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「俺妹」は中国オタク事情的にもスゴイ作品でした オタ中国人の憂鬱アップデート(百元)

2013年10月01日

■「俺妹」は中国オタク事情的にもスゴイ作品でした オタ中国人の憂鬱アップデート■

オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力

■オタ中国人の憂鬱アップデート

2年ほど前にブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」のまとめ本「オタ中国人の憂鬱 怒れる中国人を脱力させる日本の萌え力 オタ中国人の憂鬱」を出させていただきましたが、この2年で中国オタク事情も大きく変わり、書籍の内容も一昔前の話になってしまっています。また、いつもの中国オタクの反応という形では紹介するのが難しい話というのもたまってきていますので、「オタ中国人の憂鬱」のアップデートになるような話を書いていこうかと思います。

第9回となる今回は中国オタク事情の変化や今の状況についても見て取れた作品「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」に関して少々書かせていただきます。後の方には最終巻の展開に関するネタバレも混じっておりますのでお気を付け下さい。

<オタ中国人の憂鬱アップデート>
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■最終エピソードの世界同時ネット配信の成功

先日、アニメ第二期の14~16話の配信が行われアニメも無事完結した「俺の妹がこんなに可愛いわけがない」ですが、この作品は中国オタク内での人気の高さもさることながら、中国本土における作品展開や内容への中国オタクの面々の反応などでもイロイロなことがあって非常に面白い作品でした。

大雑把に言えば「俺妹」は「中国本土における様々な展開で中国オタクの日本との距離を縮めると共に、作中の内容によって日本との違いを際立たせた作品」だったように思えます。

中国本土における作品展開では原作ライトノベルの簡体字翻訳版の出版、現地向け関連グッズの販売、現地動画サイトでの公式アニメ配信などの、現時点の中国で行える正規の展開がほぼ全て行われていた感がありますが、なかでも公式のアニメ配信の最終エピソード世界同時配信は今までにないものでした。

最終エピソードのネット公開、しかも世界同時配信というのは今までにない試みでしたが、「中国本土での配信が日本の公式情報できちんと事前に告知された」(公式ページ)という点も中国オタク事情的には非常に珍しいものでした。少なくとも、ここ最近の中国におけるアニメの公式配信の流れではこういった告知は無かったように思います。

契約の関係か広報の関係かそれとも他の事情によるものなのかハッキリしませんが、基本的に中国本土におけるアニメ配信に関して日本中国問わず事前にきちんとしたニュースが流れることは少なく、また実際に配信する中国現地の動画サイトでも配信直前の告知になるケースがほとんどです。
 
そんな中で「俺妹」のアニメが日本の公式サイトにおいて中国での配信も含めての情報がしっかり告知されたというのはちょっとした驚きの事態でした。

また、この最終エピソードのネット配信が「中国でもきちんと話題になり人気を獲得できた」というのが中国オタク業界的には大きいという話もあります。

中国オタク内の人気の傾向として、新番組扱いでアニメが放映中の間は追っかける人も多く人気が保たれるものの、放映が終わってしまうと次の新番組への興味や話題に一気に埋もれてしまう……というのがあります。

日本では劇場版やアニメ以外の作品展開の情報でまだ盛り上がっている作品でも中国オタク内では既に過去の存在で話題にならない……といったことが頻繁にありますし、単発のアニメも「新番組アニメ」の話題に埋もれがちでした。

「俺妹」は第2期アニメのテレビ放映及びネットでの毎週の配信が終了してから最終エピソードのネット配信までの期間が比較的短いという点もありますし、それ以前の作品と単純に比較はできませんが、それでも「番組放映終了後に間をおいて出た作品でも話題になって人気を獲得できた」という成功の事例ができたというのは大きいそうです。


■最終巻で大炎上

次に内容への反応についてですが、作中で出てくる個別のエピソードやネタへの反応、各ヒロインのファンによる派閥闘争なども面白かったのですが、中でも「最終巻の展開とそれに対する大炎上」が印象的でした。

この大炎上に関しては以前の記事「俺妹最終巻の展開に発狂する中国オタクが出ている模様」でも紹介させていただきましたが、現在の中国オタク内における作品の受け取り方がイロイロと出ていました。

この炎上は作品に対するモノとしては今までにないほどの荒れっぷりでしたが、炎上に至った情報についてはネタバレ情報が日本のネットにのると、ほぼタイムラグ無しで中国オタク界隈にも伝わっていたようです。大手の現地ポータル系オタクニュースサイトにも発売日当日頃には既にネタバレ情報が載っていました。

こういった情報のタイムラグはどんどん無くなっていますが、その結果日本と同じように情報につられて炎上するのも避けられなくなっています。しかも、こういった情報が伝わる場合、細かい部分がどんどんそぎ落とされたり、分かり易く「釣れる」部分だけが強調されるようになっていきますので、最終的には現地の人間が「炎上し易い」形に加工されたり尾びれ背びれ胸びれがついたりしていくのが何とも難しい所ですね。

