■評論家・宋文洲氏の言論抑圧的個人攻撃があまりにもひどすぎる件について■

中国人評論家・宋文洲さんが今朝、ツイッターでフリージャーナリストの福島香織さんを批判したのですが、それがあまりにもひどい内容だったのでとりあげたいと思います。1年前の発言の一部だけをきわめて恣意的にとりあげて、あたかも福島さんが戦争賛成論者であるかのようにレッテルばりしたのです。

評論家を名乗り、テレビにも多数出演されている方にしては、あまりにもひどいやり口ではありませんか。私は宋さんの読者の一人です。彼が中国紙・環球時報の電子版に書いているコラムはほとんどすべて読んでいます。その宋さんの言論無視のひどいやり口は大変衝撃的でした。


■問題のやりとり

以下が問題のつぶやき。

福島さんが「戦争」朝ナマで明言した。喜ぶ現状だろう@kaokaokaokao・彼の意見が多数派を代表するものではありませんが、環球時報の1面に対日軍事強硬記事とかのると、売り上げがぐんと伸びるのは事実です。環球時報の編集者が言っとったよ。環球時報は低層社会に人気のある安価な新聞。

— 宋　文洲 (@sohbunshu) 2013, 12月 1

「戦争の選択肢を諦めるべきではない」と朝ナマで明言した福島さんは、環球時報よりずっと早い段階で戦争を煽ってきた。戦争を望む右翼はここにきて逃げてはならない。正々堂々右翼を堅持し、先頭に立ち続けるべきだ。

— 宋　文洲 (@sohbunshu) 2013, 12月 1

これだけ読むとつい最近の発言のように見えますが、福島さんが「朝まで生テレビ」に出演したのは昨年10月のこと（公式サイト）。いったいどんな文脈で今さら取り上げたのかわかりません。

また「戦争の選択肢を諦めるべきではない」という発言があったにせよ、それは戦争するべきという話ではありません。昨年の「朝まで生テレビ」出演後に福島さんがつぶやいたツイートがTogetterにまとめられています。関連するつぶやきを抜き出すと以下のとおり。

そういう意味で、私は一時的に中国に尖閣以外の問題で妥協を示す（靖国とか、対中援助とか）ぐらいで、やれ売国奴とかいうのもだめだと思うけど、究極の外交の戦争カードを（憲法上）もてないというのも、厳しい外交駆け引きをする上ではすごく不利だと思う。

— 福島香織 (@kaokaokaokao) 2012, 10月 21

ジョーカーもたないでど貧民が大富豪に勝てるのか、みたいな感じだな。まあ、ど素人のたわごとのツイートなので、気に入らんと思った人は、無視するがよろし。

— 福島香織 (@kaokaokaokao) 2012, 10月 21

別に革命を扇動しているわけでも、戦争を推奨しているわけでもないよ。ジョーカーもってなくても、せめてもっているふりくらいしないと、駆け引きは不利だという話。

— 福島香織 (@kaokaokaokao) 2012, 10月 21

読んでおわかりのとおり、ごく普通のパワー・ポリティクス（主権国家同士が政治・経済・軍事などの手段を使って牽制しあうことで国際関係の均衡が生まれるという考え方）の話です。もちろんこの考え方に同意できない人も多いでしょう。私も賛成しているわけではありません。ですが、ごくごく一般的な議論をしたら「戦争を煽っていた」呼ばわりするというのはいかがなものでしょうか。

福島さんが「あなたは、私が戦争を喜んでいる、とレッテル張りをしましたが、１７万フォロワーの勢いをかりて、そういう言論封じみたいなことをしては、きちんとした議論ができないのではないですか」「ツイッターでいきなりテロみたいな言いがかりをつけずに、まず双方が意見をきちんと述べあう場所を作るべきではないですか？」と反論すると、宋さんはいろいろおっしゃっているのですが、その内容もよくわかりません。例えばこちら。

国籍なんか関係ない。「戦争」を使った議論に反対だ。というより、嫌だ。自分が良くても愛している人が戦争に巻き込まれたくない。

— 宋　文洲 (@sohbunshu) 2013, 12月 1

「愛している人が戦争に巻き込まれたくない」という意見には100％同意しますが、「朝まで生テレビ」という討論番組に出ておいて、「「戦争」を使った議論に反対だ」と言われても困ります。パワー・ポリティクスという教科書にも出ているような概念を使っただけで、あるいは「戦争」という単語を使っただけで、「煽っている」とレッテル貼りするのはおよそ言論人のやることとは思えません。


