タクシン派インラック政権の最大の問題点とされたのは「米買い取り制度」。年1兆円の予算をぶっこみ、市場価格をはるかに上回る高値で農民から実質的に米を買い取るという壮大な政策です。
「たんなるバラマキではない!世界最大のコメ輸出国というポジションを生かし国際コメ価格をつり上げれば損はでないわい!」という「越後屋の買い占め」的構想を抱いていたのですが、「タイがコメ価格つり上げるってよ」との情報を察知したベトナム、インドがコメを増産。その目論見はガラガラポンと崩れます。
Harvest Thailand / lynhdan
また膨大な予算がつく政策だけに政治家がお小遣いを稼ぐ絶好の機会として汚職の温床ともなりました。インラック政権末期にはたまりにたまったコメ在庫を処分するべく中国と交渉。「中国版新幹線を買うからコメを買ってくれ」という新幹線とコメの交換という話まで浮上しました。
まあこのあたりの話はよく知られているところですが、番組ではもうちょっと細かいところが面白いのです。
■一度上がった生活水準は落とせない
・タイ北部のある農民。
インラックたん、最高だよ~。前は大豆も作っていたけど今はコメ一本槍。年収180万円と1.5倍になっちゃった☆
で、日本製のピックアップトラック(240万円)を買っちゃったんだけどね。軍政になって米買い取り制度やめられたらローン払えなくて死ぬる。
というエピソードが。ちなみにこの農民の息子さん、農家が儲かりまくるとサラリーマンやめて農村に戻ってきたそうで。
一回上がった生活水準を落とすのは大変です。7月に軍政は米買い取り制度の改革を発表。買い取り価格をこれまでのトン1万5000バーツから8500バーツにまで切り下げることになりました。一応、農機具購入や農業労働者雇用に補助金を出すという別の手当も発表していますが、すんなり行くのでしょうか。
国家の近代化は(うまくいくとすれば)
(1)農業地帯から収奪した金で都市を発展させる。農民むかつく。
↓
(2)都市労働者を安く働かせるためにはメシ(=食糧)を安くしなきゃいけない。農作物の価格を安く抑えてみた。農民むかつく。
↓
(3)工業化に成功。都市が生み出した富で農村に補助金。都市民はぶつくさ文句を言う。
という流れがあるのですが、タイはレベル3に行くまでの段階で都市・農村の対立が顕在化しちゃった感じでしょうか。
■軍が目指す都市・農村の融和
さてもう一つ、興味深いエピソードがタクシン派の支持基盤、農村を切り崩そうとする軍のアクションです。
トラックで農村に乗り付け、車座になって農民たちと議論。軍楽隊を動員して楽しいコンサートで農民たちの心をゲット。タイの危機を救うために国民が一丸となろうと訴える曲を作りメディアで流す。といった試みが映し出されていました。
中国でも統治が不安定な地域では官僚が村々をめぐり、農民たちと直接対話して安心させるという政策が遂行されているのですが、それが映像で見られたというのはなかなか興味深いものでありました。
この映像をとらせてくれたのもおそらくはプロパガンダ目的なんでしょうが、それにしても迷彩服を着た軍人さんたちの活躍をアピールしすぎていて爆笑物です。農民たちと話す時も、コンサートを開くときも迷彩服。米買い取り制度の在庫を確認するシーンでも迷彩服の人が抜き取り調査をやっていました。プロパガンダ用映像以外の実務は官僚さんがやっていると信じたいところではありますが、これだけ軍の威信を高めてしまうと、軍政終了後も「困った時はクーデターよろしく」的発想が強まりそうで不安になるのでありました。
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