• お問い合わせ
  • RSSを購読
  • TwitterでFollow

新疆ウイグル自治区を歩く=漢化と抑圧の間で(3:カシュガル後編)(迷路人)

2014年03月19日

■漢化と抑圧の間で ウイグル・レポート2014 (3 カシュガル後編)■

2014年3月1日~9日の間に見た、新疆ウイグル自治区の現状レポート。前回に引き続きカシュガルの話である。

20140319_写真_新疆_安田峰俊_1

街を歩いていると、制服姿の屈強な男たちの訓練風景を目撃した。不審者を捕獲する構えや殴りかかられた際の防御の構えなどを、ウイグル語の号令に従って次々と演武している。まだ新人のグループらしく、動きがどこかぎこちない。

しかも、制服がちょっと見覚えのないデザインだ。公安か特種警察か武装警察(各者については後述)のどれだろうと思ってよく観察すると、なんと「カシュガル疆南保安服務有限公司」なる民間警備会社の警備員の訓練だった。私が携帯のカメラで写真を撮ると「撮るな! 画像を消せ!」と罵声が飛んできたが、さらっと無視。正規の警察じゃないので、多少は逆らっても滅多な目には遭うまいと思ったからだ。

もっともこの会社、近所の求人看板の説明を見たところ「公安局の監督下にある」「国有資産監督委員会ほか(当局系の)5団体の共同出資で設立」などと書かれていてなかなか香ばしい。明記された求人採用番号のひとつも、(おそらく現地公安局の)共産党政治委員の携帯番号だ。

20140319_写真_新疆_安田峰俊_2

仕事内容は「ボディガード」「武装輸送(銀行の現金などを銃装備で輸送)」「特殊保安業務」など。後に市内で、正式な公安車両とよく似た配色で同車種(おそらくイタリア商用車メーカーのIVECO製)の「武装輸送」車両をしばしば目にした。

この警備会社は、どうやら現地の治安機関の関連業をアウトソーシングする、事実上の警察補完組織であるらしい。民間組織なのに銃で武装できるあたりは中国的おおらかさなのか。

彼らはほぼ全員がウイグル系と思われる少数民族で、教官もそうだった。ウイグル人の若者には雇用がない(後述)こともあって、体力の有り余った一部の人はこうした会社に就職して当局側に協力する仕事を選んでいるのだろう。

もっともこの写真の彼ら、敬礼の腕の高さが揃っていなかったり、教官に叱られても「サーセン」とヘラヘラしているなど、なんだかユルい雰囲気も漂う。人材の質は高くなさそうだ。

20140319_写真_新疆_安田峰俊_3

ところで、そんな新疆南部(南疆)の街を彩るのは、中国の多種多様な治安維持当局者たちの姿だ。首府のウルムチだと、第三者に可視化可能な警備は比較的少ないのだが(それでも中国の他地域よりは多いが)、カシュガルやヤルカンドはとにかく治安維持関係車両だらけ。街を歩くと15分に1回くらいは何らかの車両や警備隊とすれ違う。

まず、スタンダードなのが公安だ。これは日本でいう普通のお巡りさんで、パトカーやバイクで巡回していることが多いのだが、たまに拳銃だけではなくアサルトライフルを装備しているボルボ西郷みたいな奴がいるので侮れない。また、中国は司法警察制度が日本と異なるため、「司法」「検察」「海関(税関)」などもそれぞれ公安と似たデザインのパトカーを保有しており、市内を走り回っている。中国の他地域だと、司法や検察のパトカー(もどき)なんてほとんど見ないのだが……。

