• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

映画「パシフィック・リム」が中国で“だけ”ヒットしたのはなぜか?中国人オタクの疑問(百元)

2013年10月13日

■中国オタク「パシフィック・リムはなんで中国でだけ、こんなにウケたんだろう?」■


ありがたいことに「中国におけるパシフィック・リムの人気について」の質問をいただいておりますので、今回はそれについてを。

この夏に公開された映画「パシフィック・リム」(公式サイト)ですが、個人的にはこの夏の映画では一番の当たりでした。字幕版と吹き替え版を両方見て、それに加えて日本に来た知り合いの中国オタクの「豪華声優の日本語吹き替え版が見たい」というリクエストでもう1回吹き替え版を見に行ったので計3回見てしまったのですが、これだけ同じ映画を劇場で見たのは久しぶりです。

さてこの「パシフィック・リム」ですが、アメリカや日本よりも中国本土でモノスゴイ人気となっています。「パシフィック・リム」は中国でこの夏一番といってもいい人気となり、7月末に公開されてから3週連続で映画ランキングのトップとなり、中国での興行収入は約6.6億元、ドル換算では1億ドルに達したそうです。
「パシフィック・リム」興収が異例の米国超え=日本アニメの必殺技まで登場する“神字幕”も話題(レコードチャイナ)

しかしイロイロとツッコミ所のある作品なのは確かですし、中国でも「なぜこの作品がここまで大人気になったのか?」ということに関する疑問が出ているようです。そんな訳で今回は中国のソッチ系のサイト等で見かけたその辺のやり取りを、例によって私のイイカゲンな訳で紹介させていただきます。


■中国人オタクの議論

パシフィック・リムはなんで中国でだけ、こんなにウケたんだろう?ウチの国では一定以上の人気になれば「みんな見ている」という理由で「見に行かなければならない」と一気に人が増えるが、普通はそこまでいくのが難しい。パシフィック・リムという作品がそこまでいけた理由は何だろう?

オタク受けするのは分かるが、それ以外の評価はどうなんだろうと思ってしまうよね。個人的にはIMAXで見てチケットの値段以上に楽しませてもらったと感じているが。

あー、私の知り合いで特撮もロボも興味ない人間がこれにハマってむちゃくちゃ語りまくって正直ウザいくらいだ。ハマる人はハマるんじゃないだろうか。

たまに公園や学校内に設置されている健康器具の足踏み器に並んで乗ってドリフトごっこしてるヤツを見かけるくらい人気だよね。

20131013_写真_中国_
*画像は2012年、洪水の湖南省益陽市沅江県の公園。

これは「光の巨人(=ウルトラマン)じゃなくて鋼の巨人が怪獣と戦う作品」とでも言えばいいのかね。ストーリー自体もウチの国の抗日戦争モノでよくあるような話だし、イロイロな所で既視感を覚える作品だった

話がつまらない上に長いし、私は途中で見るのをやめて映画館出ちゃったわ。こんなのが人気になるとか、我が国の映画市場とその観衆を考えるとやってられない気分になる。

私もこの作品、全然面白くなかった。特殊効果とかは光るものがあるけど、それだけ。見終わっても何も残らない。私はSF的な世界観やストーリー展開があるかと期待したんだが……いきなりロボVS怪獣になるし……

本当になんでこんな退屈なダメ映画、しかも中国を貶めているような内容なのにこんなに興行収入がいいんだろう。俺は見ていて眠ってしまった。現在の我が国の人間は高級な娯楽を享受することもできるのに、なぜこんな低級な娯楽で満足してしまうなんて。ある意味では昔より不幸になっている。

いやいや、別に中国を貶めてはいないと思うぞ。そりゃ中国のロボはあっさりやられるが、それを言ったらアメリカ以外は全部アレだし、ロシアのロボなんかはもっとひどい。あと娯楽として「分かり易い」ってのはプラスになったと思うよ。アラの目立つストーリーではあるけど、私としてはよくあるラブストーリーを見せられるよりは良かった。

そもそもこの作品はストーリーを見に行くもんじゃなくてロボと怪獣を見に行くもんだろう。そしてそれをIMAXで見ることができるんだから娯楽としては悪くない。

「中身のある作品」を求めている、或いは「映画とは文化的で中身のあるものだ」みたいな考えをするのはいいけど、映画の大衆娯楽としての側面を否定すんなよ。楽しむだけなら結構良い映画だと思うぞ。

