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中国最高学術機関にも思想統制、習近平が破壊する中国のマトリックス的バランス(高口)

2014年06月17日

中国の人文系最高学術機関、社会科学院で新たな思想統制が発表された。

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■中国=マトリックス説


私は「中国=マトリックス」説を唱えています。映画「マトリックス」の世界観を簡単に紹介すると……(ネタバレ注意)

未来の地球。そこはコンピューターが支配するデストピアだった。人間はコンピューターの生体電池とされ、カプセルの中で幸せな日常の夢を見ながら一生を終える。その夢の中で欺瞞に気づいた者だけが目覚め、レジスタンスとしてコンピューターに戦いを挑む。 

だがそのレジスタンスさえもコンピューターによって計画された人類支配の一環だった。どれほど幸せな夢を与えても一部のはねっかえりは必ず反抗してしまう。そういう異見分子にはさっさと目覚めていただき、自由にレジスタンスをエンジョイしていただくという構造なのだ。レジスタンスはやがて強大化するが適当なところで壊滅させ、また一からレジスタンスをやり直していただくというシナリオである。

中国も強力なメディア検閲、ネット検閲を導入しています。ほとんどの人がそんなに文句を抱かず「グーグル使えない?百度でいいやんけ」「Youtubeってなに?海賊版もたっぷり見られる中国動画サイトのほうがもっとステキだぜ!」と幸せライフを送っています。ただし目覚めた人は軽く一手間をかけるだけで海外の情報にアクセスできるようになるのです。

まあそれもそのはず。思想統制と愚民化政策も大事なのですが、エリートまでそうやってしまうと国中みんながバカになるという大変なリスクがあります。ネット普及前も参考情報という形で一部エリートには海外の情報が提供されていました。

というわけで、平凡に生きるならばそれもOK。目覚めた一部の人々も一線を越えない限りは許容されるといういかにもマトリックス的図式は中国社会の維持のためには必要なものだったわけです。


■習近平体制でマトリックス的バランスに亀裂

ところが習近平体制以後、そのバランスが崩れています。

例えば2013年中国共産党中央弁公庁9号文件。民主主義、普遍的価値、憲政、市民社会を喧伝するのは中国社会転覆を狙った西側の陰謀だというクレイジーな通達が出されました。その通達を受けて策定されたのが「七不講」(七つの語らず)。「普遍的」「報道の自由」「市民社会」「市民の権利」「共産党の歴史的過ち」などについて大学で教えてはならないという内容です。大学なんぞ目覚めた人の巣窟です。私が留学していた時も共産党を批判する先生なんぞごろごろしていましたが、そこも取り締まろうという構えです。

さらにネットオピニオンリーダーの逮捕があり、今春には自宅で天安門事件勉強会を開いた学者、弁護士が逮捕されるという事件までありました。逮捕者の1人、浦志強弁護士は今なお拘束されたままです。

この背景にはネットの政府批判ムードを共産党応援ムードに変えようとする習近平政権の「ネットを取り戻す」戦略があります。


■中国最高学術機関での事件

この流れの中で出てきたのが中国社会科学院の思想統制です。10日、中国社会科学院紀律検査グループリーダーの張英偉氏が報告。「3項目の紀律」(習近平が唱えた党の建設、党風廉政の建設、思想理論組織建設という精神)に照らして、社会科学院には4つの問題があると指摘。曰く、

(1)学術の隠れみのをまとって煙幕をはる
(2)インターネットを利用して国境を越えた謬論をでっちあげる
(3)敏感な時期になると関連する違法活動を行う
(4)海外勢力のピア・ツー・ピアの浸透を受けている

このうち3番なんぞは天安門事件勉強会を想定したものでしょうし、4番は海外の研究者と交流して率直に意見交換したりすることが当てはまるでしょう。

エリート中のエリートである社会科学院の皆様に海外の研究者と率直に意見交換するなというのは、マトリックス的バランスの破壊にほかなりません。体制におもねったポーズで済めばいいのですが、こうした報告が出た以上研究者の動きが多少なりとも制約されることも事実でしょう。

あんまり賢いやり方には思えないのですが、民心を取り戻すという大目標に向けた習近平体制の旅は続きます。

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