■宋文洲さんを「断章取義」してみた

――――ここから「断章取義」――――

さて、宋文洲さんですが、中国タカ派系メディアの筆頭、環球時報の電子版でコラムを持っています（コラム一覧）。反戦派の宋さんのコラムを載せるとは環球時報も懐が広いではないか、宋さんも意見が異なる読者にコラムを書くとはなかなか気骨があるではないか……と思って読むと、ギョッとします。

なんと環球時報電子版の中国語コラムでは、宋さんは超タカ派なのです。

もし国共内戦がなければ、尖閣問題はあっただろうか？いや、ない。中国は戦勝国として、本来は沖縄を占領、米軍と一緒に派兵して九州を占領する資格があった。あんな小さな無人島にこだわる必要などなかったのだ。

宋文洲：中国は尖閣紛争において第二の勝利を収めた

環球網、2013年4月15日

中国は「侵略戦争支持罪」を制定するべきだ
（安倍晋三首相などの話を展開した後に）中国は侵略を否定する日本の政治家、著名人を制裁する法律を作らなければならない。公に南京大虐殺を否定した名古屋市長も含まれる。中国政府、国有企業は彼らと接触してはならず、また彼らの入国も許さない。香港やマカオを含む中国の金融機関はこれらの容疑者の口座を作ることを禁止。（既存資産の）移転も禁じる。中国公安部は定期的に容疑者のリストを公開。証拠とともに主要言語に翻訳して全世界に公開する。

宋文洲：日本は立法措置によって一部日本政治家を叩くことを試みるべきだ

環球網、2013年4月25日

本来なら九州まで占領していたはずなのに、日本政治家の入国を禁止せよ、ついでに中国の銀行に財産があれば凍結してしまえ、という発言は、タカ派の環球時報読者に迎合し、日中の対立を煽るものにほかなりません。

――――ここまで「断章取義」――――

と書きましたが、これは「断章取義」、すなわち文脈を無視して自分の議論に都合のいい部分だけを引用することであります。コラムの全体を読めば宋さんの真意は別にあることはよくわかりますが、一部分だけを都合良く取り出せばいくらでも筆者の本意とは異なるように描くことができます。宋さんが福島さんの「戦争」発言に対してやったように、です。


■最後にもう一度見比べてください

煽って炎上させてメシのタネを作っている人もいるのでしょうが、すでに知名度を得ている宋さんがそんなことをやる必要はないのじゃありませんか？もう一度、福島さんと宋さんのつぶやきを引用します。どちらが言論に対して真摯で、どちらが無責任な煽りをしているのか、一目瞭然のはずです。

「戦争の選択肢を諦めるべきではない」と朝ナマで明言した福島さんは、環球時報よりずっと早い段階で戦争を煽ってきた。戦争を望む右翼はここにきて逃げてはならない。正々堂々右翼を堅持し、先頭に立ち続けるべきだ。

— 宋　文洲 (@sohbunshu) 2013, 12月 1

そういう意味で、私は一時的に中国に尖閣以外の問題で妥協を示す（靖国とか、対中援助とか）ぐらいで、やれ売国奴とかいうのもだめだと思うけど、究極の外交の戦争カードを（憲法上）もてないというのも、厳しい外交駆け引きをする上ではすごく不利だと思う。

— 福島香織 (@kaokaokaokao) 2012, 10月 21

主義主張が違っても、お互い礼を尽くして議論を交わして欲しい。そう願うばかりです。

最後に作家の安田峰俊さん（ボクと一緒に酒を飲みながら問題の朝生を見ていました）の言葉を紹介します。

無理に冤罪でっちあげて、「何かに不満を持ってる人」を扇動して集中攻撃させて法に拠らずに相手を潰す、というのはまことに文化大革命的な手法だよね。宋文洲氏が自覚していたかはともかく RT @FreeTIBET2008 福島さん大変 https://t.co/hjdETK6BAg …

— 安田峰俊（迷路人） (@dongyingwenren) 2013, 12月 1

追記：
宋さんのつぶやき。

「kao」は「cao」の方言でとても汚い中国語です。子供が使うと親達は必ず叱る。「kaokaokaokao」とは「ファクファクファクファク」です。とても文面にしたくなかった。

— 宋　文洲 (@sohbunshu) 2013, 12月 1

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