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ハリー・ポッターと靖国神社、安倍首相参拝のソロバン勘定

2014年01月04日

■ハリー・ポッターと靖国神社、安倍首相参拝のソロバン勘定■

Yasukuni shrine / 靖国神社拝殿
Yasukuni shrine / 靖国神社拝殿 / Dakiny

■靖国参拝のソロバン勘定

安倍首相の靖国参拝について。

いろんな評価が乱れ飛んでいるわけですが、それはひとえに評価軸が多岐にわたるためでしょう。国内政治の評価軸でみれば、支持率が上がって政権が安定したり、あるいは別の改革の進める力となるかどうか。外交でみれば、日中・日韓関係の影響はもとより日米同盟への影響。経済でみると、 ようやく尖閣買収から1年でようやく持ち直してきた中国市場での日本メーカーの売り上げへの影響。

現時点でのソロバン勘定としては、国内政治、つまり支持率的には大きな変化はなし。外交、経済的にはとりあえずプラスの要素はなし、といったところでしょうか。もちろんこうしたソロバン勘定は関係ない、日本はただやるべきことをやっただけなのだという立場の方もいるでしょう。

参拝に賛成の方、反対の方いろいろいるわけですが、議論してもあまり実りがないのは、どの評価軸に重きを置くかをはっきりさせないからではないでしょうか。というわけで、自分にとってはどの評価軸が重要に思えるのか、あるいはこの論者はどの評価軸をポイントにしているのか、を考えながら靖国関連の議論を眺めると、結構クリアな整理ができるのではないでしょうか。


■賽の河原の責め苦

すでに書きたいことはだいたい書いてしまったのですが、せっかくですので評価軸というポジションを明確にしている他人様の記事を紹介したいと思います。

私はというと、一応、中国絡みの仕事をやらせていただいていることもあって、経済や外交の評価軸に重きを置いてしまいます。経済といっても日本経済が、大企業が……というよりも、**さん大丈夫かななどなど知り合いの顔がまず思い浮かびます。

そんな中国にかかわる日本人ビジネスマンの多くが思っていそうなことを、ブログ「続・じぇーしん日誌」さんが、書いてくれています。

中国ビジネスに関わる私達からすれば、当然ながらオオゴトです。明日の仕事に大きな影響を及ぼすわけなので、本音はもちろん「なにしてくれてんだよ・・」の一言に尽きます。年末にこんな爆弾落としやがって。

(…)でもどうなんでしょうか。私も中国に縁がない生活を送っていたら、私も中国に縁がない生活を送っていたら、尖閣デモやPM2.5の問題なんかをテレビでみて鵜呑みにし、中国に強硬的な考えをもっていたのかもしれないなーなんて思ったりもします。

(…)毎年、コツコツと積み上げた石をいいところでダダっと壊される賽の河原のような責め苦を受けている中国ビジネス関係者ですが、来年もどうやら我慢比べが続きそうですね。って辛気臭い!ダメだ!飲もう!

ここ10年というもの、日中関係は数年おきに大事件が起きており、そのたびに現場はおおわらわ。「賽の河原のような責め苦」とは言い得て妙ではないでしょうか。


■困ったちゃんは日本か、中国か?

外交という観点からよく整理された論考が「国際政治学者・六辻彰二のブログ とんぼの眼鏡でみた国際政治」。

少なくとも今回の参拝が日中、日韓の緊張を高めたこと自体は確かです。その意味で、日本が一種のトラブルを引き起こしたと受け止められたとしても、当然です。

(…)多くの日本人が思っているほど、外部からの日本に対する視線は、決してやさしいものではありません。米国、ロシア、ヨーロッパ諸国の大半、中国、これらはいずれも戦勝国であり、まして靖国参拝が中韓を最も刺激する要因で、関係がこれまでになく悪化しているなかでとなれば、論調として「日本の軍国主義の復活」を懸念するものが出たとしても、不思議ではありません。

(…)これらのメディアワークで決定的に後れをとっている日本が-仮に安倍首相の「理解を得られるように努める」という意思が本物だとしても-これをひっくり返すことは、きわめて困難です。少なくとも、ごく簡単なレビューからでも、「理解を得られるように努力する」という安倍首相の主張は、オッズが低いと言わざるを得ません。それとも、国際的な支持を得られる、なにがしかの勝算があるというのでしょうか。

私はここ1年間の安倍外交を結構高く評価しています。アベノミクスをぶち上げて「日本はオワコン」的な見方が変わるよう働きかけたこと、日米同盟の強化、東南アジア・アフリカとの関係強化、なにより「厄介者のタカ派首相キター」という事前の評価を覆し経済中心の現実派というイメージの構築に努めたことなどは評価ポイントじゃないでしょうか。

そもそも尖閣諸島の問題についてはどこの国もたいして興味はもっておらず、「変に騒ぎにならなければいいや」ぐらいの関心しかもたれていません。となると、問題は日本と中国、どちらが騒ぎを起こす困ったちゃんなのか、が問われることになります。安倍首相はタカ派首相と事前にレッテルを貼られていたにもかかわらず、そこをうまくやりこなし、「困ったちゃんは中国」という印象を与えつつあった……わけですが、そこでの靖国参拝ですべてはおじゃんに、という印象です。