この炎上の反応を大雑把に見た所では
 
「黒猫エンドが良かった或いは黒猫エンドならまだ納得できた」
「桐乃が嫌い」
「妹とくっつく展開がありえない、桐野エンドなんか認められない」

という反応が多いようでした。


俺の妹がこんなに可愛いわけがない (12) (電撃文庫)

■コメディだと思っていたら……

こういった反応に関しては日本でも多かれ少なかれあったかと思いますが、中国ではネガティブな方向でかなり強烈に出ていました。中でも日本との違いが目についたのは「妹とくっつく展開がありえない、認められない」ということについてですね。

中国オタク内でのヒロイン人気は、黒猫が一番人気で次があやせ、後はドングリの背比べ状態だったようですし、それに加えてハーレム系、ラブコメ系の作品というよりも、「生徒会の一存」のようにオタクネタを作中で扱うコメディ寄りの作品、オタク関係のネタやオタク趣味を中心とした生活を疑似的に味わうことのできる作品といった形で捉えている人も多い作品でしたから、「妹エンド」というマニアックな、倫理に抵触しそうなネタ、言ってみればある種の危険球が来るとは思いもしなかった……という人が少なくなかったそうです。

この原作小説の結末に関しては、安全だと思っていた作品が突然安全ではなくなった、覚悟や予想をしていた痛み(精神的に痛い展開、鬱系の展開、「桐乃以外の」自分の意中では無いヒロインとくっつく或いは誰ともくっつかない結末)によるダメージとは違った方向からの衝撃だと感じられたりもしたそうです。

また「俺妹」という作品はその最初からして未成年とエロゲー、妹との関係などといった、かなりアングラよりと言いますか、危ない橋を渡る作品ではあったと思うのですが、その辺りのことに関して中国オタクのファンの間ではあまり意識されていなかった……というのもあるのだとか。


■エロゲーという趣味の危うさ
 
考えてみれば「エロゲーと妹」という作品の第一歩に関して、既に中国オタクの間での捉え方が日本とは違うのですよね。

中国オタク内ではネットなどの違法流通ルートが主流なこともあり、ヒロインや恋愛要素の目立つ一般PC作品、家庭用ギャルゲー、18禁エロゲーの区別があまり意識されていませんし、それらを「galgame」という名前で一緒くたにしてしまっていますから、オタク内でのエロゲー作品の取り扱い、エロゲーとそれ以外のゲームの間に存在する「壁」についての感覚が日本とは全く異なります。
 
中国オタク内ではエロゲーを遊ぶことのヤバさというのが、せいぜい「エロ本見ている」「エロサイトを見ている」のに近いレベルでしかないという話もありますね。

それに加えてショップ流通というのが中国には無いことから、未成年がエロゲーを買うことの難しさ、恥ずかしさというのが想像できない人も多いようです。

そんな訳で、中国オタクの面々の中でこの作品において出てくる「エロゲーという趣味の危うさ」に関して本当の意味で理解している、日本の感覚で描かれているものを理解できている人がどれだけいるかとなると疑問が残ります。

そして、この作品の原作小説最終巻のエンディングで唐突に「中国の感覚でも理解できる」「中国の感覚では逆に日本よりも強烈なものになる」、妹エンドにぶつかって、突如として「理解できる危うさ」と向き合ってしまっての混乱になっている……といった所もあったようです。


■日中の情報差、体験の違い

それからこの炎上に関しては日本と中国の情報の差、体験の違いというのが改めて浮き彫りになっていたようにも思います。
 
「俺妹」はエロゲーをはじめとする各種ゲームや関連商品展開などを作中のネタに使っている上に、ゲームなどの関連作品でもそういった作品の要素を取り入れていますし、サブキャラへのサービスや個別のエンドなどもゲームや特典小冊子などで行っています。

そういったこともあり、私も原作小説の最終巻が出る前は「原作小説が自分の好きなキャラ以外のエンドになる」というケースに関して、中国オタク内でちょっとした炎上は起きるかもしれないがダメージに関してはそこまで大きくないのでは……などと考えていました。

しかし、中国オタク内では「原作小説での終わり方が自分の望むものではなかった」というのがかなりのダメージになってしまったようです。一応中国オタク内でも「この結末が気に入らないならゲームやれば?」といった声も無いわけではなかったのですが、炎上の中では埋もれてしまっていました。

もちろん「俺妹」の中国における人気の高さからして、こういった情報や体験、感覚の違いが作品を楽しめるかどうか、人気になるかどうかという点に関して必ずしも影響するわけではないと分かりますが、「俺妹」のような作中で様々なオタクコンテンツをネタとして扱う作品であっても、まだこのような違いが強く出て来るというのにはイロイロと考えさせられました。

とりあえず、こんな所で。例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。

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*本記事はブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」の2013年8月27日付記事を、許可を得て転載したものです。

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