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2013年09月27日
■民主派勢力弾圧……だけではないネット取り締まり
中国政府はネット取り締まりの強化を進めている……と言うと、「独裁政府VS自由を求めるインターネットの民」という構図をついつい想像してしまうが、実はそれだけではない。日本と比べてネットの力が強い中国だが、その力は対政府にだけ向けられているわけではないためだ。
このことを理解する好例とも言うべき事件が広東省東莞市で起きた。警察幹部2人が拘束されたのだが、その容疑は「ネット宣伝会社を利用して上司を失脚させるためのデマを流した」というものだ。
■警察幹部がネット宣伝会社にデマ書き込み依頼
2013年9月17日、東莞市紀律委員会は同市南城街道公安分局局長・魏向民、副局長、孔逸鵬の2人が深刻な紀律違反のために共産党による取り調べを受けていると発表した。
公式には容疑について発表されていないが、18日付南方都市報電子版の報道によると、ネット宣伝会社に金を支払い、マイクロブログやネット掲示板を通じて、元南城街道公安分局局長、現南城街道共産党委員会の蘇東副書記を誹謗する内容を流していたという。また新華社や南方都市報などメディアにも同内容の通報メールが送られていた。人事について、蘇副書記と魏、孔がもめていたことが動機とみられる。
検索すると、いまだにネットにはその情報が大量に残っているが、複数の女性警官を強姦した、自分の書を基層自治体に買わせていた、土地収用の補償金を横領した、住宅地を違法に取得し物件を建てた、規則違反の大型ネットカフェの開設を許した、安価に借りた政府の物件を高値で又貸しした、虚偽のプロジェクトを申請し補助金を横領した……などが告発されている。
こうした書き込みは昨年末、今年半ばの2回に分けて大々的に展開されたが、8月末に攻撃対象となった蘇副書記自ら紀律委員会に連絡し、自分を徹底的に調べて欲しい、また書き込みの犯人を逮捕して欲しいと願い出た。
捜査の結果、9月上旬に東莞市警察は書き込みを行っていた東莞市のネット宣伝企業職員数人を逮捕、依頼者である魏、孔の名前も明らかになったという。
■「殺人事件あったって来いただけど、誰か知らない?」の書き込みで逮捕
現在、中国はネット取り締まりの強化を進めているが、メディアなど主に話題に上るのは「大V」(10万人以上のフォロワーを持つ、認証アカウントのマイクロブログ・ユーザー)の摘発だ。福島香織の記事「中国の大がかりな「デマ退治」」がよくまとまっている。
ただしその一方で無名のネットユーザーも各地方で大量に摘発されている(南方都市報)。その数は数百人を超えるとみられる。「殺人事件があったって聞いたんだけど、誰か真相を知らない?」とネット掲示板に書き込んだ女性が、公共の安全・秩序を深刻に乱した罪で行政拘留(軽微な罪に対する刑事罰で裁判なしに科すことが可能。最長で15日間の拘束)を受けたという。また交通事故の死者数を実際は10人なのに16人と書いたネットユーザー、3人の死亡を7人と書いたネットユーザーも行政拘留の処分を受けた。
こうした無名ネットユーザーに対する取り締まり強化は夏頃から発表されたり、メディアで報じられるようになったが、地方政府は今春から動きを見せていたという。9号文件を発端とする中国共産党のネット規制のあらわれだ。
(関連記事:ニューヨークタイムズのスクープ「9号文件」=「小毛沢東」習近平と李克強改革―中国)
■ネット宣伝企業のお仕事
「大V」や無名ネットユーザーと並んで、もう一つ槍玉にあげられているのがネット宣伝企業となる。上述の警察幹部の拘束もその一つ。武漢市では比較的大手のネット宣伝企業が摘発されたが、なんと312もの大Vアカウントを保有していたという。
メディアが強力に規制されており信頼度が低い中国では、他国以上にネットの情報が力を持っている。ネットの告発を契機として摘発された汚職官僚は数知らず、負の情報が拡散して企業が痛手を負うケースも無数にある。
ただネットに書き込めばどんな情報でも拡散するわけではない。人々にひっかかるような情報を用意し、いろんな人の目に触れるようにあちらこちらに書き込み、さらにはその話題が盛り上がっているようにみせるためサクラによる自作自演のやりとりをちりばめる……。ライバル企業を蹴落とすため、政府との補償金騒動に勝利するため、賃上げ交渉で会社を折れさせるため、こうしたお仕事は欠かせない。そのプロフェッショナルがネット宣伝企業なのだ。
■煽りと誇張で世の中を動かす中国のネット
中国ではネットは強力な力を持つ。ただしそれは人々の注目を集めて初めて力となりうる。そのために話を盛るのは鉄則。強制土地収用で農民と政府が衝突したという写真にはだいたい似たような構図の、血まみれで倒れ伏す写真が添えられている。ストライキでもめ事があったとなれば、「妊婦が殴られて流産した、死亡した」という話はつきものだ。あるいは思わず突っ込まずにはいられない、面白すぎる画像やネタも強力なツールとなる。
逆にこうしたテクニックを持っていない人、ネット宣伝会社に頼む資金がなかったりそうした発想を持っていない人には中国のネットは冷たい世界だ。先日、北京空港で爆発事件を起こした男性がいた。警察に委託された警備員に暴行され傷害が残った男性は補償金を求めて政府に陳情を繰り返していたが無視され続けてきた。そのいきさつをネットに書きつづっていたが、事件まで注目されることもなかった。爆発事件という騒ぎを起こして初めて注目を集めることに成功したのだ。
日本のネットにも過剰な表現や煽りはいくらでもあるが、中国ではそれが実際の利益につながりやすいため、より強力なものとなっている。中国のネット規制は、支配を不安定にさせる体制批判的な言論の取り締まりが第一義的な目的ではあるが、それだけではなく誇張と煽りが世の中に大きな影響を与える現状を変えようという意図も込められている。
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