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2013年10月16日
■重症精神障害者発見ノルマ制
河南省鄭州市で市内の各社区(団地)に“重症精神障害者発見割り当て”が課されていたことが明らかとなった。各社区政府は割り当て通りの重症精神障害者を見つけ出さなくてはならない。ノルマを達成するために無理やり重症精神障害者に仕立て上げる行為まで横行していたという。
問題となったのは2012年9月に鄭州市衛生局が布告した「2012年鄭州市重症精神疾病管理治療項目任務分配表」。人口1000人あたり2人の重症精神障害者を登録することを目的としたもので、8324人のノルマを市内の各区・県に割り当てた。
各区・県は社区などの下級自治体にさらにノルマを分配しており、「**団地で50人」といった重症精神障害者探しが進められていたという。頭を打ってから物忘れがひどくなったという人が重症精神障害者として登記されていた事例も報じられている。
中国メディアがこの問題を報じた後、鄭州市当局は強制的なノルマではなく目安だったと弁解しつつも、妥当な手法ではなかったと認めている。
■数値目標は中央省庁発
ただしこのノルマは鄭州市に限ったものではないようだ。2012年7月、国家衛生・計画生育委員会は「重症精神疾病管理治療業務評価プラン」を通達した(パブリックコメント稿はこちら)。精神障害関連のリーダー会議を設置しているか、各自治体に関連医療機関があるのかなどの項目を点数制でチェックするもので、鄭州市で問題となった重症精神障害者の検出率も数値目標に組み込まれている。中国新聞週刊によると、2012年の検出率は2.5%がノルマであり、ノルマを0.5ポイント下回ると東部地区で4点、中部地区で3点、西部地区で2点の減点となる。パブリックコメント稿では他にも登記された重症精神障害者が決められた管理に従っているか、病状は安定しているかなどの項目も数値目標とされており、数字に応じて減点措置が科されることになっている。
重症精神障害者を軟禁するようなことは盛り込まれていないが、この制度の主眼は治療と同等以上に治安維持にあるようだ。2013年10月の国家衛生・計画生育委員会定例記者会見で鄧海華報道官は、重症精神障害者が有効な治療と管理を受けなかった場合には、その10%がなんらかの事件を引き起こすと述べている。
2013年3月時点でチベット自治区以外の30省・市にある226市を重症精神障害者管理・治療業務はカバーしており、353万8000人の患者を登録している。重症精神障害者検出率は目標値の2.5%を上回る2.62%に達しているが、全患者の登録にはほど遠く、今後登録率を高める方針を示した。
中国では精神障害者への支援が遅れていると言われ対策が進められてきたが、気づけば精神障害者の支援ではなく、“精神障害者から他の人を守る“ための施策が、一つの柱となっていることがなんとも残念だ。
■官僚主義の極致か、それとも必要悪か、非合理的すぎる数値目標あれこれ
それと同時に上意下達のノルマ割り当てがきわめて非合理的なものになっていることにもあぜんとする。統計的に精神障害者が一定割合で存在することは間違いないが、統計には偏差があり、「この団地から50人」といったノルマでは、でっち上げをしないかぎり数字を満たすことはできない。
もっともそうした非合理なノルマは何も今回の件に限ったことではない。上述中国新聞網記事はさまざまな中国式ノルマの実例を紹介している。
よく知られているのが一人っ子政策絡みのノルマ。中絶手術*件、女性向け不妊手術*件、男性向け不妊手術*件などとノルマを課された結果、未婚の女性をかっさらってきて不妊手術を受けさせたり、いい年のおじいちゃんがパイプカット手術を受けたりというありえない話が伝えられる。
また火葬ノルマという不思議な話も。2005年、河南省では全人口の0.6%にあたる件数の火葬を実施せよというノルマが通達された。しかし基層の自治体では全人口の0.6%がお亡くなりにならないケースも十分にありうる。ある鎮では仕方なく、2年前に土葬した遺体を掘り起こして火葬したという。
他にも以前紹介した話だが、「公衆トイレのハエは2匹まで」といった謎の数値目標もあった(関連記事)。生理中の女性労働者は消費カロリー1万1304キロカロリー以上の重労働をさせてはならない(関連記事)。マンガにおいて剣からしたたる血は3滴まで(関連記事)といった指標も。
官僚主義の極致とも言える、この種の非合理的な数値目標を見ると、「さすが中国、最古の官僚制国家よ」とたたえたくなるのだが、その一方で無意味に見える数字がこれほどあふれていると、なにか目的があるのではないかとも勘ぐりたくなる。例えば、面従腹背で言うことを聞いてくれない地方政府にちゃんと仕事をさせるためには、この種のやたらと細かい数値目標が必要不可欠だとか。
なるべく火葬しろとだけ言って無視されるほうがいいのか、きつい数値目標をかまして墓を掘り起こしてまで火葬する茶番がいいのか、広大な中国の統治は一筋縄ではいかないのかもしれない。
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