■ハリー・ポッターと靖国神社

「靖国参拝は国内問題。国際問題化するような話じゃないし、その理を各国に説けばよい」という話もよく聞きますが、上述六辻ブログが指摘しているように難しいのではないでしょうか。

その理由はといいますと、第一に他国はそんなに関心を持っていないということです。靖国の存在について一生懸命説明したとして、まじめに聞いてくれるところがどれほどあるのか疑問です。「いやいや、騒ぎを起こした困ったちゃんは日本でしょ」という現状のイメージを覆すには多大なパワーが必要です。

で、その説明のパワーですが、日本よりも中国のがんばりのほうが目立つのが現状。これが第二の理由です。中国はこれまでも「日本は戦後秩序を覆そうとしている。中国、ロシア、米国などなど反ファシズム戦争(=二次大戦)に勝利したぼくたちは力を会わせて戦後秩序を守らないとね」との宣伝を続けてきましたが、靖国参拝を機にさらに宣伝を強化しています。

そうした宣伝の一つが英紙デイリーテレグラフに掲載された、劉暁明・駐英中国大使の寄稿文「China and Britain won the war together」(中国と英国はともに戦争に勝利した)。英中は反ファシズム戦争をともに戦い勝利した仲間であり戦後秩序構築を主導したというお決まりの内容なのですが、冒頭が面白い。

小説『ハリー・ポッター』で、闇の魔法使いヴァルデモート卿はその魂の一部をおさめた、7つのホークラックス(分霊箱)を破壊されて死んだ。もし軍国主義が日本におけるヴァルデモート卿の出現を意味するのであれば、靖国神社はホークラックスのようなものだ。国家の魂の最も暗黒の一面を象徴している。

だいたいこんな感じの書き出しなのですが、まあハリー・ポッター・ネタをかますことでたんなるお堅い政治的主張よりは読みやすい文章になっているのではないでしょうか。この小ネタ入り寄稿文で日英関係がいますぐどうこうなるわけではないのですが、少なくとも日本の主張より中国の主張のほうが目立っているのは事実。日本の理を他国に説くどころか中国の宣伝のほうが目立っている現状では、なかなか理解を得るのは難しいのではないかとも思うわけですが……。

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 コメント一覧 (11)

    • 1. 名無し
    • 2014年01月04日 23:20
    • チベットやウイグル弾圧、南沙問題、法輪功、PM2.5等々の問題があっても、中国の方が説得力あると見られてるんですか。
      凄く不思議なんです。
      靖国参拝しただけで日本より中国を信頼する・・・所詮、欧米は中国をビジネスの対象にしか考えてないから、中国が口当たりのいいことを言えばコロッと騙されるんでしょうね。
      中国の人権弾圧なんか見ないふりして、日本非難に迎合する連中。
    • 2. ななし
    • 2014年01月05日 02:20
    • そもそも問題の無い国なんてない。
      ロシアも民族問題、人権問題を抱えている。インドの人権問題もひどい。でも日本はそれらに目をつむって仲良くしようとしてる。
      アメリカも同盟国にまでスパイ活動をしていて、中東諸国に対する干渉がひどい。貧困率も高いし、麻薬汚染もどうしようもない。でも日本にとっては大切なパートナー。
      みんながみんな他国の問題を認めつつも自国の利益のために最適なことをしている。
      外交はそういうものだし、日本もそうやって外交をすべきだと思う。
      自分は利益のためなら中国、韓国とも仲良くするべきだと思うし、国民感情を外交に持ってくるなんて百害あって一理なしだと思う。
    • 3. chongov
    • 2014年01月05日 05:32
    • 中日関係は良くないからどっちも少し困った。しかし色んな報道から見れば、むしろ中国の方は困るを思うです。中日関係は悪くなっても経済交流にとって影響がない。日本車はまたよく売れた。
    • 4. 通りすがり
    • 2014年01月05日 17:21
    • 六辻彰二氏の文章は、典型的な靖国参拝反対派の意見で、個人的にはもうお腹いっぱいという感じです。
      こういった意見は、裏を返せば中韓の(日本人の立場からすれば)非常に理不尽な言い分に黙って従えと言ってることと同じで、自虐史観と根っこは同じものだと思われてしまうのですよね。
      しかも、多くの日本人の自尊心を抑えこむことに見合うだけの国益なりメリットを提示するわけでもない。

      私は、靖国参拝問題に対して、賛成派は日本人の自尊心の問題と捉えているのに、反対派はそこを無視しているので噛み合ないのではないかと思います。
    • 5. はげ
    • 2014年01月05日 17:34
    • chongovさん

