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マフィアの要請受け特殊警察が政治家を暗殺か、バングラデシュを騒がすナラヨンゴンジ殺人事件(田中)

2014年05月30日

ある地方都市で起きた誘拐殺人事件がバングラデシュ全体の政治問題を大きく揺るがすような事件になりかねない事態になり、注目を集めている。この事件、バングラデシュの政治に関わる人々の暗部が垣間見えて非常に興味深い。


■事件の経緯

ナラヨンゴンジはダッカに南東に隣接した、河港のある都市である。ダッカーチッタゴンロードの出発地点であり、古くからバングラデシュ特産のジュートの集積地として栄え、最近では一大縫製工場地帯となり、繊維の街として発展してきた街である。日本で言えば東京都と川崎市のような関係といえば理解が早いだろうか。

この街で4月27日にナラヨンゴンジ市区長を含む7人が誘拐された。のち、31日に彼らは市郊外の川岸、ホテイアオイの群生の中で一人を除き死体となって発見される。死体は腹部を切り開き、中にレンガをつめ込まれた状態で袋に入れられていた。死体が浮上しないように細工をしていたが、何らかの理由でガスが溜まり浮かんできたと思われる。
(ナラヨンゴンジは日本でいう政令指定都市にあたり、市の下に幾つかの行政区が存在する。今回殺されたのはその行政区の首長だった。)

Dhaka steamers (Bangladesh)
Dhaka steamers (Bangladesh) / Ahron de Leeuw


殺されたのが普通の一般庶民だったら、事件はこの後毎日全国紙をにぎわすような事にはならなかったかもしれない。だが、彼らがナラヨンゴンジ市長が懇意にしていた政治家とその関係者だったことが事件を大きくした。この事件を受けて区長を支持していた市民が暴徒化。一時、ダッカーチッタゴンロードが市民によって道路封鎖される事態となった。


■マフィアの要請で特殊警察が暗殺か

また殺された区長側からの声明で、犯人として容疑がかかったのが特殊警察組織RAB(Rapid Action Battalion)の現地幹部、さらにその背後にいたのが現アワミ政権の国会議員とその支配下の政治家であったことがさらに問題を大きくしている。RABはある政治グループを通して6000万タカ(約8000万円)を受け取り、7人を誘拐したのち、殺人。その後死体が見つからないように河に沈めたらしい。

第一容疑者とされているヌル・ホセインはナラヨンゴンジ市の地元では有名なマフィアだ。バス路線利権の確保のみならず公共事業の不正入札、建設用の砂の不法採取(川砂を無秩序に採集すると川底の地形が変わってしまう。橋の崩壊などが起きたために起こしたことがあるため政府が規制している)および販売、さらには麻薬取引や武器の売買など、ほぼあらゆる地下ビジネスを行っていた。

事件の2週間ほど前、ナラヨンゴンジ市当局から反社会的ビジネスをやめるように警告されていた。この反発としてこの事件を起こしたと考えられている。

マフィアビジネスは通常、地元政治家と警察に便宜を計ってもらう代わりに、それに見合った礼金を支払う。政治家の場合はそれが政治資金になる。警察の場合はそもそもの給料が安いため自身の生活を維持するためにも様々な形の副収入が必要なのだ。ヌル・ホセインはナラヨンゴンジ地区選出の現役国会議員のオスマン・シャミンの支配下にあったといわれている。

そして、RABへの口利きを行ったと言われているのが災害担当大臣の血縁者である。大臣およびその血縁者の関与が実際どれくらいあったかは定かではない。


■政治家の“消失”はよくある話

この事件、もともとは地元政治家の派閥争いに端を発している。国会議員シャミンと現市長セリナはいずれもアワミリーグ所属だが以前から政治的なライバル関係にあった。殺された地元政治家は市長派、第一容疑者ヌル・ホセインは国会議員派という構図である。

市長側からの国会議員派のさまざまな過去の悪事の暴露が連日新聞報道を賑わせている一方で、一般の地元民はのちの報復をおそれてか、証言を求められても口を濁す人々が多いという。

このような政治家と政治に関わるビジネスマンが「突然消える」ということは今回の事件だけではない。今回はたまたま死体が浮き上がってきたことで殺人事件として立件され、動き出した。またアワミリーグ同士の内部抗争だったこと、ナラヨンゴンジ市長が政治的に影響力を持っていたことが事件を事件として扱うことができたのである。

2009年以降のアワミリーグ政権下だけでも数人、BNPの幹部が行方不明になっている。これについては死体が結局見つからなかった事もあって事件はうやむやになったままだ。警察が捜索を意図的に手抜きした可能性もある。現在、この行方不明事件についてもRABの関与が取りざたされだしている。


■政局動かす要因となるか

また、今回の事件でさまざまな法規制を政治家が一部の人間に抜け道を与え、その見返りを政治資金にしていく仕組みが強固に存在しているのが明るみになった。さらに治安維持組織であるエリート警察が「金で人殺し」をやったという不祥事は民衆の不信を増大させ、国家の威信を損なう要素として大きい。

発覚した汚職事件にたいして、アワミ政権が自分自身でみそぎができることを証明できない限り、民衆の強い反発を招くことになる。現在のところ、殺人実行犯容疑者である警察官たちの逮捕、起訴が事件からひと月近くたってやっと行われたところである。さらに関与が疑われている国会議員や大臣達らにどこまで余罪が及ぶのかも争点になってくる。

もう一点、殺人容疑のかかった警察幹部は陸軍出身者であることも別の問題を引き起こしかねない。陸軍の汚職に関してはこれまでタブー扱いなのがバングラデシュの常識である。これに関してどこまで踏み込んだ対応をするのかも注目される。ただし、アワミリーグ内部ではどこまでがトカゲの尻尾として扱われるか線引きはすでに行われているのではないだろうか。

野党BNPは、今年初めに選挙ボイコットという不満足な形で敗退していらい、大きな動きを見せられないでいる。彼らにしてみれば、このスキャンダルをなんとか大きく政治問題に広げたいところだろう。大臣クラスまで関係が取り沙汰されるような政治スキャンダルイベントは数年に一回しか発生しない。このスキャンダルをモノに出来ないようでは、政権奪取はしばらくおぼつかないだろう。

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■執筆者プロフィール:田中秀喜
1975年生まれ。メーカー勤務、青年海外協力隊、JICA専門家を経てバングラデシュでコンサル業を起業。チャイナプラスワンとして注目されながらも情報の少なさから敬遠されがちなバングラデシュの情報源となるべく奮闘中。

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