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とっくに「風化」していた天安門事件、しかしその記憶は中国共産党を「呪縛」(高口)

2014年06月05日

Tiananmen, or Gate of Heavenly Peace
Tiananmen, or Gate of Heavenly Peace / Mal B


■とっくに「風化」していた天安門事件


2014年6月4日、天安門事件25周年を迎えました。メディアの関連報道が乱打される中、作家の安田峰俊さんが興味深いツイートをしています。





なるほど、中国の「意識高い系」の人ではなく「普通の人」とお話しすれば、「風化」は当然の事実です。

初めて中国の普通の人とお話しして、「天安門事件についてどうお考えですか?」「なにそれ食えるの?」というやりとりで受けるがっかり感は、中国人が「日本の友人よ、君が知らない事実を教えよう。日本政府は隠しているがかつて日本は南京大虐殺という蛮行を行ったのだ」「あ、知ってます。教科書に載ってました」というやりとりに匹敵するのではないでしょうか。

いやいや、そんなことはない。中国では大規模なデモや暴動が頻発しているではないか。独裁政権への人民の怒りは頂点に達している!そうお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、現在、中国で起きているのは「うちの近くに危険な化学工場をつくるな」「村の共有地を売り払ってその金をネコババしやがった」「賃上げ少ない」などなど、自分たちに直結する問題に関してのもの。全国的に波及するような可能性を持った運動はないのです。


■天安門事件を一番記憶している中国共産党

こうした状況で、天安門事件の記憶を一番はっきり持っているのは誰かというならば、それは他でもない中国共産党でしょう。メディア・ネット検閲、異見分子の逮捕など徹底的な強硬姿勢で取り締まるのは、「自分の担当で問題起こしたら経歴に傷がつく」ことを恐れる官僚的発想もありますが、それ以上に天安門の記憶がぬぐいされないからです。

さらに習近平体制になってからは政権の正統性が新たな課題となったことも拍車をかけています。民のことなど意に介さぬ独裁者ならば気にしなくていい話なのでしょうが、民草に愛されて65年を売りにしている専制君主的支配者としては、「なぜ自分たちが支配者であるか、その証明」を迫られています。

ストライキがあったと聞けば人民の側に立って調停し、ベトナムがなめた態度をとったと聞けば「強い中国」をアピールし、大洪水が起きたと聞けば決死の覚悟で土嚢を積み、毒食品が出回ったと聞けば中小工房をぶっ潰し、外資系企業が暴利と聞けばきつくお灸を据え……。専制君主も大変なのです。

ましてや今後、中国の成長率が低下していけば、「未来にはもっとステキな生活がある」と我慢していた人民の不満も高まるでしょう。新たな正統性確保は喫緊の課題なのです。


■事件の記憶が中国共産党を呪縛する

さてどうやって正統性を担保するか。習近平は「清く正しい中国共産党の復活」によって証明する道を選んだようです。汚職官僚の摘発、紀律引き締め、SNSなどネットを使った共産党のステキさ宣伝などなどがその手段に選ばれました。

習近平には「清く正しい中国共産党」の復活という無理筋の道を歩む以外にももう一つ選択肢がありました。それは法治と言論の自由、民主主義の段階的導入です。巨大な利権集団と化した中国共産党がこの選択肢を選ぶことは困難なことは間違いありませんが、政権の正統性確保としては王道。少なくとも「清く正しい中国共産党」の復活よりはまだ可能性を感じます。

ただし中国共産党に天安門事件の恐怖が強く刻まれている間は、政権転覆を恐れてそうした道は取れないでしょう。天安門事件の記憶に怯えて身動きがとれない間に、中国共産党は貴重な時間を浪費してしまっていると言えるのかもしれません。

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