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中国金融のいびつさにつけこんだ大ヒット金融商品「余額宝」の秘密

2014年03月14日

■中国金融のいびつさにつけこんだ大ヒット金融商品「余額宝」の秘密■

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CHINA_036.JPG / torres21


■「ダメ人間の投資商品」


「ダメ人間の投資商品」余額宝が熱い。1元単位で購入可能、いつでも引き出しOKのネット販売ファンドなのだが、その人気は急激に過熱。預け入れ資産額は2014年1月の2500億元から2月末には5000億元と倍増した。ユーザー数は8100万人(3月第2週時点)。株式投資のアクティブ口座数7700万口座を上回った(フィナンシャルタイムズ中国語版)。

預金を奪われる形となった既存金融業界もついに余額宝に反撃する姿勢を示した。先日はCCTV金融チャンネルの評論員が「吸血鬼」「寄生虫」とのどぎつい言葉で批判、余額宝の恩恵を受けているネットユーザーが猛反発するという一幕もあった。

しかしその評論員の批判を読むと、「吸血鬼」という批判もゆえなきものではない。余額宝は中国金融業界のいびつさにつけ込み、リスクを銀行に丸投げすることによって、“便利で安全、しかも高利の金融商品”を実現している。


■余額宝の急成長と既存金融業界の反発

余額宝とは、中国EC最大手アリババ旗下の第三者ネット決済サービス・支付宝が、2013年6月にリリースした金融サービス。支付宝はネット上の財布にお金をチャージして決済に用いるというものだが、余額宝はそのチャージしたお金に利子がつくというサービスだ。支付宝と同じくいつでもネット決済に使える上に、出金手続きをすれば翌日には銀行口座にお金が戻ってくる。

銀行の普通口座並みの簡便さだが、利率は5~6%。銀行普通預金の0.35%の10倍以上という高金利だ。しかも1元から投資が可能とあって、貯金がない屌丝(ダメ人間)でも投資できるではないかと一気に人気を集めた。IT企業最大手テンセントの理財通、大手家電量販店・蘇寧の零銭宝と類似商品もリリースされ、活況を呈している。

その余額宝に既存金融業界から痛烈な批判が浴びせられた。CCTV証券チャンネルの評論員、鈕文新氏がブログで「余額宝は吸血鬼、取り締まるべき」と批判。そのブログエントリーを人民網など主要官製メディアが取り上げたことから、「政府の余額宝潰しか」と反響が広がった。


■吸血鬼を食い物にする吸血鬼

「ダメ人間の希望を取り上げるのか」との反発はよく理解できるが、冷静に鈕氏の批判を読むと「吸血鬼」という批判はそれなりの合理性を持っていることがわかる。いや、正確にいうならば、一般市民を食い物にする銀行という名の「吸血鬼」から、さらに血を吸い上げる「吸血鬼ハンター」というところか。

鈕氏の批判のキモは余額宝の資金運用にある。業績報告書によって資金の90%は銀行に貸していることが明らかになったのだ。5~6%の利回りは銀行を食い物にすることによって実現している。

これを一般市民目線で見ると、きわめて異常な構図が明らかになる。

・一般市民が直接銀行に預金すると利子は0.35%。
・一般銀行が余額宝経由(もちろん手数料は取る)で銀行にお金を貸すと利子は5~6%

という不思議な状況がそこにはある。


■秘密は中国金融業界のいびつさにあり

なぜこんなことが起きるのか。その秘密は中国金融業界のいびつさ、すなわち預金金利規制にある。中国の預金金利は基準金利の1.1倍までと規制されている。そのため普通預金の利子はインフレ率をはるかに下回る低水準に固定されている。物価を勘案すると、預金したお金は年々減少していくのである。この規制を活用して、銀行は低い利子で預金を集め、それを高利回りで運用することで莫大な利益をあげてきた。ある意味、中国の銀行こそが庶民を食い物にする「吸血鬼」なのだ。

ところがこの預金金利規制、金融機関同士の貸し借りには適用されない。金融機関同士は同業預金(協議預金とも。シャドーバンキングの一手法でもある)と呼ばれる手法で金の貸し借りが可能だが、その場合の利率は自由に設定することができる。バブル退治のため金融当局は流動性をしぼっているため、中国の中小金融機関はお金を欲している。その弱みにつけこんで余額宝は有利な条件で金を貸し付けている。まさに「吸血鬼を食い物にする吸血鬼」だ。

たんに利回りが高いだけではなく、安全面でも有利だ。銀行だって倒産リスクはゼロではないとはいえ、基本的には安全。破綻すればその影響はきわめて甚大なだけに政府が救済する可能性も高い。余額宝が安全投資をうたっているのも納得だ。


■「貴族の義務」を果たさない余額宝

預金金利規制という金融業界のいびつさをついて誕生した余額宝。よくできた仕組みだと感嘆する。それと同時に既存金融業界の怒りもよくわかる。

中国の銀行は預金金利規制によって甘い汁を吸っているのだが、同時に面倒な義務を背負わされている。社会不安が生じないように破綻企業の救済をしなきゃいけなかったり、あるいは政府にせがまれてどうみても割に合わない投資先に金を融通しなきゃいけなかったり、だ。貴族には貴族の義務がある、というわけだ。

ところが余額宝は預金金利規制による甘い汁を吸いながら、リスクはすべて銀行に丸投げ。義務も負っていない。そんないいとこどりが許せるか、というのが金融機関の本音だろう。

今すぐに大きな影響があるわけではないが、このまま銀行預金から余額宝への資金移動が続けば、「おいしい汁を吸わせてるから、代わりに汚れ仕事をよろしく」という中国金融業界のルールが揺るぎかねない。かくして金融当局内にも余額宝を警戒する声が高まり、同業預金の規制強化の動きも始まっている。その一方で預金金利規制撤廃という金融正常化の突破口として余額宝を評価する者も当局内にはいるようだ。

中国のいびつさ、面白さが集約された「吸血鬼を食い物にする吸血鬼」余額宝。今後、この新サービスをめぐって政策担当者がどのような綱引きを展開していくのか。たんに新奇なITサービスが登場したというだけではなく、中国金融改革の先行きをも予見させる重要なポイントとなるのではないか。

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 コメント一覧 (2)

    • 1. 通りすがり
    • 2014年03月15日 12:27
    • >社会不安が生じないように破綻企業の救済をしなきゃいけなかったり
      >あるいは政府にせがまれてどうみても割に合わない投資先に金を融通しなきゃいけなかったり
      これって貴族か?昔から金貸しは下衆の仕事だったが、上はそれが決まりならそれに従うのが義務だし、後者は越後屋とやってる事変わらなくね?どこが貴族には見えない。
    • 2. 芋
    • 2014年03月16日 11:37
    • 例え話や比喩にマジレスする人のことをアスペルガーと言うらしいと風の噂で聞いたことがあると昔じいちゃんが言ってた


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