■三中全会で中紀委権力拡大が明らかに■
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■三中全会とその改革
第18期三中全会(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)が終わりました。中国官制メディアでは「改革開放が提起された1978年の第11期三中全会以来の大改革」と大変な持ち上げよう。この手のお手盛りな自慢は習近平のキャラクターとも言えるかもしれません。
もっとも今回の三中全会では確かに大きな改革が盛り込まれました。三中全会で決議された「中共中央改革の若干の重大問題を全面的に深化する問題に関する決定」(以降『決定』)を読むと、一人っ子政策の限定的な緩和や労働改造所の廃止など、これまで観測気球が何度も出てはしぼんでいった案がしっかりと盛り込まれています。
60項目もある2万字以上の大作を全部読み切る時間も扱う力もないので、汚職官僚取り締まりを大々的に打ちだしてきた習近平の独自路線が色濃く出た部分、紀律検査部局改革に関する部分をご紹介します。
■紀律検査部局改革
『決定』には60もの条項が列記されていますが、その36条は汚職官僚摘発で大活躍の中央規律検査委員会(中紀委)についての一文です。その内容をまとめると以下のとおり。
党風・廉政建設責任制を着実に実効。党委員会が主な責任を負い、紀律検査委員会が監督責任を持つ。着実に運行可能な責任追及制度を制定、実施する。各級紀律検査部局は党委員会による党風建設を助け、反汚職活動協調グループを組織する職責を負う。同級党委員会、とりわけ常務委員会メンバーの監督を強化。党内監督専門機関の機能をさらに発揮する。
各級(省、市、県など自治体ごと)の紀律検査部局は「二重指導体制」がしかれ、反汚職の調査については各級共産党委員会だけではなく、上級の紀律検査部局にも報告する義務がある。紀律検査部局トップの指名及び評価は上級紀律検査部局及び組織部局を主体とする。
中央紀律検査委員会は中央一級の党・国家機関に紀律検査機構を派遣する(その機構は)統一的名称が与えられ、統一的管理下に置かれる。派遣された機構は責任を持って監督責務を履行する。
中央と省・区・市の巡視制度を改善。地方、部門、企業単位全てをカバーする。
民主監督、法律監督、世論監督システムを健全化し、インターネット監督を運用・規範化する。
といったことが書かれています。最後の一文がなかなか面白く、官僚を監督するルートとして民主、法律、世論と並び、インターネットが上げられています。先日、紀律検査委員会は通報受付サイトを開設しましたので、具体的にはネット通報をがんばるということでしょう。
■紀律検査部局改革、2つのポイント改革案のポイントは2つ。第一にピラミッド型の紀律検査部局を構築する点です。従来は各級党組織トップが候補を指名。中紀委が認定するというのが慣例でした。今後、上級の紀律検査部局からトップが派遣されるようになります。これまでは各級トップに指名された紀律検査部局責任者が、引き立ててくれた相手の不正をチェックするといういびつな構造でしたが、これが改革されることになります。
すでに三中全会翌日に開催された中央紀律検査委員会会議で、二重指導体制など『決定』の具体化について伝達されています(「
中央紀委常委会会議を開催、王岐山主催」新華社、2013/11/13)
第二のポイントが中央一級の党・国家機関への中央紀律検査機構の派遣です。リンゴ日報など香港メディアは中央紀律検査委員会の権力拡大ではないかと指摘しています。
中紀委権力拡大、王岐山が強大に(りんご日報 2013/11/16)
中央四部に進駐、中紀委の権力拡大(明報 2013/11/15)
現在、全国人民代表大会、全国政治協商会議、そして各党中央直属部門には自前の紀律検査小組(グループ)があります。これを中紀委が派遣した人員に交代させようというのです。香港メディアの取材によると、中央直属部門の中でも特に格上の宣伝部、組織部、統一戦線部、対外連絡部の四部門に直属の人員を送り込むことを狙っているようです。
三中全会前日の8日に中紀委、監察部が国務院、最高検察院、最高法院を含めた小組組長(紀委書記)51人の名簿を発表しているのですが、これを党中央直属機関にも広げようとしているのです。(「
中紀委、派遣紀検組長名簿を公布」新京報、2013/11/8)
■政法委潰しから1年、今度は中紀委の肥大化各機関がこれまで自前で用意していた紀律検査部局は、所詮は身内ですから大した働きはしていなかったでしょう。今後、中紀委からトップが送り込まれた各機関は、中紀委から直接「指導」を受けるようになるのです。
トップがよそ者というのは、そこの下っ端にとってみれば気持ちのいい話ではありませんし、感情論を抜きにしても中紀委の権力が拡大するというのは、受け入れる側の各機関にとってみれば常にのど元に匕首を突きつけられているような状態ではないでしょうか。
これまでの、検査される側が検査する側を選ぶという構図がおかしかったことは間違いありませんが、それはそれとして中国の官僚たちが恐れる紀律検査部局が強大化、肥大化することは間違いありません。
一部局の強大化といえば、思い出されるのが政法委員会。警察と司法を統括する同委員会に権力と予算が集中していることが問題となりました。胡錦涛体制では政法委トップは政治局常務委員が務めていましたが、習近平体制の発足と同時に格下げされ、トップは政治局委員となっています。
その格下げがあってまだ1年なのですが、今度は習近平の肝いりで中紀委が強大化を続けています。官僚を摘発するという強大な権限を持つ中央紀律検査委員会、ただこの中紀委を監視する組織はないんですよね。
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*本記事はブログ「中国という隣人」の2013年11月19日付記事を許可を得て転載したものです。