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PM89 たかとり / naitokz
沿岸国の平和、秩序または安全を害すると認められる行為については具体的に12項目が列挙されている。武力による威嚇または武力の行使であって、沿岸国の主権、領土保全もしくは政治的独立に対するもの。またはその他の国際連合憲章に規定する国際法の諸原則に違反する方法によるもの。兵器を用いる訓練または演習。沿岸国の防衛または安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為。そして「通航に直接関係を有しないその他の活動」などが挙げられている。
では中国の巡視船はいったいどのような活動をしているのだろうか。基本的にはパトロールである。日本外務省はこれを「日本国領海内を徘徊・漂泊する事案」と称している。「徘徊・漂泊」と「通航」に違いはあるのか、ひょっとして無害通航権で認められる範囲内ではとの疑問が浮かぶ。ただし無害通航権を主張するには「継続的かつ迅速」な移動が求められるので、「徘徊」している場合は「領海侵犯」に該当すると解釈していいだろう。
ただし問題は中国巡視船が速やかに移動しているかのように見える場合だ。管見の限り、中国巡視船が領海に入った場合でも日本外務省が声明を出していないケースもあるようだ。これは「徘徊・漂泊」と判断出来ない動きをしていた場合ではないだろうか。
■中国は国際法に基づいた備え
「徘徊・漂泊」と「通航」の間で悩ましい判断を迫られている日本だが、中国側にはその心配はない。というのも中国は国内法である領海法第9条で、中国領海内を通航する外国船に対し中国政府は航行ルートなどに制限を加えることができると規定している。こうした制限は国連海洋法条約第21条に定められた国家の権利の一つである。
残念ながら、日本はまだこのような無害通航権に制限を加える法律を作っていない。そのため法律上も日本は一方的に領海を「侵犯」されるのみなのである。尖閣諸島の領海「侵犯」も日本の法の不備が招いたことと言えよう。
■国際法の無知は国際世論戦での失点につながる
日本では中国巡視船の「領海侵犯」が大々的に報じられているが、しかし上述のような国際法解釈についてはあまり知られていないのが現状だ。今、日本と中国は国際世論戦を戦っているわけだが、その前提となるのは国際法の知識だ。中国船が領海侵犯と騒ぎ立てたあげく、たんなる「無害通航権の範囲内」じゃないですかといさめられたら恥をかくのは日本である。
なお、領空に関しては「無害通航権」のような権利は存在しない。そこで航空機が他国の領空を飛行する場合は、その領域国に事前に許可を得なければならない(2)。そのため航空機が領空に連絡なく侵入してきた場合は、これは議論の余地なく「領空侵犯」と言える。
昨年、中国は東シナ海防空識別圏を設定した。日中関係をさらに悪化させ武力衝突の可能性を高めたという道義的責任もあるが、国際的にみてそれ以上に問題視されたのは防空識別圏内を飛行する航空機は中国の命令に従え、さもなくば武力行使もという条項だ。領空外を飛ぶ航空機に強制的な命令を出すというのは明らかな国際法違反。国際法を遵守しなかった中国が国際世論戦で失点した事例と言える。
(1)松井芳郎=佐分晴夫[ほか]『国際法』(第5版)有斐閣、2007年、137頁。
(2)前掲註(1)・159頁。
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