■台湾学生の立法院占拠まとめ3月18日から4月10日まで続いた学生による台湾立法院の占拠。すっかり出遅れてしまって今さら何をという感じもしますが、遅ればせながらちょろっと書いてみようか、と。
とはいえ、すでに優れた記事がたっぷりあるので、全体像についてはそちらを紹介するにとどめます。
*経緯や社会の雰囲気についてのすばらしいまとめ。(要登録、無料で読めます)
鵜飼啓「台湾立法院占拠、ぼくたちの23日間戦争」(朝日新聞デジタル、2014年4月17日)
*議場内の雰囲気や中国本土に対する反感について。
安田峰俊「なぜ台湾は、今でも学生が国家を動かせるのか?」(週プレNEWS、2014年5月8日)
*馬英九政権はなぜ大陸との貿易協定締結を急ぐのか。FTA外交でライバル・韓国に遅れをとる中、いち早いTPP加入を目指す。TPP=対中包囲網と警戒する中国を納得させるための中台接近。
西村豪太「台湾「学生の乱」の陰にTPP巡る米中綱引き」(週刊東洋経済オンライン、2014年5月11日)
■「民主主義じゃメシが食えない」
さて、本サイトで紹介するのは立法院占拠から1カ月近くがたった後の話。世界最大の電子機器OEMメーカー、フォックスコンを傘下に持つ鴻海集団の郭台銘会長のお言葉です(アップルデイリー)。
台湾経済は実際のところそんなにひどくもない。経済構造は転換しないとだめだがね。それなのに1回の“通りすがり”、1回の街頭運動でどれだけの社会資源を消耗していることか。民主主義ではメシは食えない。民主主義は経済力に依存しているんだ。競争力、向上力、各種活動の背後にはいずれもコストがあるが、(デモなどの)見えないコストがどれだけ国家のリソースを消費しているか。
(…)民主主義はGDPには何の役にもたたない。民主主義が国家の重要な人材、政府のエネルギー、治安維持の警察力を無駄に浪費されている。
「ザ・炎上発言」とでも言いましょうか。囲み取材での発言でリップサービス的に口が滑った部分もありそうですが、立法院占拠からの流れで民主主義に対する意識が高まっているところで、「民主主義ではメシが食えない」との発言はさすがにちょっと。きっちり炎上しています。例えば発言からすでに10日が過ぎた18日の
自由時報電子版にも、台湾企業が被害にあったベトナムの反中デモを例に出し、「民主と法治は経済の礎なんですよ。わかってますか、郭さん」と嫌みをいう記事が出ています。
もっとも台湾はメシを食っていくためにはさらなる中国との関係緊密化は避けられないと考えている人が多いのも事実。おっさんになればなるほど、「学生たちのピュアハートは高く評価するけど中国接近路線は変えるべきじゃない」という考えを持つ人も多いのではないか、と。その意味で郭会長のド直球な発言は問題の急所を指し示すものと言えるかもしれません。
■“通りすがり”と”散歩”もう一つおまけ。上述の郭会長の発言に“通りすがり”(原文は路過)という言葉があります。これはいったいなんなのでしょうか。
台湾でもデモには当局への事前申請が必要なのですが、「デモじゃないよ、通りがかっただけ。ついでになんとなくスローガンを叫んでしまった。てへ」という建て前で無認可デモを行うのが“通りすがり”(路過)です。例えば4月11日には1500人もの市民が警察を包囲、「市長やめろ」などのスローガンを叫ぶ騒ぎがありました(
アップルデイリー)。
実は中国本土にも似たようなものがあります。それが“散歩”です。「デモじゃないよ。散歩していたらたまたまみんな同じ場所に集まってしまっただけ。たまたまみんな同じ色のリボンを身につけているけどそれもたまたまだからね」という建て前の無認可デモです。2007年のアモイPX(パラキシレン)工場建設反対の散歩で広く知られるようになり、その後も都市部の環境問題などでたびたび出現しています。
“散歩”はデモ禁止の独裁国家・中国ならではの智慧などと思っていたのですが、民主主義の台湾でも似たような“通りがかり”が登場するというのはなんとも面白い現象です。
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