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2013年12月30日
UNCTAD XIII Opening Ceremony / UNCTAD
シェイク・ハシナ・ワゼド(Sheikh Hasina Wazed)。バングラデシュの現首相、政権与党アワミリーグのリーダーである。以前紹介した最大野党BNPの党首カレダ・ジアとの共通点も多い。同じく女性であり、しかも血縁者の死によって政界の中心人物となる運命を背負わされた。
■暗殺された父の後を継いで
彼女の父はSheikh Mujibur Rahman(シェイク・ムジブル・ラーマン)。またの名をボンゴボンドゥ(Bangabandhu:ベンガル人の友)。バングラデシュでは知らぬものなどいない、1971年のパキスタンからの独立を指揮した建国の父である。
独立後、政権を担ったボンゴボンドゥは戦場となった国土の復興を試みるも、高い人口増加率に天候不順や洪水がかさなり、国民は飢餓にあえぐことになる。そんな中、事件は起こった。1975年8月15日、ハシナは当時26歳だった。夫、妹とヨーロッパ滞在中に父および家族全員が殺害されるというニュースが舞い込む。
バングラデシュ陸軍の将校がクーデターを起こしたのである。その後しばらく国政は混乱するが、最終的にそのクーデターを収拾したのは陸軍少将ジアウル・ラーマン。現在の最大野党BNPの創始者にしてカレダ・ジアの夫である。
ハシナとその家族は父の暗殺後インドで亡命生活を余儀なくされるが、1981年にジアウル・ラーマンが暗殺された後に彼女は帰国。以後、彼女はアワミリーグの総裁となる。
総裁就任後、ハシナは1986年選挙、1991年選挙の指揮をとるが、アワミリーグはいずれも過半数を取れなかった。1996年選挙では一度選挙に敗れるも、選挙運営に不正があったと異議を申し立てる。やり直し選挙の結果、アワミリーグは政権奪取に成功する。実に父の暗殺後20年が経っていた。
■愛国主義を煽る与党と冷めてきた大衆
15歳で結婚したカレダ・ジアと違って、ハシナは大学を卒業している数少ないエリートでもある。高学歴者であるがゆえに都市部のインテリ層に一定の支持基盤を持っているが、与党アワミリーグは独立戦争を指揮した経緯から、独立戦争の志願兵参加者を中心に強い支持基盤を持っている。
そのため強烈な愛国意識、「独立戦争を勝利に導いた」という党の正統性が繰り返し強調されることになる。以前紹介したとおり、今年に入ってからバングラデシュでは40年前も前の戦争犯罪者の罪が問われ死刑が執行され、暴動で累計200人超が死亡する騒ぎが起きている。
この戦争犯罪裁判は2009年の選挙で誕生した第二次ハシナ内閣の公約だ。独立戦争当時の戦争犯罪者の罪を裁くことで、アワミリーグの正統性を訴え、党内の結束を高めたいという狙いがある。
もっとも愛国意識を煽るアワミリーグ、ことあるごとに父親の威光を笠に着るハシナに、一般大衆が冷めてきているのは否めない。昔のことはもういい、これからの生活を良くしてくれたらアワミリーグでもBNPでもどっちでもいいと考えている庶民は多い。
■ハシナの後継者
若くして非業の死を遂げた父の遺志をつぎ、トップに立ったハシナ。長い亡命生活に耐え、選挙に負け続けても諦めなかった意志の強さは父譲りだ。何があっても引かない性格は強いリーダーシップを発揮することもあれば、自らの理想の遂行のためには血を流すことも厭わない、一度悪い方向に動き出すと誰も止められない独裁者的な側面も持つ。まるでインドの女神パールヴァティーがしばしば破壊と殺戮の神カーリーに変身するかのようだ(もっとも彼女はイスラム教徒であるが)。
ハシナとカレダ・ジアにはもう一つ共通点がある。それは年齢だ。ハシナが今年66歳。カレダ・ジアが68歳。ともに後継者選びが必要な時期だ。カレダ・ジアの後継者には長男が有力視されているが、ハシナの後継者は妹か息子が有力だ。
ただし、息子ショジーブ(Sajeeb)はハーバード大学を卒業。現在アメリカに家族と共に住んでいる。当然ながらこのことはアワミリーグ支持者の中でも批判がある。国民の愛国心を煽る一方で自らの息子夫婦は外国に住んでいるようでは説得力に欠けてしまうからだ。そうだとしても、結局はハシナの血縁者以外では党がまとまらないというのが実情のである。
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