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「風立ちぬ」の「ぬ」ってなんだよ?!アニメタイトル翻訳に悩む中国人オタク(百元)

2013年09月17日

■中国オタク「『進撃の』や『立ちぬ』って中国語に訳すのが難しいよな……」■

スタジオジブリ 1000ピース 風立ちぬ 1000-265

■納得のいかない中国語タイトル


ありがたいことに「中国オタクの間では中国語タイトルの訳の正しさのようなものに関してツッコミが出たりするのでしょうか?」という質問をいただいていますので、今回はそれについてを。

当然ながら中国で広まるタイトルは中国語になったものがほとんどですが、ご質問にあるように中国オタクの面々の納得のいかない中国語タイトルになるケースもあるようで、時折中国語タイトルに関するツッコミの声が上がったりもしています。

例えば最近の話題作である「進撃の巨人」や「風立ちぬ」は直訳では正確に訳すのが難しい作品ということもあってか、現在も中国のネットでは中国語タイトルに関するイロイロな討論やツッコミが飛び交っているようです。そんな訳で今回は中国のネットで見かけたその辺に関するやり取りを例によって私のイイカゲンな訳で紹介させていただきます。


■中国人オタクの議論


日本語がある程度使えるようになると日本語の情報に直接アクセスできるんで見えるものが一気に増えて面白くなるが、それと同時に疑問や意識してしまうツッコミ所も増えてちょっと困る。作品名の中国語タイトルなんかもそれだ。例えば最近の大作「進撃の巨人」や「風立ちぬ」でも訳名に関してゴタゴタと話題が尽きない。みんなはどう感じている?

その悩みは分かるぞ!実際、「進撃の」や「立ちぬ」って中国語に訳すのが難しいよな……作品名として意識されるものだから、直訳で正確であればいいわけでもないし、冗長なものでもダメだし。

進撃の巨人は「進撃」という言葉が中国語には無いのもややこしいんだよね。「進撃」という日本語の単語は意味的には中国語の「進攻」「攻撃」になると思うんだが厳密に考えると語感に少々の違いもある。

「進撃の巨人」はそのまんま「進撃的巨人」になっちゃっているけど、「進撃」という言葉、に加えて「の」をどうするかという問題もあるんだよな。日本語の「の」って中国語の「的」に置き換えればいいみたいな捉え方もされているが、場合によっては「的」に置き換えられない言葉だし。

こういうのって「そんなことまで気にするな」と言われればそれまでだが、ハマってしまった作品だし「日本語の意味を正確に訳したらどんなものになるのか?」というのは気になってしまうよね。

「進撃」という言葉の意味もそうだし、その言葉がどこにかかるかというのも問題だ。

確か公式の英語タイトルは「Attack on Titan」だっけ。ただこれだと日本語とはまたちょっと違うように思えるんだよね。元の日本語のタイトルの凄い所は「進撃」と「巨人」という言葉が敵味方どちら側のものなのか、話の進展によって印象が変わってくることだと思う。

あと最初のどっかのファンサブ翻訳だと「Advancing Giants」になってたな。これはこれでストーリー展開やエレンの立ち位置の変遷を考えると間違っていないように思えるし……

「進撃の巨人」の日本語原題ってそれ自体が伏線になっている、非常に良いタイトルだと思う。ただそれを中国語に訳す、しかも簡潔に……となるとホント難しい。

「進撃の巨人」はまだなんとなく分かるからいいだろ。最近の作品でダントツに難しいのは「風立ちぬ」だよ。「風立ちぬ」の「ぬ」は難しすぎる。

「風立ちぬ」は「進撃の巨人」より更にゴタゴタしている印象だな。しかも商業レベルの問題にまでなっているようだし。

結局、台湾と香港で別の中国語タイトルで上映になったからなぁ……香港が「起風了」で台湾が「風起」で上映になったんだっけ?

