中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2013年10月01日
Beijing, China: Liang Ma river, behind Kempinksi hotel / Marc van der Chijs
「相続税が間もなく導入か」とのニュースが中国で話題となっている。“持たざる者”は支払う必要がない相続税は比較的庶民受けがいい税金だが、中国メディアやネット世論は反発一色というちょっと面白い状況にある。
■11月にも相続税導入が決定か
発端となったのは2013年9月25日の中国網の報道。国務院惨事、中央財経大学税務学院副院長の劉恒氏が講演会で、11月開催予定の三中全会(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)に盛り込まれる見通しだと明らかにしたためだ。
劉氏によると、「中華人民共和国相続税暫定条例」(草案)は2004年にすでに作成済み。2010年には改訂されていたという。後はタイミングを図るだけだった。
草稿によると、相続税の控除額は80万元。81万~200万元に20%、201~500万元に30%、501~1000万元に40%、1000万元超に50%の税が課される。また死去の5年前までの譲渡は相続とみなされる。
もっとも2010年の草稿がそのまま採用されるかどうかは未知数な上に、劉氏自身も後に発言は政府の決定ではないと火消しに転じている。実際、権力層の反発も強く導入は困難ではないだろうか。
■相続税反対一色のメディア
まだ噂話の段階にもかかわらず、突然の相続税導入話は大きな反響を呼んでいる。
網易は「中国相続税草案は海外よりもはるかに過酷だ」を掲載した。日米英では採用されている配偶者の相続税軽減や免除が盛り込まれていない、ドイツで採用された中小企業の経営者の相続税軽減がない、相続税が導入されれば生きている間に資産を使い果たしてしまい長期的投資には不利、遺産を残す意欲がなくなり怠けるようになる、各国で相続税の控除額引き上げや相続税撤廃の動きが相次いでいる……と、各国の事情やらさまざまな主張をまぜこぜにして、相続税反対の論陣を張った。
他にも新京報が「相続税の控除額は80万元、中産階級に対する略奪との指摘=西側諸国の多くはすでに撤廃」とのタイトルで報道するなど、反対一色という印象だ。
■“持てる者”が増えた中国
なんであれ税金が増えるというのは反発を招くものだが、“持たざる者”は支払わなくていい、貧富の格差を是正する役割を持つという意味で、比較的庶民受けがいい相続税がこれほどの反発を招くというのはちょっと面白い状況である。
それはなぜか。中国では政府に対する信頼が低く、税金で公共サービスと再分配を支えているという意識が弱い。税金を払っても官僚を肥やすだけだと思われている……というのがありそうな説明だが、それ以上に大きいのは“持てる者”が増えたという点だろう。
大都市で持ち家を持っている人ならば、資産が80万元(約7700万円)超というのはざらである。そんなに裕福ではない家庭でも以前に買ったマンションの評価額が80万元を超えているというケースはざらだ。しかも他の資産と異なり、不動産資産は相続税から逃れることは難しい。導入されれば相続税を支払えずにマンションを手放さざるを得ない……という事態も続出しそうだ。
1970年代には「万元戸」という単語があった。年収が1万元以上、あるいは1万元以上の貯蓄がある、お金持ちの世帯を指す言葉だった。40年が過ぎた今、100万元の資産を持っている世帯もお金持ちではなく中産階級扱いというわけだ。
貧乏人は補助金やらなんやらで支援され、金持ちは権力を使っておいしい汁を吸っている。中産階級が一番割を食っている。ネットユーザーの中核がいわゆる中産階級だけに、中国のネットではこうした意見が支配的だ。というわけでネット世論にウケがいい相続税を作るためには、中産階級が支払う必要がない程度に控除額を上げる必要がある。
その金額、つまり中産階級と富裕層を分ける一線は今だとどのあたりが相場なのだろうか。日本の相続税は5000万円(プラス法定相続人1人につき1000万円)が基礎控除だが、中国の文句の出ないラインも似たようなレベルかもしれない。
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