ほか、次に多いのが特警(特種警察)である。読んで字のごとく「特殊な業務にあたる警察」(中国のネット百科事典『百度百科』)なのだが、実質的にはテロ鎮圧向けの重武装警察部隊(日本のSATやアメリカのSWATみたいなの)と考えていい。中国の他地域の場合だと、何か騒乱や暴力事件に際して特警が飛んできた場合、事件がそれなりの深刻性(海外メディアの報道対象になり得るレベル)を持っていると判断できる客観的材料になる。だが、新疆では日常的に街を巡回している(「テロ鎮圧」体制が日常化している)ため、特警がいてもあまりスペシャルな感じはない。

そして、治安維持当局でも本気度MAXなのが武警(武装警察)だ。この人たちは警察とは名ばかりで、事実上は展開範囲が国内に限定された軍事組織、ウイグルやチベットでの反乱鎮圧にしばしば動員されている。新疆で任務に就く彼らはしばしば迷彩服姿であり、武装も重武装で常に軍人特有の殺気を放つ。市内を巡回する場合も普通のパトカーはあまり用いず、軽装甲車や防弾設計の中型バンなど、より実戦能力が高そうな車両を多用する。

20140319_写真_新疆_安田峰俊_4
(武装警察参考画像。こちらは2009年国慶節に北京で撮影されたもの)

カシュガルやヤルカンド(莎車)では、武警がバンの後方に5~10人の迷彩服姿・アサルトライフルでフル武装の隊員を乗せて街を巡回する様子がよく見られる。軽装甲車から迷彩服姿の数人が上半身を出し、路傍に銃口を向けながら走り回っていることすらある(上記写真イメージよりも怖い)。常に強力な武器を見せつけることで、現地の住民を視覚的に威圧する方針なのだろう。

私がカシュガルに着いた初日の夜、漢人街とウイグル人街の境目の公園で複数のウイグル人がダンスをしているのを見た。だが、その隣には、迷彩服でアサルトライフル装備の武警兵士たち5人ほどが、常に銃把に手をかけた状態(発砲できる状態)でウイグル人集団を睨みつける姿がある。現地の人々はダンスをするだけでも命懸けだ。

カシュガルの街では公安・特警・武警の他にも、半官半民警備会社のパトカーもどき車両や、地方政府管轄下の「城管(城市管理委員会)」のダッサいトラックなど、権力の暴力装置の車両を数多く観察できる。街を小一時間散歩するだけで、中国のはたらくくるまシリーズをコンプリートできてしまうのだ。

ちなみに、半官半民警備会社・城管・公安あたりにはウイグル人など少数民族隊員の姿が多く見られるが、特警や武警のメンバーはほとんどが漢人に見えた。権限や武力が大きくなるほど、現地の人間にポストを与えないシステムらしい。

20140319_写真_新疆_安田峰俊_5
(カシュガル市内にて。人民解放軍戦車のおもちゃに乗って遊ぶウイグル人の子ども)

ところで、上記の半官半民警備会社と同じく、当局の治安維持の末端業務(事実上の密告・監視作業)を請け負っている「協警(協助警察)」という人々についてもここで説明しておきたい。

協警は「警察」の名がついてはいるものの正規の公務員ではなく、契約雇用された私服の民間人だ。新疆ではウイグル人をはじめとした少数民族の若者が多くこの職に就き、同胞を監視している。

農村部ではひとつの村のうち2~3割の世帯に協警化した人間が潜んでおり、他の庶民の誰の家にどんな人間が何時に何人来たか、といった情報を定期的に公安に密告し続けているという。あるウイグル人に聞いた話を、以下にかいつまんでまとめる(例によって発言者は伏せる)。

「協警になった場合、農村部では月に800元、都市部では同2000元ほどが支給されます。不審人物を発見・報告した場合は特別ボーナス。田舎の若者は仕事がなく、都市に出ても漢族からの就業差別で雇用がない。当局は職にあぶれた若者を少額の報酬で密告者に仕立て上げているわけです。あまり高い学歴を持たず、難しいことを考えない、体力だけあるゴロツキみたいな男が協警になることが多いですね」

