中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2014年05月01日
■国境と課題を有する両国
事件を簡単に振り返ります と、4月18日早朝4時過ぎ、ベトナム北部・クアンニン省の中国国境BắcPhongSinhで、16人の中国人グループが違法入境し捕まったベトナム側に拘束されました。取り調べを行っていたところ同日12時頃、同グループ側が国境警備隊の銃を奪って発砲し、脱出を試みましたが、結果取り押さえられた模様。混乱の中で7人が死亡、うち2人はベトナム側国境警備隊員で、5名は中国人グループ側。中には抵抗の末、事務棟の建物から飛び降りて自殺したものもいたそうです。
*事件のあったBac Phong Sinhはこのあたり。右下Mong Caiでも同日に不法出入国騒ぎが。
ちなみにこの国境は両国間の「National Border」で、ベトナム・中国人以外も通れる「International Border」ではないため、近年でこそ両国間を歩いて渡るようなバックパッカーもいる中、ほとんど知られていない国境と言えます。広い国境を共有する両国、我々外国人がたまに超えられる友誼関などとは全く違う世界がここにはあります。
■「中国人」が誰かということ
しかし、事件の性質は「中国人」グループがどうやら新疆方面から来たウィグル族らしいということから一変します。ベトナムの領土内でベトナム警備隊にも死者が出るという、明らかなベトナムにおける事件にもかかわらず、ベトナム当局は何と「事件同日午後に」11人(内子供2人)と5人の遺体を中国側に引き渡してしまったのです。その超速攻の対応に「なぜそんな拙速に?ベトナムの主権って一体……?」とベトナムからも疑問の声が一部では上がりました。確かに取り調べ中に銃を取って発砲してしまったことは大きな刑事事件ですが、もし彼らが元々政治難民だとしたら、その保護はそれこそ大きな国際問題です。
その「中国人」グループのアイデンティティーにヒントを与えそうな上記写真は、事件発生当初どのベトナムネットメディアも使っていたのですが、同日夕方からパッタリ使われなくなりました。中国からの「お願い」があったのではないかと、そこは推測してしまうところ。事件翌日には中国からも命を失ったベトナム国境警備隊に弔問団が訪れ、ベトナムでのメディアはそれ以降「国境を守った烈士たち」への哀悼の念、という論調の報道が主となっています。
■考えたこと:独裁国家同士の困った時はお互い様?
この速やかな対応は「ベトナムは中国に屈したか?」とみるよりは、むしろこの共産党独裁国同士の「困った時はお互い様」合意ではないかと感じます。中国ほどの量ではないにしろ、ベトナムでも少数民族との摩擦は、特に国境地域においてたまに起きており、近年では2011年に、これまた中国国境ともそれほど遠くないベトナム北西部でHmong族の暴動が起きています(以前の記事はこちら参照)。こういった少数民族で当局より圧力を受けた人たちがベトナムから国境を越えて中国側に行くことだって、大いにあり得ます。
この事件後の続報 としても、21人の「中国人」(詳細不明)が、何とこの事件と同じ日の夜に、今度はクアンニン省モンカイから不法入国しようとして阻止されているニュースがベトナムで報道されています。3月にはタイで100人を超えるウィグル人が、そして同月には200人を超えるウィグル人がマレーシアで拘束されているというニュースもあり、これらの関連性も注目に値します。中国国内の事情がウィグルの人を追い立てているのか、周辺各国への中国への「要請」が強まっているのか……。しれっと過ぎ去ろうとしているこの事件ですが、大きな国際問題になっていなそうなのが不思議なくらい、色々な要素を含んでいると思います。
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*本記事はブログ「ハノイで考えたこと」の2014年4月22日付記事を、許可を得て転載したものです。
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