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ベトナム政局から読み解く南シナ海の中越対立=反中感情が首相の追い風に(じんじん)

2014年05月29日

■ベトナムの強硬姿勢、その裏に見える配慮

膠着状態が続く南シナ海を巡るベトナムと中国の対立。これまでの漁船を巡った小競り合いとは違い、実効支配をする西沙諸島での石油掘削という目に見える経済活動を中国側が止めない限り、緊張緩和の糸口はなかなか見つからなそう。

これまで中国に対して一歩も引かないという姿勢を見せているベトナム政府、もちろん領土主権の問題での中国の一方的な行動に引けないのは確か。ただ強硬一辺倒ではありません。2014年5月28日付BBC Vietnameseは「なぜグズグズしているのか、国連なりなんなりで中国を訴えないのか?」との記事を掲載しています。この点では、やはり根強い中国への「配慮」も見逃せません。
 

国民レベルでは反中がマジョリティを占めていますが、記事「中越国境発砲事件、「中国人」のベトナム侵入から読む少数民族問題」でご紹介したとおり、対立の一方では共通の政治的課題も抱える、同じ共産党仲間でもあるわけです。


■反中一辺倒ではないベトナム政界=トップ3の態度を読み解く

またベトナムの対中批判も、子細に見ていくいくと微妙な“ひだ”があるのが読み取れます。その背景にあるのは2016年の共産党党大会を目前にした「政治の季節」です。中国という大国とどう関係を結ぶのか。政局にとっても無視できない要素なのです。

ベトナム政界のトップ3といえば、共産党総書記、国家主席、そして首相です。この3人の発言を追うと、微妙な対立が読み取れるのです。

抑制的なのが共産党総書記のグェンフーチョン総書記。今回の問題について、ほとんど発言が伝えられています。ベトナムのトップという立場、また同じ共産党の「同志」として、中国へのだめ出しを控えることで対中関係のダメージを最小限に抑えようという意図が読み取れます。

また彼自身のポジションももともと「親中」なのです。中国国際放送局(CRI)ベトナム語版の副主任であるHoàng Vĩnh Tuyết氏は、2011年にBBCベトナムの取材に答え、ベトナム政治リーダー層には根強い親中国派がいると強調。その代表がグェンフーチョン総書記だとコメントしています。ベトナム世論でも総書記は親中派とのイメージが広がっています。

ナンバー2のチュオンタンサン国家主席。国家外交の最高責任者という立場から発言がありそうなものですが、こちらもあまり発言していません。あまりに表に出てこないので、「この人捜してます」などと行方不明者扱いされた画像がネットでばらまかれるほど。

20140529_写真_ベトナム_西沙諸島_


チョン総書記ほど親中派の色は出していませんが、国民が求めるような「反中」の旗色は鮮明にしていない印象です。

今回の問題で、最も多く、そして強気の発言をしているのがナンバー3のグェンタンズン首相。21日にフィリピンを訪問した際には、「ベトナムは自衛以外での軍事行動は取らない」「主権は神聖で、それを非現実的で隷属的な平和とは交換しない」と発言。多くのメディア、識者に引用される「名言」となりました。

ベトナムネット民も好意的な反応を見せていて、不人気だった首相の人気回復につながっている感っも。ありありです。冒頭で紹介したBBC Vietnameseも「首相の声が最も国民の声を反映している」とのベトナム人研究者の評価を伝えています。


■ベトナム政局から読む中越対立

前述したとおり、ベトナムは次第に「政治の季節」に突入しつつあります。2016年初頭に第13回共産党党大会が予定されているのです。

今年2月末には、人材選抜プロセスとして中央省庁などの副大臣級44人をガツンと人事異動させています。ズン首相の息子で、元々建設省副大臣であったグェンタンギー氏のKienGiang省党副書記に異動が決まりました。首相の息子もまた党大会に向けての激流に身を任している一人なのです。

ズン首相の立場はかんばしいものではありませんでした。高インフレを招いた経済失政。また国営企業の汚職問題で近いポジションにいたことで政治局で譴責決議が出たこともあります。国家主席は首相を追い詰める側に回り、党書記も黙認していたと伝えられています。

意図したものではないとは思いますが、今回の中国との対立は首相の逆襲にとって追い風と働く可能性もあります。1996年から共産党政治局常務委員を勤め、2006年からは首相の座を守り続けているズン首相。次の改選では首相再々選を果たし、国家主席まで兼任するのではないかとまで噂されています。

中国の存在感がとてつもなく高まるなか、中国国内のごたごた、派閥争いなどは日本でもかなり詳細に報じられますが、ベトナムも負けてはいません。中国と同じ社会主義国として、選挙など表には出にくい部分で暗闘が続いていますし、その戦いが外交に与える影響も決して小さなものではありません。

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(執筆者・じんじん)
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