「風立ちぬ」は日本語を勉強している人間の間でも理解が分かれたよね。中国語翻訳名でよく出ていたのは「起風了」、「風起」、「風起了」、「風起之時」、「風吹了」、「風雪黄昏」、「逝風残夢」といった辺りか。

「風不停」、「不停風」、「不会停歇的風儿」というのもあったな。

「風雪黄昏」、「逝風残夢」はなんか違うけど、これどういう理由で出たの?

「風雪黄昏」、「逝風残夢」は山口百恵の同名の映画の中国語タイトル。そちらもジブリのアニメと同じく堀辰夫の同名小説が原作の映画。ただジブリの今度のアニメは堀辰夫の小説を参考にしてはいるが、小説をそのままアニメ化しているわけでもないらしいから、そこもまたややこしいことになっている。

「となりの山田くん」みたいなタイトルだったら何の問題も無いが、「風立ちぬ」とかだと混乱するよね。考えれば考えるほど難しくなる。こりゃもう訳者のセンス次第だろうな。

正確に訳す、内容を説明するとなるとグダグダな訳になりかねないからね。そもそも「風立ちぬ」の「ぬ」をどう理解するかで印象がかなり変わるわけだし……

正確に訳そうというのも分からなくはないが、私は「風雪黄昏」とかも詩的で良いと思う。これにならなかったのは翻訳した人間或いは配給会社が山口百恵の名作映画とかぶるのを嫌ったんだろうか?

装飾しすぎるというか、原題の短い言葉によるシンプルな語感を崩すのもどうかと思うんだけどね。は意味が若干抜け落ちても「風起」や「起風」とかでいいと思う。

ネットでは「風起之時」と言うタイトルでも広まっているが、これでもいいんじゃないの?

いや、それだと明らかな誤訳になるはず。この場合は「ぬ」は完了形になるはず。また日本の古文だと「ぬ」が連用接続系になったりするが、それでも「風が起こったばかり」という意味の訳ではまずい。


私は「不会停歇的風儿」が良いタイトルに思える。語感まで正確に訳すのは難しいんだし、直接翻訳のタイトルにする必要はない。中国語タイトルは作品のストーリーにあったものであればいいだろ。

そうなると余計にややこしくなるぞ。タイトルと内容の関連をどう見るかは個人の感性次第だし。

「不会停歇的風儿」だとさすがに脳内補完しすぎじゃないか?「風立ちぬ」の意味が消えているし、「不会停歇」とかちょっと違いすぎるだろ。
(訳注:「不会停歇」は日本語では「休むことのできない」といった意味になります)

横から言わせてもらうけど、「不会停歇的風儿」も根拠が皆無ではないぞ。1954年版の同名の映画の中国語タイトルがこれなんだ。訳が正確かどうかはともかく、映画の内容に沿ったものではある。

「千と千尋の神隠し」が「千与千尋」と「神隠少女」など複数の中国語タイトルで知られていったように、この「風立ちぬ」も複数の中国語タイトルで広まっていくことになるんじゃないかな……

まぁ、こういう話題が出てきちんと納得のいくタイトルを探そうとしたりする意識が広がるのは悪いことじゃないと思うよ。ジブリ作品は過去にアレな中国語タイトルで広まっちゃったのもあるだろ?そう……「魔法公主」という中国語タイトルでも広まっちゃった「もののけ姫」のことだ!最近は別の中国語タイトルである「幽霊公主」の方がきちんとメジャーになってきているので少しほっとしている。

とまぁ、こんな感じで。


■もののけ姫 → 魔法のプリンセス

漢字が共通しているとはいってもそれをそのまま持って来ればいいという話ではありませんし、日本語のタイトルを語感まで含めて完全に訳すのも難しい話ですから、中国語のタイトルに関してもイロイロと納得のいかない部分が出てしまうようです。

ちなみに上の方でも出ている中国で比較的よく知られている「もののけ姫」の中国語タイトルの一つである「魔法公主」ですが、これは日本語の語感的には「魔法のプリンセス」みたいな意味にも取れてしまいますね。

とりあえず、こんな所で。例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。

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*本記事はブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」の2013年8月17日付記事を、許可を得て転載したものです。

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