• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

反日デモは習近平打倒の政治運動か?過熱する周永康失脚報道を読む(水彩画)

2013年12月12日

■「周永康双規」報道はなぜ無くならないのか■


20131212_写真_中国_周永康_


前中国共産党政治局常務委員、前中国共産党政法委員会書記の周永康が自宅に軟禁され、取り調べを受けていると報じられています。日経新聞のiPhone報道よろしく、これまでに何度も「逮捕された!」との誤報が繰り返されてきましたが、今度こそ現実となるのでしょうか?


■周永康、3回目の正直でついに拘束か?!容疑は「政変を企図」

「周永康拘束」の報道は今年だけで3回目となります。ただし前2回は香港英字紙サウス・チャイナ・モーニング・ポストの報道でしたが、今回は台湾の聯合報が火種です。また星島日報がスクープした中国共産党高官(司庁局級以上)のみに伝達された機密文書によると、その容疑は「政変を企図したこと、汚職」だといいます。

政変ということは、つまり失脚した薄熙来・元重慶市委書記がらみの問題だったことを強く裏付けるものとなりました。これまでの報道では汚職がらみばかりがとりあげられてきましたが、元政治局常務委員が経済犯罪で捕まるとは考えられません。本当の容疑は軍事力の私用などの問題だろうと考えていたので、今回は本命ではないかと盛り上がるものがありました。

ただ聯合報の1日の報道を受け、2日にも中国当局が正式発表するのではとも噂されていたのに、いまだに公式な発表はないままです。


■沈黙する中国国内報道、盛り上げる海外メディア

しかし正式発表はなくとも、海外メディアによる外堀を埋める報道が続きます。

5日、ロイターは、周永康の息子が9月に帰国し、すでに双規(共産党紀律部局による拘束、取り調べ)されている蒋潔敏(前国有資産監督管理委主任)の件で調査に協力していると報じています。ちなみに周永康の息子の名前は諸説あるようで、法輪功系メディアの大紀元は周斌と表記していますが、最近では周濱と表記するメディアが増えてきました。

中国政府批判で知られる在米華字メディアの博訊も参戦。4日に「中共「二号特別案件」決着非合法的国家権力掌握の周永康夫婦拘束」、5日に「「二号特別案件」決着周永康運転手が郭永祥と前妻殺害共謀を供述」との報道。「薄熙来と謀って習近平の殺害を計画した」「前妻を事故死に見せかけて殺した」という容疑が加わりました。まあ以前にも「薄が総書記、重慶市長で薄の片腕だった黄奇帆が総理」「周はその後ろで院政」ともくろんでいたというクーデター画策話は流れていたので、目新しい情報ではありませんが。

またちょっと面白いのは周永康に拘束を言い渡した瞬間について、まるで見てきたかのような描写をしている点です。栗戦書(中央弁公庁主任)が指揮権を持つ中央警衛局が出動。周に双規を言い渡すとその場に卒倒したのだとか。ちなみに中央警衛局を使ったのは、周が警察、司法の全権を握る政法委員会書記だったためです。そのため警官や武装警察を酒、中国全土から500人集めたとのことです。


■反日デモも周永康の仕業、過熱する海外メディア報道

海外メディアの報道はさらに過熱します。

6日、星島日報は博訊網をソースとして周の兄弟姉妹3人が全員拘束されたと報道。その際、数億元の現金預金が見つかったのだとか。ただし中国政治ゴシップに強い香港紙はこのネタを完全にスルーしています。

スルーといえば、サウス・チャイナ・モーニング・ポストの“スクープ”の際、他の香港紙は追っかけ報道せずに黙殺したのですが、今回は香港紙の太陽報、東方日報が参戦しています。「周が少なくとも2度習近平暗殺を計画」「昨年9月の反日デモは習近平体制誕生への妨害工作」という内容。

もっともその真偽については疑問もあります。2012年8月に開かれた北戴河会議で長老から厳しく責められ、「政治生命オワタ」と察した周が、なぜか習の暗殺に走るというあまりよくわからないストーリーです。暗殺の手段は会議室に爆弾を仕掛けたり、三〇一医院の定期検診で毒を注射しようとしたとのこと。習は暗殺を恐れ、国防部西山軍事指揮センターに身を移したといいます。なお暗殺実行役の譚紅は12月1日に拘束されました。

もう一つの反日デモも疑問。党大会の開催を阻止しようと、政法委と薄支持勢力を中心に各地で破壊行為を作り出したとのことですが、反日デモの時点ですでに実権は孟建柱に移っていたはずですが。政権側もこれを察知し、100万人もの軍、警察を動員して封じ込めたと紹介しています。疑わしい話ですが、私も反日デモが政法委が仕掛けたのではとか書いていましたのであまり強くは責められません。

そして11日付太陽報は「周永康、司法機関に身柄移送か」と報道。実はタイトルに「伝」という文字が入っています。伝聞の「伝」ですね。つまり聞いた話ということで、日本語的には「……か」というやつです。「伝」さえつければ、何でも書けちゃうっていう……。


■四人組失脚以来最大の事件に

というわけで怪しい部分も多い海外メディアの報道ですが、中国が公式に態度表明しないからあることないこと書かれてしまうという側面は否めません。通常であれば、トップクラスの失脚などという敏感な話題は即座に否定してしかるべきなのです。

2011年の江沢民死去の誤報でも、新華社が速やかに訂正報道を出しています。薄熙来だって最終的には失脚しましたが、当初は「辞表は出していない」と釈明させるなど報道を否定する姿勢を見せていました。中国の論理でいうならば、公式決定が出るまでは「無傷」でなければならないのです。

元政治局常務委員を失脚に追いこむというのは一大事。あるいは海外メディアの報道を追い風にするため、訂正報道をしていないのでは……などとも勘ぐってしまいます。

というわけで、今度こそ本当にやばいにおいがぷんぷんする周永康関連をまとめてみました。実際に失脚すれば文化大革命の四人組以来最大の事件と言えるかもしれません。周が影響力を持っていたのは警察・司法、国有企業、石油閥というとてつもない規模なのです。軍・警察を管轄しクーデターをやりうる武力を持っていたという意味では、ほとんど独自の軍事力を持たなかった四人組よりも悪質とも言えるかもしれません。

関連記事:
汚職トラ退治に進展か、中国本土メディア・財新が周永康息子の汚職をスクープ(水彩画)
ヒラリーが語る王立軍事件、爆弾発言の余波は周永康に(水彩画)
今度こそ習近平のトラ退治が始まるのか?周永康の腹心が拘束、取り調べに(水彩画)
習近平汚職撲滅キャンペーンの最終目標・周永康の不可思議な「生存確認」記事について(水彩画)
チャイナ・ナインの一角・周永康の失墜=中央政法委の解体もくろむ胡錦濤(水彩画)

*本記事はブログ「中国という隣人」の2013年12月11日付記事を許可を得て転載したものです。

トップページへ 

 コメント一覧 (1)

    • 1. 北京の秋
    • 2013年12月12日 20:20
    • 『中国現代文学』11
      中国現代文学翻訳会編集 2100円
      ひつじ書房刊
      年2回(春と秋)刊行

コメント欄を開く

ページのトップへ