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ベトナム政局から読み解く南シナ海の中越対立(2)個人と組織の反中バランス(じんじん)

2014年07月02日

■ベトナム政局から読み解く南シナ海の中越対立(2)個人と組織の反中バランス(じんじん)■

5月初頭、南シナ海パラセル諸島近海で中国が石油採掘プラットフォームを設置。以来、中越の対立が続いています。両国の巡視船がにらみあい、時に衝突するなどのつばぜりあいが続いているほか、ベトナムは中国の強圧的態度を批判し中国が国連加盟国に中国の立場を伝える文書を送付するなど、国際外交の舞台にまで戦いは広がっています。

この中越対立、日本では主に「海洋領土拡大を目指す習近平の動き」「周永康を頂点とする石油閥の習近平下ろしだ」などなど中国側の事情に焦点を当てて伝えられています。ですが、ベトナムにはベトナムの事情があるわけで、ベトナム政局からこの問題に光をあてるとまた違った姿が見えてきます。
 


ベトナム政局と中越対立については以前、記事「ベトナム政局から読み解く南シナ海の中越対立=反中感情が首相の追い風に」で取り上げました。ベトナムトップの共産党書記、ナンバー2の国家主席、そしてナンバー3の首相の間で微妙なずれがあることを伝えましたが、今回はその続編となります。


■中間派から一気に反中転換?

対中関係では中間派と目されているチュオンタンサン国家主席。しかしここにいたって旗幟を鮮明にし始めました。

6月20日、自らベトナム通信社のインタビューを受け、中国を相手にベトナムは独自の主張を続けることを表明しました。ちなみにベトナムもまたメディア検閲が強力な社会主義国。このインタビューもメディア側から申し込んだのではなく、国家主席側が企画したものでしょう。

ちなみに「事態が起こってすぐの頃から、私はホーチミン市の選挙区民との会合で強い反対の意思を示していた」と、最初から対中強硬派だったと今さらのアピール。「いつから」というのがポイントだったのでしょう。

記事が出るやいなや、他の(国営・共産党系)メディアではその発言を大賞賛。インタビュー翌日のベトナムテレビでは、中国共産党さながらに「○○さんの発言を学ぼう!」的勉強会が開かれたというようなニュースも。「我々の代でダメなら、孫の代までも、領土主権は常に主張し続ける」と国家主席がまた大々的に出始めました(Tuổi Trẻ)。ここでメディア攻勢をかけて、自らの立ち位置を明確にしたことは確かでしょう。


■逆に威勢の良かった国会は……?

その一方、国会はちょっと腰砕けに。6月24日に閉会したのですが、1ヶ月前の国会開会直後は早々に「国会として南シナ海の問題に対して決議を出すべき!」と主張する国会議員が相次いでいたのですが、結局出さずじまい。

閉会時の記者会見で国会事務局のグェンハンフック事務局長は「国会の意思は、閉会時の国会議長スピーチで伝わった。プレスリリースでも触れているし、それが国会としての宣言だ。各国の国会議員にも我々の主張は発信している。」と発言。なぜ決議にしなかったとメディアからの質問が相次ぐと、「まあ決議は色々手続きもありますし……」とにごしています。

確かにグェンシンフン国会議長のスピーチはハッキリと中国の行動を批判しているので、情報としては十分発信できてはいますが、「国会の総意」という形では決議を出せなかったことに不満を漏らす議員もいるようです。ただ500人もいるベトナム国会議員には、党関係者はもちろん(というか9割以上党員です)、政府、学識者など色々なバックグラウンドの人がいます。対中関係では控えめな姿勢を貫いている共産党総書記だって国会議員の一人ですし。この雑多なメンバーをまとめ、「総意」としての対中非難決議は出せなかったというのが真実に近いのではないでしょうか。


■考えたこと:「個人」と「組織」でこれまたバランス?

個々の政治家は中国を非難できても「組織」の総意としては非難しがたい。このあたりが相場ではないでしょうか。ベトナム政界の対中観は一枚岩ではないことが浮き彫りとなりました。

ベトナムは中国同様共産党一党独裁の国ではありますが、それでも「国権の最高機関」たる国会が正式な中国非難決議を採択しなかったところに、微妙なバランスを保つベトナム政治の現在が見え隠れします。

ただし政界がバランスを保つことによって、反中感情が盛り上がる国民世論との乖離が広がることが気になります。政界と世論のずれが今後の火種と言えるかもしれません。

(執筆者・じんじん)
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