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2014年08月25日
「江戸しぐさ」は、江戸商人のリーダーたちが築き上げた、上に立つ者の行動哲学です。よき商人として、いかに生きるべきかという商人道で、人間関係を円滑にするための知恵でもありました。江戸時代は、260年以上もの間、戦争のない平和な時代が続きました。その平和な安心な社会を支えたのが「江戸しぐさ」という人づきあい、共生の知恵です。
一部の町人エリートしか入会できないサロン「江戸講」の秘伝ながら、江戸庶民共通の哲学だった……というこの時点で矛盾が気になって説明が読み進められなくなるほど謎な江戸町人の秘伝マナー「江戸しぐさ」。明治維新を期に新政府は壊滅作戦を発動。歴史の闇に葬り去られたが、勝海舟の手引きで逃げ延びた一部の伝承者が後世に伝え、ついには日本国の教科書にまで掲載されるまでに復活した。
星海社サイトに詳しい内容説明があるほか、2章まで試し読みもできるので詳細については触れず、個人的に興味深く読んだポイントを紹介したい。それは「江戸しぐさ」の元ネタ解明だ。
例えば江戸ソップ。根菜とキノコを弱火で煮込んだスープが江戸時代にはあったというのが「江戸しぐさ」の伝承者の主張。本書は1990年代に流行した「野菜スープ健康法」が起源だと喝破している。
例えば火のし婆。「江戸しぐさ」を伝えるサロンである江戸講では客人の服にシワがついていたらアイロンをあててくれる人がいたという話になっているが、本書は「江戸しぐさ」の創設者、芝三光氏が戦後に横須賀の米軍将校向けクラブで働いていた経験が元ネタだろうと指摘している。
なるほど!と思わされると同時に、残念な気持ちになってしまう。根菜とキノコを煮込んだスープはおいしいだろうし、客人の服にアイロンをあててくれるサロンも貧乏人の私には無縁とはいえ悪い話には思えない。ならば何も江戸時代にそんな文化があったのだという話を創造しなくてもいいではないか。
「過去に素晴らしい時代があったのだからそれにならおう」というフィクションは世界中どこにでもあるありふれた話。お隣の中国でも儒教的な「聖賢の時代に戻れ」とはさすがに言わなくなったが、代わりに「古き良き共産党の時代に戻れ」が今のトレンド。
まあフィクションの過去にすがって現実が良くなるならそれでもいいのだが、さすがに今のご時世にフィクションを押し通すのは大変だ。「古き良き共産党なんてなかったんや」という知識が広がった瞬間に「じゃあ僕たちもいい世の中は作れないんだね、ガックリ」となってしまうロジックはいかがなものか。
良きことならばフィクションに頼らなくても受け入れていく。そうした身軽さを誇りとするような文化があってもいいのではないか。などと考えさせられる一冊だった。
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