人気に関しては作品の出来を見るより受け手を見るべきだ。ウチの国の今の映画の観客、特に外国作品の観客は70年代生まれや80年代生まれが多いってのも影響しているんじゃないかと思う。この年代の人間はトランスフォーマーとか日本のウルトラマンやロボアニメ対する「美しい記憶」がある。そういった世代が育って子供の頃の思い出と共にこの作品を見るというのは正常なことだろう。
見た人間が他人に対して「語れる」映画っていうのも良かったんじゃないの?褒めるにしろ貶すにしろ語れる内容は多い。

本当に批判の声も多いからねぇ……今年のウチの国におけるダメ映画1位はわりと本気でこれになりそうだ。

4月からこっち、あんまり良い映画が無かった反動もあるんじゃないか?この手のジャンルはそんなに見ない私も同時期の他の映画(国産も含む)と比較して、結局選んだのはパシフィック・リムだった。こっちなら最低限怪獣とロボは見れるし、ダメ元で見に行ったよ。

私は面白く感じたけどこの作品のストーリーの微妙さや作中の矛盾、科学的描写の間違い……突っ込みだしたらきりが無いからな。見た上でそこに関して批判されるならしょうがない。

ストーリー展開は本当にどこかで見たような話だよね。ロボと怪獣の戦いそのものを楽しめない、オタク以外の人にはキツイと思っていたんだが。

中国国内の宣伝のやり方も上手だった。本当にうまく国内の観客「釣った」と思う。あの宣伝を見て、本編で中国のロボやロシアのロボがあんなことになるとは誰も思うまい……


*中国人を「釣り」まくった中国版予告編。クリムゾン・タイフーンが主役に見えます。

ホント、何が人気になるかは分からんよね。あと私が不思議なのはこの作品の源流ともいえる日本ではウチの国ほど人気になってはいないんだよね。マニア層の評価は高いようなんだが。

日本でそれほどうまくいっていないのは、日本だとこの作品の本来のターゲットであるオタク系の観客に他の選択肢があるからだろう。日本で夏に公開されるアニメ作品を見ればオタク系の観客が分散するのは容易に想像できる。今年はジブリの大作まであるんだから。しかし中国本土の映画市場では日本のように二次元系のオタク向けの良い作品はなかったし、そもそも夏休みに公開されるSF系の作品も無かったから、その辺の人間はみんな結局パシフィック・リムに流れた。そしてツッコミの嵐が巻き起こったわけだ。

この作品はウチの国において天地人、全てにおいて上手くいったからだよ。夏休みではあったけどタイミング的にライバルとなるような作品がなかった。香港での決戦と中国系ロボとパイロットなどの中国的要素があり、しかも中国は映画市場、特に3D映画が活発だった。ウチの国の若い世代はウルトラマンやエヴァなどの影響が強いから設定だけで興味を覚える人間が少なくなかった。そしてこれらが上手い具合に絡み合った。実際の所こういった要素は狙って出す、想定通りの効果をあげるのは難しい。だからウチの国での人気に関しては作品の出来以上に「運が良かったから」だと思う。

その天地人というのには納得だ。私もこの作品は楽しめたしオタクの仲間には間違いなく薦められるんだけど、万人に薦められる良い映画かと言われると困る。この大人気に関しては上映の時期や宣伝のやり方、ウチの国の人間の行動パターンといったものが影響しているのは間違いないだろう。

そういやこっちのポスターってクリムゾン・タイフーンのバージョンもあったよね。でも実際は出落ちのやられメカで文句が出まくったが……

どこのニュースだか忘れたが、中国のロボが主人公だというのも聞いた覚えがある。確かに中国のロボの活躍、お約束としては見事だったけどさ!!

私の見た予告編の中国ロボはカッコ良かったんだけどね。見事に騙された。


主役機は別にいるわけだし、デザイン的にもクリムゾン・タイフーンがやられメカなのは薄々感じてはいたが、必殺技を戦いの初めに出してしまった時点でもうダメだ、やはりそうなんだと確信したわ。
まぁ、なんだかんだで楽しめる作品だったよ。中国のロボの活躍にさえ期待し過ぎなければいい。整合性なんか気にしないでロボと怪獣を楽しめばいい。色んなネタも満載だ。私は冷却ガスで凍らせて怪獣の尾を砕くシーンとかテンション上がった!