ウイグル人は漢人経済の内部ではなかなか仕事にありつけないが、協警は就職を希望すればほぼ必ず採用してもらえる。採用率99%で給料もそこそこ(現地感覚では日本の月収7万~20万くらい)、仕事をする上で特別なスキルも経験も不要となれば、やる人間が多いのは容易に想像できる。現地のヤンキーを吸収している職業なのだ。

「当然ながら現地では非常に嫌われています。新疆の農村部では、いわゆる『漢人や警官との騒乱事件』以外にウイグル人同士の殺人事件も多いのですが、これらは村人が協警を殺害するケースがほとんどです」

日本人が「新疆の民族問題」と聞くと、漢人がウイグル人を虐待・虐殺する単純な構図をイメージしがちだが、実態はもっと複雑だ。先に挙げた警備会社しかり協警しかり、中国におけるウイグル人弾圧の最末端を担っているのは、やはり同じウイグル人なのである。

20140319_写真_新疆_安田峰俊_6

第二次世界大戦中、日本軍の占領下にある地域では少なからぬ中国人が対日協力者(漢奸)になり、支配者にすり寄ることで生き延びようとした。現在の中国の少数民族地域でも、皮肉なことに今回は中国人(≒漢人)が支配者側に立つ構図ではあるが、やはり似たようなことが起きている。

例えば今月17日夜、ウルムチ市サイバグ区でウイグル人と見られる男性が「刃物を持ち警察を襲撃」(当局見解)して29歳の警官①人が死亡する事件が起きているが、この死亡した警官もまたウイグル人だ。他にも情報サイト『ウイグル・オンライン(維吾爾在線)』なんかで騒乱事件の記録を見ていると、住民側から反撃されて死亡している協警や公安・共産党員などは、ほとんどがウイグル人(ほか少数民族)だ。

結果として生まれるのは、ウイグル人社会内部での相互不信と疑心暗鬼、そして殺し合いなのである。

ならば、新疆の現地ではどのような監視密告社会が構築されていて、そこに接した外国人はどういう目に遭うのだろうか。これについては次回お話することにしよう。


関連記事:
新疆ウイグル自治区を歩く=漢化と抑圧の間で(2:カシュガル前編)(迷路人)
新疆ウイグル自治区を歩く=漢化と抑圧の間で(1:ウルムチ篇)(迷路人)
中国ネット世論「ウイグル族の特権って酷くね!?」日常の民族問題(迷路人)
漢民族のウイグル人蔑視を素直に伝える、マンガ『中国のヤバい正体』がかなり残念だった件
史上最大の在米華人デモに感じる既視感、チベット騒乱と反CNN、ウイグル問題と反ABC
茶番ハイジャック事件の超茶番的その後=英雄にマンションと高級車をプレゼント―中国
「もともとペットと人の関係だった」チベット事件が暴いた偽りの愛情―チベットNOW

執筆者:安田峰俊(やすだみねとし)

1982年滋賀県生まれ。ノンフィクション作家。多摩大学経営情報学部講師。2008年~2012年まで「迷路人」のハンドルネームで中国のネット掲示板翻訳ブログ『大陸浪人のススメ』を運営、2010年に中国のネット事情に取材した『中国人の本音』(講談社)で書籍デビュー。ほか『独裁者の教養』(星海社新書)、『中国・電脳大国の嘘』(文藝春秋)など。近著に『和僑』(角川書店)。アマゾン著者サイト

forrow me on twitter

トップページへ

 コメント一覧 (3)

    • 1. 禿
    • 2014年03月22日 21:05
    • なんかこじつけを作ってまで中国を批判しないといけないような記事だな。
    • 2. 在中
    • 2014年04月11日 23:17
    • うちの地方の協警は、主に交通整理やってますー
    • 3. はげ
    • 2014年04月17日 05:31
    • >禿
      特に何処もこじつけには読めませんでしたが…

コメント欄を開く

ページのトップへ