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習近平の「お友達人事」を読む、王岐山と習の知られざる深い関係(水彩画)

2013年12月05日

■習近平が重用するお友達■

Great Hall of the People 人民大会堂
Great Hall of the People 人民大会堂 / INABA Tomoaki


習近平は総書記就任後、自らに近い人間を続々引き上げています。その「習近平閥」を整理してみようか、と。


■黄坤明、蔡奇

前杭州市委書記黄坤明が中央宣伝部副部長に(人民日報 2013/10/19)
蔡奇が浙江省副省長に企業家に官僚を「洗脳」させよと発言も(21世紀経済報道、2013/11/22)

黄坤明、蔡奇の2人ですが、福建、浙江省時代の習近平と交流があった人たち。蔡奇は記事にわざわざ「中共中央総書記習近平と交流があった」と書かれているほどです。胡錦濤以前にも近しい人物の引き上げはあったわけですが、こうした個人的関係を匂わせるような報道は記憶にありません。まあ21世紀経済報道という比較的攻めているメディアの記事だからかもしれませんが。


■陳希

習近平に博士号を与えたのが清華大学。当時書記だった陳希はこの5年で中国共産党中央組織部副部長にまでロケット出世。記事「中国初の博士号取得国家主席・習近平の博士論文ゴーストライター疑惑」でも紹介したように博論ゴーストライター疑惑があることも考えると、秘密の共有が出来る、信頼できる人物なのでしょう。


■栗戦書

一方で微妙な感じの人も。それが栗戦書です。習近平が河北省に赴任したのと同時期に、隣接する県の書記で、30年来の知己という設定です。習の腹心ではないかとも言われ、実際に習近平体制発足にともない、中央弁公庁主任という要職を得ました。

ところが今秋の三中全会で発足が決まった国家安全委員会に韓正・上海市委書記の登用が噂されるようになると、代わりの書記として上海入りが取りざたされるようになりました。好意的に考えれば上海で鍛えて来季は常務委員に昇格という出世ルートなのですが、ただ中央から地方への移動は基本的に降格人事なんですよね。

上海市委書記は江沢民以来政治局委員が担当する要職。中国のトップ指導者集団、政治局常務委員を4人も輩出しているポストだけに中央弁公庁主任と同格とも言えるかもしれません。ただ政治闘争に敗れ、中央弁公庁主任から福建省長に左遷された王兆国さんのイメージもあって、降格人事ではないかと勘ぐっています。まあまだ噂の段階ですが。

「習近平が普通のタクシーに乗るほどフレンドリー」というネタを作ったものの、即座に撤回されてしまたタクシー事件が問題だったのかも知れません(関連記事)。


■中紀委の台頭

さて習近平時代になって台頭した人物のトップが王岐山です。現在、中央紀律検査委員会(以下、中紀委)トップの座についています。

党章程(党規約)によると、中紀委の職責は「党規約とその他党内法規の維持」、「党の路線、方針、政策、決定の執行状況を検査」、「党委員会の党風建設協力と反汚職工作における補佐」とのこと。しかし実際には汚職党員摘発が主要な仕事です。

腐敗党員の場合は、まず中紀委が取調べをし、容疑が固まった後に司法機関に引き渡されることになります。司法に優先するもう一つの司法というわけですね。

中紀委は政敵を倒す尖兵として使われてきました。江沢民時代には陳希同(政治局委員、北京市委書記)、胡錦濤時代には陳良宇(政治局委員、上海市委書記)、薄熙来(政治局委員、重慶市委書記)が失脚しています。

実は拘束や取り調べを行う権限には何の根拠もなく超法規的機関とでもいうべき存在。今年は拷問によって取り調べを受けていた官僚3人が死亡するという事件もありました。ノルマを課された地方の紀律検査部局がやりすぎたためともいわれていますが、紀律検査部局への風あたりは強くなる……かと思われました。

ところがどうして、今秋の三中全会では、中紀委が省庁など党中央直属機関、地方政府の紀律検査部局トップの任命権を獲得し、さらに勢力を拡大させることになりました。従来は省庁トップや地方自治体トップが紀律検査部局の人事を決めるというお手盛り人事ができたわけですが、今後は独立した巨大監視機関へと生まれ変わることになります。加えて、中国共産党の上位25人、政治局委員をも監視対象とすることが決定するなど、その強大化はとどまることを知りません。なおトップ中のトップ、常務委員まで監視できるかは不明。


■王岐山

というわけで、中紀委のトップたる書記の座を得た王岐山は習近平体制になってもっとも権力を拡大させた人物と言えるかもしれません。前職は序列末席の副首相でしたが、経済に強い実務派官僚と評価が高く、李克強ではなく王岐山が首相になるウルトラC人事があるのではとまで噂されました。

それがなぜだか経済関連の仕事ではなく、中紀委トップというポストを得ることに。副首相の前は北京市長だったのですが、さらにその前は長く銀行畑にいました。なのでそのあたりの業界についてよく知る王に、汚職官僚摘発を任せたのかと思っていたのですが、彼の活躍ぶりはそんなレベルにとどまっていません。

習近平発足後、中紀委関連のニュースが毎日のように紙面を飾る活躍っぷり。なんとこの1年間で16人もの省部級(閣僚級)が失脚しているという、驚くような数字も発表されています。


■王岐山と習近平の関係

王岐山の妻は元副首相・姚依林の娘です。なので王岐山も一応太子党ということになっています。婚姻によって太子党になっただけに「マスオさん的太子党」とでも言うべきかもしれません。

ところがそれだけではなく、習近平とは古くからつながりがあったことがわかりました。

2013年8月27日付南方人物週刊の記事「時代の先駆者」によると、文化大革命当時、王岐山と習近平の下放先は近く、知り合いだったとのこと。北京に出た習近平が下放先に戻る時、王岐山の村で一泊。同じお布団で寝たという、愛あるエピソードまでありました。

経歴だけでは分からない、年の差を越えた友情というヤツですね。紅衛兵世代は場所こそまちまちなれど、苦しい時期を共に過ごしたので緩い繋がりがあるのではとは思っていたのですが、こうして直接面識があるのなら習近平が常務委員を一期しか努められない王岐山を常務副総理ではなく、中紀委トップに据えたのも納得なのです。


■中国版NSC、国家安全委員会のトップとは?

今秋の三中全会では、警察・司法を管轄する政法委員会を飲み込む形で国家安全委員会が新設されました。漏れ伝わる人事案では、李克強を外して、既存の政法委員会に加え軍事委員会の制服2人を含めた大所帯となるようです。

政法委員会はかつて政治局常務委員の管轄でしたが、権力が肥大化してしまったと反省されています。そこで武装警察などの警察権力も総書記直属にするつもりなのでしょう。党内の権力掌握「だけ」は着々と進めている習近平であります。

まあそれも胡錦濤のおかげかもしれません。江沢民があれこれちょっかいを出すことにより身動きの取れなかった胡錦濤。それと比べると前任者・胡錦濤が甲斐性なしであまり影響力がないため、習近平は着々と来季を見据えた人事配置を進めていけそうです。

総書記お抱えの権力機関となる国家安全委員会。その人選も文化大革命時代や改革開放初期に知り合った「友人」になるのでしょう。
 

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*本記事はブログ「中国という隣人」の2013年12月2日付記事を許可を得て転載したものです。


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