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【ブックレビュー】2013年中国の経済、政治、外交を振り返る=津上俊哉『中国停滞の核心』を読む

2014年02月27日

■2013年中国の経済、政治、外交を振り返る=津上俊哉『中国停滞の核心』を読む■

中国停滞の核心 (文春新書)

津上俊哉さんの新刊『中国停滞の核心』をご恵投いただきました。

目次
序章 瀬戸際の中国経済
第1章 「7%成長」のまやかし第2章 「三中全会」への期待と現実
第3章 これが三中全会決定の盲点だ
第4章 「中国経済崩壊」は本当か
第5章 「経路依存性」との闘い
第6章 危機が押し上げた指導者・習近平
第7章 米中から見た新たな世界――二冊の本を読んで
第8章 「ポスト・中国バブル」期の米中日関係
第9章 中国「防空識別圏」問題の出来
第10章 安倍総理の靖国参拝
第11章 中国「大国アイデンティティ」の向かう先
第12章 当面の日中関係に関する提案――尖閣問題に関する私的な提言


■経済、政治、外交……2013年中国を振り返る一冊

前作『中国台頭の終焉』でヒットを飛ばし中国経済の専門家として注目を集めている津上さんですが、本作では経済のみならず、中国政治、外交にまで踏み込んで議論を展開しています。

強引に分けるのならば、序章から4章が経済篇。中国経済が直面している課題、この1年間の流れ、新たな改革、そして改革の不安が語られています。5~6章が歴史的にみた中国政治の体質とその改革に取り組む習近平。7章以降が日米中をにらんだ外交関係という話です。

前作同様の経済ネタ全開を期待して読むと肩すかしを食らうわけですが、経済篇では三中全会の改革プラン、上海自由貿易試験区の改革案とその意義についてコンパクトに説明されているので、この1年間の中国経済をさっくり勉強するにはいいテキストじゃないかと。

特に都市化についてのツッコミは秀逸。今後の経済成長の推進力としての都市化に期待されているが、無計画な箱づくりに終始すれば過剰投資再び。都市と農村の均衡ある発展をというが都市に人口が集中しないとサービス業の生産性はあがらないし、人を集めるためには規制緩和してサービス業を発展させないとダメ。と都市化政策の成否は他分野の改革にかかっていることを明快に整理しています。

政治篇では岡本隆司『近代中国史』をヒントに、中国では政権が末端の支配にあまり介入せず、地方やエリート、中間団体に丸投げしていた状況が現在でも温存されているのではないか。それが権力のクロスチェックというガバナンスを欠く要因ではないかとの指摘です。。そしてこの課題を解決する役割が「強力なリーダー」習近平に期待されているとの評価です。

外交篇では中国の高成長が続くという幻想が2013年に転換点を迎えたと分析。「ポスト・中国バブル期」の日米中の関係を時系列で追っています。もともと米国にはアジアの秩序維持と軍事コスト削減という相反する二つのタスクが存在していましたが、中国経済の変調が明らかになるなか、米中共存に傾くトレンドが生まれたと分析しています。

冷戦時代のソ連と比べ、中国は深く米国経済と結びついており、排除することは現実的な選択肢ではない。そこで訪米した習近平が提唱した「新型大国関係」に米国が乗り気になったのではないか、と。その後、防空識別圏、靖国参拝というアクシデントが発生し日米中の関係は不透明さを増してしまったが、それでも基調としての米中接近は続いており、日本が孤立するシナリオもありうるのではないか……と警告しています。


■史上最弱の帝王から強いリーダーへ

さて、ここまで駆け足に本書の骨組みについて紹介してきましたが、最後に個人的に面白かったポイントを。

一つは「強いリーダー・習近平」という認識です。習近平のキャラクター、ポジションについては異なる説が並立しているわけわかめ状態です。ただその中でも比較的意見が一致していたのが習近平の弱さ。矢板明夫『習近平―共産中国最弱の帝王』がそうした論の筆頭格でしょう。毛沢東、鄧小平という豪腕トップがいた時代は終わり、より組織的、合議的な統治へと中国は移っている。江沢民、胡錦濤、習近平と代を経るごとに小粒化していくという流れです。

ところが蓋を開けてみると、習近平は就任当初から中央軍事委員会主席の座をゲット。これは江、胡も成し遂げられなかった快挙です。さらにこの一年間、汚職官僚摘発から強力な経済改革の導入まで次々と辣腕を振るっています。予想とは真逆に、習は「強いリーダー」としてのポジションを手に入れたというのが本書の読みです。

ただし強いリーダーとはいっても、周囲への配慮が不必要なわけではありません。中国では今、「政左経右」(政治的には左派、経済的には右派)という言葉がちょっとした流行語です。毛沢東回帰とまで言われる左派色の打ちだしはいわば共産党元老などへのゴキゲンうかがいであり、おっさん転がしで手にしたリソースで市場主義的(=右派的)な政治改革をしようとしているのではないか、という期待も広がっているそうです。

個人的には習近平の人となりについてはまだ判断がつかないというのが本音なんですが、「最弱の帝王」がこの1年あまりで評価を激変させたことは面白いポイントです。


■日中は対立している場合じゃない

また前作から一貫している問題意識、「日中は対立している場合じゃないぜよ」が100倍ぐらい強化されているのも注目です。

「中国は大国になったのだ」という大国意識が周辺国への圧迫につながり、また日本の危機感を招いたのだが、中国経済はすでに変調をきたしている。どうでもいい対立している場合ではなく、改革に取り組まないと危険が危ない。つーかあと10年もすると危機が表面化してもう対立どころじゃなくなっているよ、という主張なのですが、今回は結構日本人にとって耳が痛いポイントが多いような。

そも中国経済の危機について筆者は前作で、過剰投資で成長を先食いし生産能力が過剰に(短期的課題)、生産性の上昇をなしとげないと今後の成長はできない段階に(中期的課題)、高齢化(長期的課題)と分析しているのですが、このうち中期的課題、長期的課題は日中は共通しているわけで。

歴史問題とかでバトっている場合ではないのではないか。「どっちがうまいこと経済的課題を解決するか対決」こそ本命の競争なのではないか……などと考えさせられます。

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 コメント一覧 (1)

    • 1. chongov
    • 2014年02月28日 07:49
    • 確かに2020年代の時、中日両国の外交紛争は緩和になるを思うです。あの時、中国の少子高齢化は深刻化、人口・GDP急成長のインドやイスラム国家の脅威を警戒する。むしろかの時、中国と日本の協力点は多いな。

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