に達したことを意味しています」と財政部財政科学研究所国有資本研究センターの文宗瑜主任は言う。
なぜこれほど負債が増えたのか。文主任は過去数年、国有企業には大型化強大化の方針が支持されたためだという。中央企業、地方国有企業は合併買収を繰り返し、負債を増やしていた。また国有企業は行政的経営を担わなければならず、これも債務を増やす要因となっている。
しかし地方国有資産監督管理委員会の官僚は、過去2年の債務急増は地方政府に問題があると指摘する。
2010年に地方政府の土地融資プラットフォームの規制が始まった。土地財政の規制を受け、地方政府の伝家の宝刀、「土地」と「融資プラットフォーム」は収縮し、政府の公共プロジェクトの多くは資金難に苦しむようになった。それに代わる一般的な手法は以下のようなもの。地方国有企業の優良資産を一つのプラットフォーム(管理会社)に集め、そのプラットフォームが企業債を発行することで政府の資金需要を解決する。これこそ過去2年間に一部の地級市や県が融資を得るために使った手法だという。
債務の増加は企業の財務コストの持続的な増加につながる。財政部の統計によると、今年1~6月の地方国有企業の財務コストは前年同期比12.3%の増加という歴史的高水準を記録した。負債の増加が続く地方国有企業は、資金問題こそ成長を阻害する重大なボトルネックになっていると認識している。
「それぞれの地方の固定資産投資はいまだに大きな伸びを示している。今後のプロジェクトの資金はどう保証すれば良いのか?」湖北省国有資産監督管理委員会は今年上半期の湖北省出資企業の状況を総括した際、こう懸念を表明した。
モルガン・スタンレーの首席中国エコノミストの朱海濱氏によると、中国企業の債務の急増は中国金融の体系的リスクに影響する重大な要素になっていると指摘する。より多くの企業に退出できる仕組みを用意し、債務不履行は正しく不履行として扱い、閉鎖すべき企業は閉鎖すべきだと主張する。
こうした主張は言うは易く行うは難しとものだ。ましては負債を抱えているのは「国有」の看板を背負った企業なのだ。破産法によると、債務超過に陥った地方国有企業は破産手続きをとることになっている。しかし地方政府はそう簡単に破産させようとはしない。これは文主任の指摘だ。第一に破産させれば銀行は責任を追及されることになる。そのため借り換えに応じたり、あるいは返済期限の延長に応じることになる。第二に地方GDPや従業員の処遇という問題もある。地方国有企業は重要な雇用の受け入れ先だ。
そればかりではない。三角債(
説明記事)、相互保証(地方国有企業同士がそれぞれの債務の保証を引き受けている)もあれば、地方国有企業が民間企業の担保を引き受けているケースもある。一つの地方国有企業が破綻すれば、大きな連鎖反応を生むと懸念されている。
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地方企業問題は、日本の自治体と同じ構図なんですけど成長が速かった分、歪みもが来るのも速かったと。