中国、新興国の「今」をお伝えする海外ニュース&コラム。
2014年05月08日
日本でも大きく報道された西沙諸島近海での中国軍艦・公船とベトナム巡視船の衝突。それは中国の石油会社が南シナ海での石油資源掘削活動を始めたことから始まりました。
同地は中国が実効支配をしつつも、ベトナム、台湾も領有権を主張しているエリアです。その掘削作業の流れを阻止しようとしたベトナム側との小競り合いから、今月3日、4日にベトナム漁業監視船が中国船に「攻撃された」として6名が負傷。その不正を訴える形でベトナム外務省が7日に記者会見を開きました。中国側も反論しているようで、真相はわかりませんが大きな外交問題に発展していることは確か。ここではベトナム側から見た反応をご紹介します。
*5月8日付TuoiTre紙は中越艦船衝突のニュース。ディエンビエンフー戦勝記念行事の見出しは上に小さく追いやられた。
■激しく抗議する政府、メディア
政府会見を受けてここ数日、特に本日8日のベトナムメディアは一気に報道を拡大。ネットメディアでは今朝から「中越衝突」報道がトップ、紙媒体でも愛読紙TuoiTreでは1~44面をほぼ全部使ってこの事態を伝えています。そういったメディアの報道では海上警察副長官の「我慢にも限界がある」といった激しい言葉が大きく見出しに踊るなど、怒りを露わにする報道が相次いでいます。
またベトナム株式市場は何と2001年以来最大の下げを記録。国家証券委員会主席のVũ Bằngは「投資家は冷静になるべき」とベトナムエクスプレスとの取材で訴えるなど、影響は経済面にも現れ始めています。
■危機感を募らせる市民の声
一般の人たちはと言えば「またかぁ」といった反応。ただ深刻さはこれまで以上なのか、自嘲的なジョーク交じりで「こりゃあ、戦う準備しなきゃいけないなあ」「やっぱ(人口差があるから)1人で15人相手じゃあ辛いよなあ」なんてことを言う人すら。もちろん現実的にすぐにそこまでエスカレートすることはないでしょうが、毎回のように繰り返される小競り合いに、危機感を募らせるベトナムの人が多いのは現実でしょう。
*ディエンビエンフーの戦いの戦場となったA1の丘。本来なら7日はこの勝利を祝う一日だったのに……。
■考えたこと:ディエンビエンフーの戦いと南シナ海の皮肉なバッティング
さて、今回のタイミングはなんとも皮肉です。というのもベトナム外務省の記者会見が行われた7日はあの有名な「ディエンビエンフーの戦い」の戦勝記念日だったからです。そのディエンビエンフー市では共産党総書記、国家主席、更には歴代のリーダー達も集まって偉大なる闘争での勝利をお祝いしていました。
ベトナム共産党的には、この日の紙面は「ベトナム共産党は頑張った」という歴史を振り返る構成にしたかったはず。それが逆に「中国にやられた」的ニュースにがっつり紙面を取られてしまったのですから、怒りは相当なものではないでしょうか。政府関係者の発言が一段と激しいのは、こうしたタイミングの影響も少なからずあると思われます。
中国がこの期を狙って挑発したかどうかは定かではありません。ただ「ディエンビエンフーの戦いでは中国人軍事顧問の支援もありまして……」的な、中越関係の「良いニュース」を演出する機会でもあったはずなのですが、そんなムードは100%吹っ飛んでしまいました(実際に英字ニュースでは、そういった中国軍事顧問団に感謝するエピソードも先月には紹介されていました)。
今年は年初から嫌なニュースが一段と多い中越関係ですが、実際に負傷者が出る事態にまでいたってしまいました。今後のさらなる悪化も懸念されます。
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*本記事はブログ「ハノイで考えたこと」の2014年5月8日付記事を、許可を得て転載したものです。