■中国ネット世論の失速をどう考えるか?浦志強弁護士の講演会を聞いて■
大雪にもかかわらず会場はほとんど埋まっているという盛況ぶり。ちなみに私は防寒着を着込んだ結果、全身迷彩服。頭は両サイドを刈り上げた坊主というアレなスタイルで、ネットでは知り合い、リアルで初めてお会いした方に「こんな格好の方なんですね」と言われる羞恥プレイ。すべては雪が悪いんや!
■「悪い官僚にも人権はある」
浦弁護士は大柄の体で声がでかく、戦国武将にしてもいけそうな魅力あふれる人物。講演なれしていて、ギャグ連発の漫談スタイルで、どっかんどっかん笑いをとっておりました。
講演内容の中でも面白かったのは、「労働教養制度撤廃が実現した今、双規の問題に取り組んでいる」というお話。「双規」の原義は時間・場所を定めた取り調べですが、実際には中国共産党紀律部局による党員を対象とした軟禁、取り調べです。激しく拷問されるもあり、習近平の紀律引き締めキャンペーンが炸裂した去年は、双規中に対象者が死亡する事件があり、注目を集めました。
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この双規は、裁判所の許可なく拘束することを禁じた法律に違反しているというのが浦弁護士の主張。実際に双規された官僚の支援にたずさわりながら、この違法な制度の撤廃を目指していくという立場のようです。現行の憲法と法律によって規定された権利を守るための活動なので理解して欲しいとわざわざコメントしていましたが、つまり汚職や紀律違反の容疑がかかった「悪い官僚」が双規の対象となるわけで、そんな輩を助ける必要はないとの反発を受けているということでしょう。
■中国ネット世論にがっかりする一般ネットユーザー
もう一つ、印象的だったのは会場の中国人学生からの質問でした。メモがきれいさっぱり消えてしまったのでうろ覚えとなりますが、「人権とか普遍的価値とかステキなことを言っているネット世論なのに、文革みたいな吊し上げするのはなんなんでしょう?」という質問でした。
中国のネット世論には政府批判クラスタが形成されているわけですが、ちょっとでも気に染まない発言があると、激しく叩かれ、五毛党(政府に雇われたサクラ)とレッテルされ、罵倒され……と大変なことになります。
象徴的な事例でいうと、「口だけの革命はもうたくさん」的にネット民主化シンパをディスった作家・韓寒がバッシングされた事例(たいした証拠もないのに、これまでの著作はゴーストライターが書いたと“認定”されてしまったり)や、盲目の人権活動家、陳光誠氏の脱出を助けた何培蓉氏が当初絶賛されていたのに、ネットの政府批判クラスタを批判すると、いきなり猛バッシングをくらい政府の特務認定を受けるという事件もありました。
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まあ、この手の「レッテル貼りと吊し上げ」は日本でもよくある話で、憲法9条絡みだったり原発絡みだったりすると、議論が成り立たず、相手の立場を決めつけての罵倒が飛び交うというのは日常茶飯事なような気がします。おそらく中国や日本以外の国でも状況はあんまり変わらないのではないかと思うのですが、そういう醜い現実を突きつけられた時、中国人ネットユーザーが感じる打撃はより大きいのです。
というのも、中国では「政府に規制されないネット論壇はステキやで。体制を変える力があるんやで」とピュアに信じていた人が結構いたというのが大きいのです。日本にも「ビバ!集合知」的なネット言論への期待はありましたが、「共産党のコントロール下から抜け出してネットのユートピアへ!」的な盛り上がりのあった中国とは比較になりません。