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中途半端な言論検閲、天安門事件報道に見るベトナム式ネット規制(いまじゅん)

2014年06月07日

■ベトナムは天安門事件をどう伝えてるかー「越南式」ネット規制とは?■

今年で25週年を迎えた天安門事件、実は元々中国屋を目指していた自分にとっては、若かりし頃、その重要性は理解出来なかったもののインパクトは非常に大きかったのを覚えています。その事件からもう25年か……と感慨深く感じていたところですが、かといってハノイでその話題をする相手も周りにあまりいません。というわけで「ベトナムメディアはどう伝えるかでもチェックしてみるか」と思いつきました。
 

■見えたり見えなかったり……の天安門事件

メディアをざっくり見た最初の感想について以下のようにツイートしました。

「ハッキリ言って似たような共産党独裁体制のベトナム、天安門事件はどうメディアに出ているか?今朝TuoiTre(紙)には無かったが、ネットは結構書いてる。中国の公式見解も紹介しつつ、欧米メディア報道から当時を振り返る等自由な書きぶり。」

実際、結構大胆だなと驚いていたのですが、もう一度記事を確認しようとベトナムエクスプレスのサイトを見ると、「リンク先は見つかりません」とのお知らせ。記事削除という事態にやっぱり規制されていたんだと認識しました。他サイトはどうかなと思って確認すると、戦車と火炎瓶やら、かの有名な「タンクマン」やら、普通に記事と写真が残っていました。


20140607_写真_ベトナム_天安門_
*「リンク先が見つかりません」の表示。

写真も出すなど結構詳しい書き方のものもあり、報道が完全に規制されているわけでもない……。これはどういうことでしょうか?

タイムリーにも、BBC Vietnameseがベトナム中央宣伝委員会のNguyễn Thế Kỷ副委員長にインタビューしています。天安門事件に関する報道は「規制はしていない」との答え。ところが6月4日前後にはBBCやCNNの天安門事件関連報道が流れると、「内容が適切でないので、番組は一時中断」とのテロップとともに、画面が映らなくなってしまったそうです。イキナリ画面真っ暗の中国よりは親切丁寧と言えるのかも。ただ私が見ていたNHKは普通に関連番組が放送されていました。英語はダメだけど日本語はスルー?ネットの検閲同様、テレビの検閲も中途半端です。


■全方位外交のための巧妙な方便?

この中途半端な検閲は一体なんなんでしょうか?

一つ考えられるのはベトナムが掲げる「全方位外交」のための措置なのではないか、ということです。つまり中国には「ハイ、ちゃんと規制していますよ」と削除したニュースを見せ、「言論の自由だ!」という欧米諸国には「いや、規制してませんよ、ほらニュース報道されてるじゃない?」と言える。どこを相手にしても、八方美人できるようにしているのではないでしょうか。

メディアの自主規制の可能性は否定できませんが、一度公開された記事の削除は当局の横やりがあったと見るべきでしょう。明らかに検閲しているのに、白々しくも責任者のKy副委員長が否定しているわけで、この姿を見るにの全方位八方美人説はあり得るかなと考えています。


■常にゆるゆるな「越南式」ネット規制??

もう一つの有力説は、単なる「ゆるゆるネット規制」説。今はベトナムでもかなり自由に使えるようになったフェイスブックですが、一時期は規制対象でした。ただその時期でも規制は簡単に突破できる、やる気のないもの。また同じ国内でも地域ごとにアクセスできたりできなかったりと対策の不徹底が目立ちます。現在、ツイッターが規制されているようなのですが、やはり超ゆるゆる、規制ではなくてただの障害なのかなと思ってしまうほどです。もし仮に当局が規制対象にしていたとしても、「予算がない」「時間がない」との理由で現場が消極的抵抗をしている可能性も高そうです。

この手の不徹底はネット規制にかぎりません。ベトナムでは大仰に政策が決まっても、隅々まで徹底されることはほぼないのです。中国のように莫大な国家予算と労力をネット規制に使えるわけでもないので、規制の対象は基本ベトナム語のみ。外国語、とりわけ英語以外の記事にはお手上げでしょう。

今回の天安門事件に関するネット規制のゆるさも、たんなる「越南式」の延長なのかもしれません。


■考えたこと
八方美人説とゆるゆる説、2つの可能性を考えてみました。どちらかという「ゆるゆる」説が近いのかもしれまえんね。加えて言えば、予算と「重要性」に応じて柔軟に対応していると言えるのかも。ベトナム国内での「敏感な」ニュースならもっとちゃんと規制したでしょう。「自主規制」ももっと強力に働いたはずです。

天安門事件に関しては恐らく中国政府から検閲要請があったでしょう。また同じ社会主義国という立場からして、大規模な学生運動は知らせないに越したことはないという思惑もあったでしょう。ただ徹底的に規制するような予算も人員もいないし、今の対立状況で「中国に言われるがまま」規制すれば反発が起きるかも知れません。というわけで、中途半端な「ちょっと規制」が妥当なところだったのでしょうか。

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*本記事はブログ「ハノイで考えたこと」の2014年6月6日付記事を、許可を得て転載したものです。

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