      今は中国の方が有利に見えますね
      中国の国内が荒れそうなら、靖国、尖閣のカードを使えばいい
      その必要がないなら、この記事にあるように日本が悪いと宣伝を続ければいい
      EUなどと円安が進みすぎてずるいよね、と言って経済的に攻撃することも可能な雰囲気

      うちの安倍首相は自己満足のために動くことがはっきりしたのは残念ですね
      そうは言っても去年1年で日本国内の雰囲気は結構明るくなったわけで、
      ここ何人かの首相に比べたら十分に合格点だと思います
    • 6. snowball
    • 2014年01月06日 00:05
    • 靖国問題は、本質的には外交問題ではなく日本人の国内問題であり歴史認識の問題です。
      いつの頃からか、中国韓国が反対している事のみ過大に報じられ問題の本質を理解出来ない人達が増えています。
      自虐史観という呼び方は、単なる過ちの正当化もしくは開き直りでしかありません。
      近年は特に過去の正当化に熱を上げている人が増えているようですが、黒は白にはなりません。
      靖国問題を単に墓参りレベルに置き換え、祖先に敬意を表するのが日本人の流儀というのは、中国韓国に反発する単なる感情論でしかありません。
      日本人としては、中国韓国の非難を無視して、まず真摯に過去の歴史に向き合うべきであり、議論をすべきです。
      国を守った英霊という美句で一括りにするのは、歴史を検証する責任の放棄でしかありません。
      ネットで耳当たりの良い記事や意見ばかり、つまみ喰いするよりも、靖国問題に関する書籍を賛否関係無く最低10冊程度は読めば、どちらの論理構成に無理が無いかくらいは分かる筈でしょう。
    • 7. chongov
    • 2014年01月06日 04:50
    • はげさん

      意味よくわからない。そもそも中国マスコミの日本批判は国内矛盾に対する移転、この点に対して、あなたもわたしも百も承知した。2005年の時もそうかな。結局はどうですか?日本の被害はほどんどないが、反日糞青の破壊活動は自国しか損害できない。今回の中国政府は反日デモを許しなかった。たぶんもう一度やれば中国の国家イメージは破たんするかもしれない。中国の対外貿易依存度は日本より高いという現実も変わらない。

      靖国は日本のカードか中国のカードかよくわからないが、尖閣はどっちにとってもカードではない。
    • 8. さてさて
    • 2014年01月06日 12:11
    • まあ世界中の人間はみんなお勉強はキライだし、日本人以外はこの件に関してはお勉強する義理も義務ない。>>6さんの言うように、日本側の論理が、理解するのに本を最低10冊程度読む必要があるなものならば、中国の「ハリポタ論理」の方が宣伝力としてはまだ上だろうね。
    • 9. chongov
    • 2014年01月07日 06:57
    • 安倍総理は靖国バリア使えて、中韓との首脳会談を拒否した。もちろん、安倍総理自身は「首脳会談を拒否する」という言葉を言わない。なぜなら、中韓は「日本は悪い、彼と首脳会談しない」と言えるから、関係悪化の責任はもちろん中韓に居た。
    • 10. pleco
    • 2014年01月07日 16:09
    • やっぱり中韓ネタは伸びますね!
      こりゃ週刊誌だってやめられませんね。
    • 11. 通りすがり
    • 2014年01月13日 18:05
    • 一部のブログだけを引き合いに出して暗に靖国参拝批判とは大笑いですね。最初にまず「自分は靖国に反対している」というご自分の意見を書かれてはどうですか?

      ビジネスマンの個人ブログなぞ引っ張ってきて中国に赴任しているビジネスマンの嘆きなんか載せてますけど、そもそもこれは的外れもいいところです。日本政府が中国に進出している企業に「これから日中の関係はさらに冷えていく。もしもの事があっても政府は全く保証しない自己責任で進出せよ」と警告を出していることはご存知ですよね? 靖国参拝の随分前から出してます。つまり政府は暗に「中国との関係はこれからも悪化するから進出は考えなおせ」と言ってるんです
       外交に関しても、中国や韓国はさかんに日本を孤立させようと動いていますが、結果はどうでしたか?
       アメリカはうかつな声明を出してしまったために、日本はもはやアメリカに従わないということを自ら他国にアピールし、中国と韓国は散々走り回った挙句に他国からほとんど何んの声明も引き出せず(欧米ではせいぜいドイツの非難くらいのものです)苦肉の策として各国の中国大使に靖国非難の声明を出させるというお笑い外交をやっています

      ここまでの段階で安倍さんの思惑通りに動いていると言っていいと思います。
      マスコミは日本が孤立するだの何だの散々はやし立てましたが、一向に孤立する気配がありません。アジア諸国はせいぜいが静観、欧米も中立的な立場から様子を見ています
      結局、靖国参拝で騒いでいるのは今も昔も中韓だけです
      もはや靖国は中韓にとっての外交カードではなくなり、むしろ日本とのこれ以上の関係悪化を懸念する中国などにとっては靖国が日本のカードに変わってしまっているのです。
      これは間違いなく安倍さんの目論見通りなわけですが、それをもちろん理解していますよね?

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