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50万ドル横領で死刑、厳罰は一罰百戒のいけにえなのか?―ベトナム(いまじゅん)

2013年12月18日

■死刑判決はベトナム流「見せしめ」なのか?:汚職対策と厳罰続くベトナム経済界■

Bonasia at phu My
Bonasia at phu My / wirralwater (NO MORE UPLOADS)


■50万ドル横領で死刑に


北朝鮮の張成沢(チャン・ソンテク)元国防副委員長がいきなり処刑されたような無茶ではありませんが、本日のベトナム現地紙トップも、ある死刑判決が紙面を大きく騒がしました。ベトナム商船公社VINALINESの元総裁DuongChiDung被告(元運輸交通省航海局長)、元CEOのMaiVanPhuc被告に死刑判決が言い渡されました。罪状は横領、国家経済における違法行為とのこと。

そもそもVINALINESとは、ベトナム国海運総局(VINAMARINE)から港湾海事の現業部門を切り離して設立された国営企業です。Dung被告は承認されていないプロジェクトを勝手にスタートさせ、現状に合わないフローティングドック(参考)を公共調達。その過程でその他7名の被告と共に130万ドル余りを不正に騙し取り、国家財政への損害は1740万ドル余りに達したというもの。主犯とされるDung被告が詐取したのは50万ドルほどだそうです。またこういう事件につきものの「愛人に家を買ってあげた」的なゴシップ記事もこれまでベトナム各紙を賑わせていました。


■国民の汚職批判を鎮めるいけにえか

大悪事。でも、(もちろん金額は小さくはないわけですが)「死刑」という判決にはやはり違和感も感じるところ。もちろん、もともと経済事件で死刑判決ということ自体が日本ではあり得ないので、金額の多寡では物事はないのですが、この国の今置かれた事情における「厳罰」という見方ができます。

事件の公判中には近年の改革派政治家リーダー(候補)として注目されているNguyenBaThanh・汚職防止中央指導委員会副委員長が突如裁判傍聴に現れるという異例の行動を行い、それが判決の行方にどう影響するかなども注目されていました。国内景気がまだそれ程回復していない中、汚職はそこら中に氾濫し、にわか成金は(汚職有無はともかく)ますます羽振り良い一方、物価の上がった都市部で苦労する国民も。そこでふつふつと湧き上がる国民の不満に対して、政府が「毅然とした態度を示す」には非常に良い機会とも言えなくもありません。

奇しくも国会議員で科学技術環境委員会常務委員のTranThiQuocKhanh氏はTuoiTre紙の取材に答え、「誰も死刑を見たい人はいない。ただ国家の安定のため、国民の信頼のために、法律の厳格さのために、死刑に値する人は死刑にしなければいけなければならない。厳格な法の適用は国民の法律への、国家への信頼感を増すことになる」と述べ、また今回の判決が「権力を利用して不正に儲けようとする人間への警告となって欲しい」としています。

こういう国での司法判断なのでそういうことなんだろうとは思いますが、今回の司法判断の「意図」に関してのある種のぶっちゃけの本音を読み取ることができ、いよいよ死刑判決の見せしめ感が漂います。


■相次ぐ汚職裁判

実は先月20日にもベトナムでは死刑判決が出たばかり、それもベトナム農業地方開発銀行(アグリバンク)傘下企業の横領事件という経済事件です。また、現在こちらも財界の有名人であるNguyenDucKien氏の裁判も進行中で、こちらも終身刑になるのではと、テト前の結審を目指して審理が進んでいます。ここ数ヶ月で一気に経済事件の各種審理が進み、あちこちで厳罰が下されようとしています。

もちろん、不正はあったのでしょう。ベトナムではそこら中にあります。やり過ぎたのでしょうし、処罰されるのは当然。ただ、司法が独立していない、しかも死刑が普通の国より広い犯罪行為で適用されるベトナムでは、じゃあ誰からどこから手が付けられるのかは常に政治の臭いがします。「大岡裁きで一件落着」とはすぐには思えないのです。

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*本記事はブログ「ハノイで考えたこと」の2013年12月17日付記事を、許可を得て転載したものです。

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