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バングラデシュ政治の意外な展開=「異常」な選挙と「平穏」なその後(田中)

2014年03月24日

■バングラデシュ政治の意外な展開=「異常」な選挙と「平穏」なその後(田中)■
 

Apartment Dhaka Bangladesh
Apartment Dhaka Bangladesh / As1am

2014年1月5日、バングラデシュの総選挙が行われた。

選挙管理内閣を組織しない、イスラム政党の締め出し、40年以上前の独立戦争「戦争犯罪人」を突然摘発、処刑するという政治的決定など、与党アワミリーグの態度に野党は反発。選挙をボイコットし、一部投票所では火焔瓶が投げられ多数の死者が出るなど混乱が広がった。

野党不在の総選挙だけに当然のごとくアワミリーグが圧勝したわけだが、その後の混乱は必至と思われていた。ところが予想を裏切り、かなり落ち着いた情勢が続いている。本稿ではバングラデシュ総選挙の「意外なその後」についてご紹介したい。


■「異例」の総選挙とその後の「平穏」な政治情勢

選挙直後、無期限ホルタル(ゼネスト)を宣言していた最大野党BNPは、しばらくして耳を疑うような声明を行った。全国規模のホルタルを今後封印すると宣言したのである。

アメリカやEUなど先進諸外国の支援が得られないこと、選挙前に反政府活動として行った暴力的なホルタルや道路封鎖が民衆の支持を得られなかったことが理由となった。本当にホルタルがなくなるのかという国民からの疑問の声も聞かれていたけれども、実際に地方都市でのホルタルは散発しているものの、全国規模のホルタルは実際に発生していない。

選挙の結果、国会はほぼ与党アワミリーグの一党独裁状態となっていて、民主主義の危機を唱える人も多い。しかし、ホンモノの独裁政治とは言いがたい。なぜならば、新聞でもテレビでも野党ボイコットのまま行われた選挙はできることならやり直すべきだという論調では一致しているうえ、与党アワミリーグのこれまでの行動についても批判記事を掲載している。自由に意見が言えなくなれば民主主義の危機かもしれないが、そうした規制は今のところないようだ。


■ボイコットは正しい戦術だったのか?地方選に見る野党の現在

かくして総選挙は意外なことに平穏な結末を迎えた。今、政治の関心は地方首長選挙に集まってきている。

バングラデシュの地方行政は以下のように区分されている。7つあるDivision(管区)、64の県、487の郡、4527の村役場である。これに加えて都市の区も行政組織を持つ。現在、実施されているのは郡(=ウポジラ)議長を選ぶ地方選だ。議長、副議長、女性副議長の計3人が選出される。1月末から3月中旬にかけ、すでに3回の選挙が実施され、291のウポジラで新議長が選出されている。

この結果、BNPが120、アワミリーグが118、ジャマティ・イスラムが27、ジャティオパーティが2、その他が24という結果が出ている。野党BNPがもっとも多く新議長を排出することになったわけだ。

きわめて示唆的な結果と言えよう。BNPおよびジャマティ・イスラムが民衆からなお強い支持を得ていることが確認された。ボイコットせずに真っ当に国政選挙に挑んでいたら、BNPが政権を獲得していた可能性もあったわけだ。


■再選挙はありうるのか?

さて気になる今後の国政の行方であるが、欧米諸国からは総選挙のやり直しを求める声が上がっている。BNPはそれを追い風にやり直し選挙を迫りたいところだが問題もある。欧米諸国は一方でイスラム原理主義勢力であるジャマティ・イスラムと手を切るように要請しているためだ。BNPはこれを飲めないでいる。

ウポジラ議長選挙の数字にも現れているように、自勢力だけでの選挙による過半数獲得には不安がある。アワミリーグも総選挙のやり直しを完全に拒絶しているわけではないが、ジャマティ・イスラムの選挙参加には批判的である。

また世論が選挙やり直しを強く支持はしていないのも微妙なポイントだ。「野党がボイコットした総選挙は問題」という意識は共通だ。しかしだからやり直しをという声はさほど目立ってはいないのだ。

その背景にはバングラデシュの政治的変化があげられる。これまでは貧困ゆえに国家の政治運営に強い不満を抱く人々が多かったが、貧困問題は次第に解消してきている。また他の南アジア、東南アジア諸国の場合、政党抗争の背景に根深い民族問題がある。このような国々では選挙に負けるということは、負けた政党を支持する民族は国富の分配に預かれないということを意味する。一方、バングラデシュはベンガル民族が約98%を占めている。アワミリーグの独裁政治が続いたとしてもそれによって国民への富の分配に大きく偏りが出ることはない。そのため、さまざまな点で国民の政治への関心は薄れつつあるのだ。

BNPが強いリーダーシップを発揮して、国民を巻き込みながら総選挙やり直し運動を展開できれば、再選挙もありうる。しかしそのためには課題は山積みだ。党首カレダ・ジアの長男が党内幹部を名指しで批判するなど党内意見の不一致もある。ジャマティイスラムとの関係も懸案だ。そしてホルタルを封印した今、国民にアピールできる新たな政治活動はあるのかなど、いくつもの条件をクリアしなければいけない。

「異例」の総選挙の後に訪れた「平穏」な政治情勢。果たして再選挙という形でもう一度揺り戻しがおきるのか、状況は相変わらず混沌としている。

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■執筆者プロフィール:田中秀喜
1975年生まれ。メーカー勤務、青年海外協力隊、JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業。チャイナプラスワンとして注目されながらも情報の少なさから敬遠されがちなバングラデシュの情報源となるべく奮闘中。

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