とまぁ、こんな感じで。


■パシフィック・リムが中国でヒットした理由

イロイロな分析は出ていますが、ここまでの人気になった理由はどうもハッキリしないようでした。この映画を高く評価しているマニアな層も「自分は好きなんだけど、他の人にまで分かってもらえるかとなると……?」といった状態のようですし。

この件に関しては日本に仕事で来ている知り合いの中国オタクの面々にも聞いてみたりもしたのですが、彼等からは「ロボと怪獣の戦いという分かり易い設定」「大作感はあるしロボと怪獣ならとりあえず娯楽体験として外さないように見える」「ちょうど3Dでの競争相手がいない時期だった」といった話が出ました。この作品の人気に関してイロイロと理由は考えられるそうですが、とりあえず「中国の感覚では足を運んでみようという気になる映画」だったというのは確かなようです。


■ネタ字幕問題について

それから、作中に出てくる武器の一つ「エルボーロケット」が中国語の字幕ではなぜか「天馬流星拳」(ペガサス流星拳)に翻訳されてしまった件ですが、これに関してはKINBRICKS NOW様の所で背景に関するニュースが紹介されていますのでそちらもご参照ください。
巨大ロボットがペガサス流星拳?!映画「パシフィック・リム」中国語版の“神翻訳”と中国字幕翻訳者ブラック話

この件に関して当ブログ的に面白かったのは、このゴタゴタや関連する最近のファンサブグループ関係の反応を通じて中国オタク内の「ネタ字幕やネタ字幕をつけるファンサブグループと、それを受け取る側の関係、感覚が変わってきている」というのが感じられたことです。

公式でこういうネタをやってしまったら叩かれるのはしょうがない話ではありますが、今回はこのネタ字幕に関して中国オタク層からも結構な批判が出ていたのは興味深いです。

批判に関しては「ニワカなネタ字幕」「空気を読まないネタ字幕」についての反発などが混じっていたようですが、実はこういったネタ字幕に関して以前の中国オタク内ではそれを許容したり歓迎したりする空気がかなりありました。もちろん今回もこのペガサス流星拳を喜ぶ層はいたのですが、以前に比べて批判の声が目についたのも確かです。

パシフィック・リムに関する反応は極端なところもありますが、ここしばらくのファンサブ関係を見ていると「字幕組或いは、字幕製作者の解釈や内輪ネタ」を押し付けるのを嫌う反応が徐々に増えてきているようにも感じられます。

ちなみにこのペガサス流星拳の部分は日本語吹き替え版でも「ロケットパンチ!」とノリノリの超訳をかましていましたが、吹き替え版を一緒に見た中国オタクの知り合いに聞いてみた所「ロケットパンチならOKだろう」と言っていました。

もしかしたら中国でも聖闘士星矢ではなく、ロボアニメや特撮系のネタ技だったらまだオタク内での批判は小さかったのかなーとも思います。しかし、中国では聖闘士星矢の人気が非常に高く一般常識レベルにまでなっていますが、マジンガーZなどの古いロボット系のアニメはそうではありませんから、そうなると中国では「誰もが分かるネタ」にはなりませんし別の意味で難しくなりそうですね。

長くなってしまいましたが、とりあえずこんな所で。例によってツッコミ&情報提供お待ちしております。

関連記事:
巨大ロボットがペガサス流星拳?!映画「パシフィック・リム」中国語版の“神翻訳”と中国字幕翻訳者ブラック話
映画「メン・イン・ブラック3」の超訳字幕が話題に=表舞台に上がった80後ネット文化―中国
パシフィック・リムは日米同盟を描いたプロパガンダ映画だった、モンスターは中国の暗喩―中国軍機関紙
【ブックレビュー】『証言 日中映画興亡史』中国映画界の歴史と変化を読む
日本映画の中国公開に斬新な試み、アニメ映画「言の葉の庭」が日中同時公開を実現(百元)
外国映画に押され国産映画は負のサイクルに……2013年上半期タイ映画界(asianet)

*本記事はブログ「「日中文化交流」と書いてオタ活動と読む」の2013年9月23日付記事を、許可を得て転載したものです。

コメント欄を開く

ページのトップへ